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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−13 古巣の異変

「……あぁ、そうそう。さっきのジャーノンからなのだけど。古巣のルルシアナに異変があるとかで、彼の留守の間の事をリッテルにも相談してるのよ」

「リッテルに? そりゃまた……何で?」


 リヴィエル達を無事に見送って。今度はすぐ近くで剣呑な雰囲気を醸し出している、堕天使ペアのテーブルに向かおう……としていた所で、アーニャが更に気になることを言い出す。思い出探しに必要だからと、アーニャがリッテルと契約をしているのは知っているし、人間界暮らしの悩み事でマスターを頼るのも自然なことだろう。だけど……恋人のお願いさえも、天使のマスターに相談するのか? 


(アーニャはさっきのジャーノンさんに、相当に惚れてるんだな。だけど……相手は人間だよな? どう頑張っても、寿命が合わない気がするけど……)


 なんて、出されたお茶を啜りながら、当然の疑問をグルグルと頭の中で回転させていると。アーニャも分かってるわよ、なんて手をヒラヒラさせながら、いかにもなジェスチャーをして見せる。そうして、ちょっとだけ込み入った事情を説明してくれるけれど。俺……意図せず複雑な事情に思いっきり、首を突っ込んだっぽいぞ?


「ジャーノンさんが……悪魔とのハーフ、だって?」

「えぇ。こっちでは、フェイランって名乗っていたみたいだけど。……彼、そのフェイランの息子なのですって」

「……そ、そうだったんだ……?」


 フェイランと言えば、中身は虚飾の真祖・バビロンだったはず。そして……「真祖として、不要な存在でかなかった」と言ってのけたのは、当のバビロンその人。自分の領分さえもどこかに忘れて、なんだか頼りない印象しかなかった彼女に……まさか、息子がいたなんて。

 それにしても、なるほどな。ジャーノンさんが言っていた「そちら側に近い」っていうのは、悪魔のハーフという身の上を示してのことだったのか。そこには、相当に複雑な事情も見え隠れてしている気がするが……さっきの様子からしても、彼自身は「人間として」しっかりと生き抜いてきたんだろうと思う。


(真祖の息子って時点で、相当の変わり種には違いないだろうけど……。悪魔や精霊と人間のハーフ自体もあり得ないわけじゃないし……。だけど特別な鍛錬でもしなけりゃ、実質は人間とほとんど変わらないんだよなぁ)


 人間でも魔力の器持ち……ホルダーキャリアと言うらしい……はそれなりにいるみたいだが。魔力の器を持っていることがそのまま、魔法を使えることにはならない。器はあくまで魔力を捕まえるための仕組みではないし、器よりも魔力そのものが存在していることの方が重要だったりする。


(と思いつつ……魔法を使うには、やっぱり器持ちが大前提だけれども)


 しかし、魔法の原動力を捕まえるには、魔力に反応できる素質がどうしても必要になる。そして、その素質の集合体が魔力の器という概念になるらしく、魔法を「使うだけの能力」は有り体に言えば……魔力への適性があるかないかの違いだけという、あまりにもお粗末な結論になるそうな。

 だけど、魔法を使えるようになった先の「上手い下手」はそれこそ、本人の才能と努力によるものが大きい。魔法を「きちんと使う能力」は、「使うだけの能力」とは別枠のチカラだ。


(……全く。こんな種明かしをされたら、不安要素が増えるだろうが。これだから、面倒見のいい真祖様は……)


 周到な大商人のグリード様は、サービス精神も絶賛常設中。俺が悪魔の常識を知らな過ぎるのを、心配してくれると見せかけて……「魔力の器の見極め方について」なんて、お節介にも程があるおまけの説明書も魔法道具と一緒に寄越す始末。

 無事にお届けしたピキちゃんと、楽しそうにお喋りしているシルヴィアをチラと見つめながら……某大商人様のサービス品の内容も思い出すけれど。彼女の指を彩るあの指輪は、魔力に対する「素養の集合体」としての器を培養・育成するための魔法道具になるらしい。やれやれ……指輪の構造や魔力の器に関する知識を共有してくるあたり、本当にあいつは抜け目がないな。これは要するに……俺もシルヴィアの事を魔力の器も含めてしっかり見ておけ、って事なんだろう。シルヴィアにそこまでの負担を強いるわけではないにしても、女神様の魂(ピキちゃんと呼ばれています)が乗る以上、彼女のこれからには「魔法に対する姿勢」は相当に幅を利かせてくる内容に違いない。だから、シルヴィアが心配で仕方のない強欲の大悪魔様は、見守り役として領分違いのナンバー2までちゃっかり巻き込みやがった。


(って……そんな事、どうでもいいんだよ。今の本題は「古巣の異変」について、だろうに)


 こんな所でマモンの深過ぎる真意を思い知る俺だけど。今はあいつの悪巧みにゲンナリしている場合じゃなくてな。


「とりあえず、ジャーノンさんの出自はともかくとして。それがどうして、リッテルに相談する流れになるんだ?」


 なんとなく……本当の相談先はリッテルじゃなくて、それこそ強欲の真祖様な気がしないでもないが。アーニャにはマモンへ直接相談するツテも、立場もない。もちろん今のあいつなら、魔界で顔を合わせれば話くらいは聞いてくれそうだけど。多分、立ち話程度で済む内容じゃないから、リッテルを通した方が安全という判断になったんだろうことは想像もつく。


「……何でも、ジャーノンの話じゃ、古巣に残した新しいドンが誰かに乗っ取られたみたいでね。で……さ。どうも……ティデルの話を突き合わせると、その新しいドン……あっ、ビルって言うんらしいんだけど。彼、ティデルと同じ目に遭っている可能性が高そうなのよ」

「ティデルと同じ目……ってことは、何か? まさか……」

「その、まさかみたいよ? ジャーノンが言うには、マモンが持っていたのと同じような刀をビルが持っていたとかで。で、鞘の色は紫。その特徴からしても……ビルに成りすましているのは、陸奥刈穂って奴で間違い無いと思うわ」


 おぉう……。マモンに負けて、ティデルを手放したと思ったら……今度はカーヴェラの大物をターゲットにするとは。何がどうなって、彼がカーヴェラのマフィアに成りすましているのかは、サッパリだけど。いずれにしても、そういう事ならアーニャがリッテル……延いてはマモンに相談しようとするのも、分かる気がする。


「なんとなく、話が見えたよ。ジャーノンさんは、留守中のご隠居さんの身辺を心配しているんだな?」

「そういうコト。あいつであれば、陸奥刈穂とやらにも負けないと思うし。それに……」

「……陸奥刈穂を今度こそ、捕まえられるかもな?」


 人の手から手へ渡り歩いて……気に入らなければ、持ち主を喰らう呪われた妖刀・陸奥刈穂。そんな危なっかしい相手を捕まえるチャンスともなれば。天使様的にも、真祖様的にも……無視できない事案になるだろうな。

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