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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第19章】荊冠を編む純白
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19−8 採択してはならぬ手段

「さて……と。改めて、仕切り直しといこうか」


 天使長室の円卓。諸々の茶番も受け流さんと、上座のルシフェル様が厳かな咳払いを漏らす。そうして促されるように、私も着席するものの……結局、ミシェル様とラミュエル様はヴァルプスちゃんの出撃を止めきれなかった様子。彼女を納得させるには、もう少し手の内を明かす必要があるという判断に至ったのだろう。見れば、ラミュエル様の背後にはちょっと怖い顔をくっつけた飛行物体が、こちらの様子を訝しげに窺っていた。


「まずは、ルシエル。お前の話から聞こうか」

「承知しました。……昨日はヴァンダートで使われた魔法の正体を教えてもらいに、竜界へ行って参りまして。そちらで竜界の長老でもある、ディバインドラゴン・オフィーリア様にお話を聞くことができました。結果……使われた魔法が、ディバインドラゴンの固有魔法・ルートエレメントアップだという事が判明しました」

「ルートエレメントアップ? 聞いた事がない魔法だけど……オーディエルとラミュエルは知ってる?」

「いや、私も知らぬ魔法だな。……竜族の固有魔法だという時点で、強力な魔法であることは何となく予想ができるが……」

「そうね。もしかして、デュプリケイトガイアと同じ感じの魔法なのかしら?」

「……いえ、デュプリケイトガイアとルートエレメントアップの効果は、全くの別物です。確かに、ルートエレメントアップも相当に高度な魔法であることに変わりはなさそうですが……正直なところ、使わないで済むのなら、それに越した事はない魔法ではないかと」


 そうして、粛々と竜界で確認してきた事を説明していく。ルートエレメントアップは発動と同時に霊樹をコントロールする事はできるが、本来は支配するための魔法ではなく……霊樹が正常化するまでの役目を肩代わりする補助魔法だという事。発動には、ディバインドラゴン自身の命を消費しなければならない事。そして……。


「……展開済みのルートエレメントアップの効果を打ち消すには、新しいルートエレメントアップを発動させればいいとの答えでした。しかし……」

「お前の話からしても、それは採択してはならぬ手段だろうな。だが一方で……ローレライに対してルートエレメントアップが使われていたのなら、既にローレライは誰かの手に落ちている可能性もあるということだろう。本来は支配するための魔法ではないという事だったが……コントロールできるという時点で、支配だと勘違いする奴があるかも知れん。……なるほど。これは確かに、急を要する内容だな。そして……問題は新たなルートエレメントアップを発動させる事なく、現在発動中のルートエレメントアップを打ち消さなければならない、という事か」


 ルシフェル様のおっしゃる通り、ルートエレメントアップが「支配」の側面でローレライを縛り上げている場合は、既存の魔法効果が「正常化」に向いているとは考えにくい。それでなくても、長老様は今発動されている魔法は「正しくない形」で展開されているとも言っていた。魔法の術者だろうギルテンスターンの名前を書き換えて、強制的に発動された魔法だという事だったし、何より、ルートエレメントアップのコントロール権は魔法発動と同時に契約主に移されるらしい。だとすれば……向こう側で暗躍している天使のうち、何故か私が預かる羽目になったウリエルではない方の天使が、コントロール権を握っていると考えていいだろう。


「この場合、ルートエレメントアップを掌握しているのはミカエル様である可能性が非常に高いと言えそうです。ウリエルの方は魔力が不足していて、満足に魔法を使えない状況だったようですし、何より……」

「何より?」

「……成り行きで現在、ウリエルは私の屋敷に身を寄せております。なんでも、あちらの拠点を我々が制圧したのが相当に堪えたようでして。……自身の行いを反省しているかどうかはさて置き、ハーヴェンの見立てでは相当に精神的に凹んでいるだろうという事でした」

「ウッソ! あのウリエル様が……今、ルシエルの屋敷にいるの⁉︎ それ、めっちゃくちゃ、訳分からない状況なんだけど!」

「えぇ。私も理解に苦しむ状況ですが……彼女はしっかりと屋敷におりますね、現在進行形で。昨晩は夕食もデザートもキッチリとお召し上がりになり、初めての食事に感動の涙を流されていました」

「……し、信じられん……!」


 そうですね、ルシフェル様。私も全くもって信じられませんし、この状況を受け入れるつもりもありません。

 しかし、うちの旦那はウリエルの懐柔にも乗り気らしく……今朝のスープも気に入ってくれるといいのだけどと、ご機嫌な様子で食事の準備をしていた。あのお人好しの悪魔は、冗談抜きでどんな相手にも選り好みする事なく、料理を食べさせたいクチらしい。それが暴食の悪魔としての本能だと言われれば、私も引き下がらずを得ないのだが……。


(……解せぬ……。これでは、私の分が減るではないか……)


 尚、今日持たされた食材リストは品数も分量も、さり気なく増えていたりする。このことから、おそらく私の食事が減る事はないだろうとも思う。そして、ハーヴェンは本気でウリエルの面倒もしっかりと見るつもりのようだが……私としては、やっぱりちょっと納得できない。

 ……リストにあるピーマンは、今回も無視するとして。それはさて置き、どうしてあのピーマン男はこうも誰彼構わず……しかも、憎んでいてもおかしくない相手とまで……仲良くできてしまうのだろう。ウリエルに食事を振る舞う以前に、ハーヴェンの底抜けのフレンドリーさが、私としては何よりも理解に苦しむ習性だった。

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