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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−56 最高の褒め言葉

 天使様の鉄拳を頂戴し、転がって見上げた空間は、やっぱりどこまでも真っ白で。天井や壁の境なんか、どこにもありはしない。竜女帝様の話では、ハミュエルさんを解放するにはこの世界を「壊せばいい」という事らしいけど。多分、こいつは物理的な手段じゃなくて、魔法的な手段を想定しているんだろう。


(魔力が足りていない状態……か)


 しかし、魔法を使うにはどうしても、魔力が必要だ。そして、いつになく大人しいミカ様(中身はウリエルさん)は、今まさに魔力が足りなくて困っているらしい。……天使だろうと、堕天使だろうと、やっぱり人間界での魔力調達には苦労するもんなんだな。


(だとすれば、やっぱり……)

「……ハーヴェン。いつまでわざとらしく、寝転んでいる。サッサと起きないか」


 って、本当にルシエルさんは理不尽なんだから。自分で吹っ飛ばした相手に、そりゃないだろ。


「へいへい……ルシエルは本当に凶暴なんだから。まぁ、それはさておき。どうする? ミカ様も一緒に来るでいいんだよな? それで、この世界を魔法でぶち壊す……と」

「えっ? ……私は何も、そこまで許可するつもりは……」


 だけど、ね。ルシエルさん。今ここであなたが折れてくれれば、事態が丸く収まるんですのよ?

 もちろん、ハミュエルさん自身に迷いがあるのも、見え見えなんだけれども。少なくとも、ミカ様の受け入れ先が見つかれば、晴れてこの世界からおさらばできるんではなかろうか。……もちろん、彼女の言う「最後まで見届ける」使命感も放棄させることにはなるんだけど……でも、お役目はこちらで引き継げばいいワケだし、そろそろ他の誰かにバトンタッチするのもアリだと思う。


「ほれ、よく言うだろ? 罪を憎んで人を憎まず、ってさ。それに、自分でも言ってたじゃないか。罰は必要かもしれないけど、挽回のチャンスを与えるのも必要な事だって。それ、ウリエルさん相手だと、ナシの判定になるのか?」

「うぐッ……! そこで、器用にそんな事を思い出さなくても、いいだろうに。……分かったよ。そういう事なら……処遇の沙汰が決まるまで、私の管轄下で預かってやるさ。……これで、満足か?」

「ふっふっふ。それでこそ、俺の敬愛する嫁さんというもので。ご褒美に今夜のケーキ、チョコクリームを増量してあげちゃう」

「……2倍で頼む」


 2倍って……どんだけ、クリームを盛るつもりだよ。


「ふふふふ……アッハハハハ! 本当に……本当に、ルシエルは食いしん坊になったのだな。ふふふ……堅物のルシエルが、こうも食べ物に釣られるようになるなんて……!」

「い、いえ! 別にそういう訳ではなくて……! そ、そうだ! この場合はハーヴェンが悪いんです!」

「……うん?」

「だ、だって! ハーヴェンの料理が美味しすぎるのが、1番良くない! 食いしん坊にならざるを得ないだろ!」


 ……すみません、ルシエルさん。それ、悪口と見せかけて……最高の褒め言葉なんですけれど。ご自覚、あります?

 厳密には、ルシエルの食いしん坊加減は「俺色に染まった」せいでもあるんだけど。それをここで言う必要は……まぁ、ないよなぁ。仕方ない。ここは素直に俺が悪者になれば、問題ないか。……何てったって、俺、悪魔だし。悪者にされるのも慣れてるっちゃ、慣れてる。


「とにかく、だ。この空間を魔法で壊せばいいって事で、合っているのかな。竜女帝様」

「おそらくは。生物としての死を超越している以上、肉体という楔がなくなれば魂は自然と離れていきます。……ハミュエル様の意識がおありの時点で、まだ間に合うかと」

「よーし! そうと決まれば、実行あるのみ、だな。……とは言え、避難することも考えないといけないか。そもそも、この白い世界がどういう原理で存在しているのかさえ、分からないし……」

「デュプリケイトガイアで作られた世界は、私達が普段いる世界とは別の空間軸に存在しています。厳密には少し違いますが……分かりやすく例えるのなら、皆様が固有の空間に荷物を預けているのと同様に、デュプリケイトガイアの世界も固有の空間軸を保有しているのです。そして、発動した段階で独立した固有の空間、固有の時間を持ち……術者である私が朽ちても、消滅することはありません。ただ……」

「ただ?」

「……デュプリケイトガイアは光属性の魔法であり、この空間は光属性の魔法では壊すことができないのです。その上、基本的には破壊することを想定していないため……四大属性の最上位魔法で、ようやく傷がつく程度でしょう」


 という事は、つまり……この世界を壊すには闇属性に頼るしかないってことか。だとすると、自動的に攻撃役は俺になりそうなんだが……。


「そっか。だとすると……う〜ん……どうしようかな。あいにくと、ポインテッドポータルも攻撃魔法も自動継続の構築を組み込めないんだよなぁ。まぁ、同時に発動すれば何とかなるか? ……いや、無理か。それでも、逃げる時間を確保するのが難しいような……」


 こういう時、攻撃魔法のシンプルさが妙に恨めしい。攻撃魔法は種類によって継続時間が決まっている部分はあるとは言え、徐々に効果を発揮するタイプの魔法ではない。錬成度を高めて得られるのは攻撃力の増加だけで、他にできることと言えば、多段構築で範囲を工夫することくらい。……発動時点で持てる限りの最大火力で展開されるから、逃げる時間を稼ぐのは、ちょっと難しいだろう。


「……であれば、ハーヴェンはポインテッドポータルに集中すればいいだろう。……それと、ルシエルとやら」

「なんだ?」

「先ほども申した通り、今の私は魔力不足になっている。そこで……だ。お前の羽を分けてほしいのだ。……1枚でいい。大天使クラスの羽があれば、十分に魔力を補給できる。……ダークスクリームくらいは発動できるはずだ」


 俺がうぅむと、悩んでいると。意外や意外、ミカ様がとっても協力的な事をおっしゃる。どうやら……堕天しちまうと、闇属性の魔法が使えるようになるものらしい。ダークスクリームくらい、と彼女は事もなげにおっしゃるけれど。ダークスクリームはラグナロクを除けば、闇属性の魔法でも3番目に威力のある攻撃魔法だ。一応は中級魔法だが、初級魔法のダークディセイブよりは遥かに難しい魔法だし、何よりデフォルトで効果範囲が広いのが特徴だったりする。そのため、上級魔法のダークシンフォニアと同等の魔力を持っていかれたりするんだよな……。


「……全く、そういう事なら仕方ないな。……1枚とは言わず、ある程度の枚数をやるから、魔法発動をお願いしたい」

「ふん。お前……意外と話が通じるようだな? まぁ、いい。……私がポインテッドポータルを使うのでも、いいのかも知れんが。あいにくと、アンカーがある場所が微妙なのでな。……ここはハーヴェンのアンカーを使った方がいいだろう」


 視線や態度は刺々しいが、ご提案は筋が通っている。それはルシエルもしっかりと理解できるらしく、ケチケチせずに一気に羽を5枚も毟りやがった。そうして、痛みでちょっぴり涙目になりながら、プルプルと震えているのを見ても……これは、かなり無理をしているだろう。

 天使の羽は貴重な魔法道具の材料になったりするんだが、「新鮮なうちに」使わないといけないものらしい。そのため、魔界では基本的に手に入らない材料なもんだから、嫁さんがすんなり羽をくれてやったら、あのアスモデウスさえも痛く感動していたっけな。しかし……魔力の塊ということもあり、天使側にはきっちりダメージも入るご様子。あの時はアスモデウスの「トラップ」があったから、最初からフラフラしてたけど……今回はそれを抜きにしても、彼女の足元がフラフラしている。


「ほれ、ルシエル。大丈夫か? モフモフで癒してやるから、こっちにおいで」

「……そ、そこまで言うのなら、抱っこさせてやってもいいぞ?」


 もぅ〜。相変わらず、ルシエルさんは素直じゃないんだからぁ。悪魔のモフに夢中なのは、どこの大天使様なのかな?

 そうして、悪魔側に戻って抱き上げてやれば。態度では全力で甘えてくるのが、とにかく可愛い。とりあえず……嫁さんはこの状態で避難するのが、ベストみたいだな。

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