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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−52 災厄を撒き散らす元凶

 嫁さんと一緒に、竜女帝様の所にお邪魔してみれば。竜女帝様の方もずっと何かが引っかかっていて、辛かったのだと思う。彼女の話によれば、デュプリケイトガイアで作り出した世界は作った本人であろうとも、アンカーがなければ行き来できないものらしい。そんな中、俺がハミュエルさん行きのポータルを持っていると知るや否や……迷うことなくご面会を望んでは、「マスターの元へ馳せ参じたい」と返事を寄越すのだから……相当に気を揉んでもいたんだな。……きっと。

 それにしても……マスター、か。今のハミュエルさんは彼女自身が言った通り、既に天使とは呼べない存在になっている。それでも竜女帝様にしてみれば、ハミュエルさんがマスターであることに変わりはないんだろう。そう、だよな。契約は捨てざるを得なかったとしても……一緒に過ごした思い出まで、捨てる必要はないもんな。


「……エスペランザ。こうして会いにきてくれたのは、とても嬉しい。だが……私は災厄を撒き散らす元凶そのもの。今この瞬間とて、お前の体に障らぬとも限らん。このまま……ここで朽ちてゆくのが、正しき在り方だろう」

「いいえ。そんな事はございません。……契約が切れようとも、あなた様は私がお慕いしていたマスターであることは、疑いようのない事実。それに……こうして、素敵な友人達が再会の機会を与えて下さったのですから、一緒に歩み直すは今と考えるべきでしょう」


 俺達を「素敵な友人」と、有難いお言葉で示しながら、尚もハミュエルさんを説得する竜女帝様。

 確かに、彼女は自分の意思でこの場所にやってくる事はできない。だが、デュプリケイトガイアの世界を壊す事だけであれば、方法はあるのだと言う。

 デュプリケイトガイアも分類上は、物質に対して作用する補助魔法の類いになるらしい。新しい小さな世界を作る……そんな大層な魔法を安易に「補助魔法」で括っていいのかどうかは、俺には分からないが。例えば、フィギュアエディットと同じように一定量の欠損を出してやれば、デュプリケイトガイアの世界も自ずと瓦解するんだとか。だけど……うん。やっぱり、これはフィギュアエディットなんかと一緒くたにしていい状況じゃないだろう。


 フィギュアエディットを始めとする、物体に対して作用する魔法にはある程度、共通する性質がある。フィギュアエディット然り、タイムリウィンド然り。作り替え後ないし、魔法展開後の対象に大幅な物質の減量があった場合、その場で魔法効果が無効になる。

 フィギュアエディットは作り替えた物体を「元に戻すまで」がセットの魔法であるため、作り替えた後の状態で壊したりすると、魔法は無効と判断される。しかも無効判定も結構、厳しかったりして……「ガッチャン! パリーン!」まで行かなくとも、ちょっと欠けただけでも元に戻せなくなり、形が変わっているために修理も困難になるという厄介事のおまけも付き。だから、フィギュアエディットを使うのは日常生活品に留めておいた方がいいし、大切な物の形状を変えるのはお勧めできない。しかも、継続発動型の魔法でもないから、魔法効果が出ている時間を計算しておかないと、使っている最中でも元の形状に戻ったりして、非常に扱いづらい。


(まぁ、フィギュアエディットのガッカリ性能はいいとして……)


 壊すって言っても、これは……どこをどう、壊せばいいんだろうか? そもそも、そんな事をして……ハミュエルさんは大丈夫なのか? 彼女にはどこをどう見ても……ハッキリとした「物質としての体」がないように見えるんだが。ハミュエルさんの真っ黒けな姿は、この世界に閉じ込められているからこそのものだったんだろうし……拠り所でもある世界そのものを壊して、無事でいられるとも思えない。


「……エスペランザ。やはり……ダメだ。私はまだ、解放されるべき存在ではない」

「しかし、ハミュエル様。このままでは……あなた様の苦痛は永劫に、続くだけ。これから先も……そんな風にご自身を苦しめようとおっしゃるのですか? もう……良いではありませんか。あなた様は……とっくに……」


 ……あぁ。そういうこと……なんだな。彼女達の話からするに、ハミュエルさんが「このままで」助かる方法はもう、ないんだろう。きっと、竜女帝様の意図としては……ハミュエルさんが「救われる」にはまだ残っているらしい魂だけでも、解放した方がいいという事なんだと思う。


「ハハ……なるほど。ついぞ……皮肉な事を申すのだな、エスペランザよ。その言葉……私も誰かに言ったことがあってな。そして……ほら。大丈夫だ。……折角だから、そなたも皆と話をしてみては、どうだろう?」

「……」


 さぁ、出ておいで……と、ハミュエルさんが小さく合図をすると、彼女の影からなんだか見覚えのある顔がヒョコッと出てくる。おぉう……まさか、こんな所でバッタリ会うなんて。これは、ちょっとした謝辞も述べておいた方がいい場面か?

 ……もぅ〜、そんな所にいたんですか? 教皇様。いつぞやは別の意味で、本当にお世話になりました。俺はあなたに騙されたからこそ、こうして幸せな結婚生活を堪能しております。それに関してはありがと……うん? なんか、違うな。やっぱり、感謝していい内容じゃない気がするぞ、これは。


(とりあえず、ここは余計な口を挟む場面でもない……か。しかし……)


 俺は今……猛烈に怯えています。俺のベストを握る小さな手から、半端ない握力と威圧感を感じます。

 そうして恐る恐る、隣におわす嫁さんの顔色を拝見すれば。ルシエルさんは既に、もんの凄くおっかないお顔をしていらっしゃる。見た目は小さくても、ルシエルは怒らせると本当に怖いからなぁ。フルパワーで暴れられたら、この世界も冗談抜きで壊せちゃうかも知れない。

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