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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−48 契約主があってこその魔法

 エメラルダのお灸は、随分と効く様子。あれ程までに痛みで涙目になっていた長老様が、いかにも癒されていますという顔で、蕩け始めた。冗談抜きで「お仕置き」側のお灸になるのではないかと、心配したが……エメラルダはなんだかんだ言って、要所は抑えるタイプだから、本当に助かる。


「……あぁ、お待たせして、すまぬの。それで……ルシエル様はどんな魔法について、ワシに聞きたいんじゃろ」

「こちらの魔法データなのですが……長老様はお心当たり、ありませんか?」

「ほむ? どれどれ……?」


 しかし、私が提示した魔法データを見るや否や、折角蕩けていた長老様の顔が一瞬にして強ばる。彼の様子からするに、魔法の正体には心当たりがあるようだが……。


「……ルシエル様。1つ、聞いてもいいかの?」

「えぇ、もちろんです。いかが致しましたか?」

「この魔法は……どこで使われたのじゃろうか?」


 隠す理由もないので、観測ポイントが人間界のヴァンダートであることと……それと同時に、その場所が「どんな状況なのか」を簡潔に説明してみるものの。さっきでさえも、長老様にしては珍しい程の渋面だと思っていた表情が……困惑と同時に、明らかに険しくなった。


「……そう、か。ギルテンスターン……やはり、生きておったんじゃな……。あぁ、いや。違うのぅ。この魔法が使われた時点で……今度こそ、あやつは本当にいなくなってしまった、と言う方が正しいか」

「えっ? それは一体……」

「どういうことなのよ、クソジジイ! 父上が……生きていた、ですって⁉︎」


 甲斐甲斐しく灸を据えていたエメラルダの言葉が、私の言葉を遮って長老様に降りかかる。それでも、一方の長老様はいつものお気楽な空気を微塵も見せることもなく……まずはエメラルダに落ち着けと、諌める。そうして私が示した魔法データを、ゲルニカにも見せ始めるが……。


「この魔法は……まさか、ルートエレメントアップでしょうか?」

「あぁ、ゲルニカには分かっちゃう? ……そうじゃよ。この竜言語魔法はおそらく、ルートエレメントアップじゃろうな。ディバインドラゴンの固有魔法であり、術者の命を引き換えに霊樹を制御し、コントロールするための魔法じゃが……本来はドラグニールが不測の事態に陥った時に、使われるはずの魔法だの。それで……ルシエル様の話じゃと、この場所にはローレライがあるそうじゃな?」

「えぇ。あくまで、データ上の推測でしかありませんが……ほぼ、間違い無いかと」

「そうか。だとすると……ギルテンスターンを利用して、ローレライを支配下に置こうとした天使がおったのだろう。……この魔法は本来、契約主があってこその魔法じゃ。何せ……魔法発動と同時に、術者は死んでしまうからの。霊樹のコントロール権は自然と、術者の契約主に引き継がれる」


 長老様曰く、「ルートエレメントアップ」は表向きは霊樹・ドラグニールが暴走した時の最終手段として、ディバインドラゴンが受け継いできた魔法らしい。しかし、魔法の構成には明らかに別の意図があるそうで……。


「……あの温厚で思慮深いドラグニールが作ったにしては、条件が妙に厳しいと思わんか? のぅ、ゲルニカ。……お前さんには、術者の命を引き換えにしなければならん理由……分かるかの?」

「単純に考えるとすれば……魔法の濫用や、悪用を避ける目的があるとするのが、自然でしょう。しかし、オフィーリア様のお話しぶりからするに……その限りではないのでしょうね」

「そうじゃな。では……エメラルダはどうかの? 何か、分かるか?」

「……なるほど。そういう事ですの。……術者の命を犠牲にする理由はきっと、ドラグニールそのものの適応力強化を含むからなのでしょう。……私達、地属性のエレメントマスターに連なる竜族は全員、祝詞に“鞭”のキーワードを内包します。そして、ディバインドラゴンの祝詞には……鞭以外にも“楔”、延いては“紲”の意味も含んでいましたわね。要するに、ディバインドラゴンはドラグニールが霊樹としての役割を本当の意味で果たすための、縁として機能すると同時に……霊樹の栄養剤にもなるのですね」

「……その通りじゃ。ディバインドラゴンの本当の役割は、ドラグニールを守ることだけではない。……霊樹が弱り果て、本来の姿で輝けなくなった時。……代わりにかの幹を覆う荊となり、花となって、一時的に役目を肩代わりすることに他ならん」


 紲……その意味を「きずな」と取るか、「いましめ」と取るかは術者と契約主次第だが、と寂しそうに長老様が呟くものの。口ぶりを聞く限り……きっと、長老様は悟ってもいるのだろう。どうして、ローレライ相手に「ルートエレメントアップ」が使われたのか。そして、ギルテンスターンが今までどこで、何をしていたのか。

 人間界で強大な魔力を持つ竜族が、今の今まで見つからずに済んでいた理由。……それは、ギルテンスターンがとある天使と契約済みの「札付き」だったからであり、ローレライを陥れた大天使の手先であったからに他ならない。そして、ギルテンスターンは契約主に利用されて、ローレライ相手にルートエレメントアップを使ったが故に死んだのだと……長老様は、悲しい事実を理解してしまったのだ。

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