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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−45 無茶振りにも程がある

 ギノの目下の悩みは「モテ過ぎること」。普通だったら「なんて贅沢な悩みなんだ!」って、怒られるかも知れない。だけど、ちっともそちら方面には前向きになれないギノにとって、生命の危機こそないにしても、お悩み具合は最悪だ。しかも、結婚の意味も知らない幼な子まで巻き込むという、とってもけしからん非常事態のおまけ付き。


(ギノもそうだが……ルノ君も奥さんがピシャリとガードしそうな気がするけれど……)


 今回の問題を解決するには、ルノ君にはとっても申し訳ないが……とにかくギノを竜界から引き離すのが、得策だろうと思う。そして、この場合はサッサとギノも一緒に住み慣れた屋敷に帰るのが、最適解に違いない。

 人間界の魔力濃度はとっても、薄い。長老様も「魔力の薄さはちょっと不安」と言っていたし、竜族にとって厳しい環境であることもお墨付き。人間界に避難さえできちまえば、少なくともエルノア以外の女の子の襲撃は免れられる。……竜族は魔力の扱いに長ける反面、魔力や環境の変化にも敏感な種族らしい。天使様の契約がない以上、人間界訪問(強襲とも言う)は諦めてくれるんじゃなかろうか。


「はぁい、お待たせしましたわ。うふふ。今日のお茶はタッチオブインフェルノですよ〜」

「タッチオブ……インフェルノ?」


 ギノの語った「無茶」をやらかしたとは思えない満面の笑みで、奥さんがお茶を運んできてくれる。しかし、そのお茶の名前にドキリとさせられて、我ながらなんとも情けない。きっと純粋に、奥さんは何気なくお茶の名前を言っただけなのだろうけど……。ギノの苦労話を聞いた後だと、お茶のネーミングに妙なプレッシャーとインパクトを感じるのは、俺だけじゃないと、思いたい。


「な、なぁ、奥さん」

「あら、いかがいたしましたか? ハーヴェン様」

「いや、今日のお茶もとっても美味しいんだけど……ギノの話だと、昨日は女の子達にお茶のテストをしたんだって? しかも、奥さん以上に上手に淹れろだなんて、無茶振りにも程があると言うか……」


 意外や意外。名前はゴツいが、手渡されたカップから漂ってくる香りは最上級。口当たりはまろやかでありながら、フルーティな風味と酸味は程よく刺激的。これは紛れもなく、最高傑作レベルの一杯だろう。しかし……考えてみれば、淹れてくれたのがお茶の名手ともなれば、不味いお茶が出てくる方がおかしいのかも知れない。そんな最強クラスの奥さんにお茶で勝負を挑まれたら、勝算なんて微塵もないだろうに。ギノの悩み事を拵えているとは言え、押しかけ女房(候補)さん達もメンツを保つのが大変だったろうなぁ……。


「まぁ! その言い方ですと、私がただ意地悪をしたように思われるではないですか! 一応、昨日はきちんと、お茶の種類は説明くらいは致しましたよ? まぁ、アウロラちゃんはしっかりとお茶もご持参されていましたけれど」

「そうだったんだ? でも、お茶の種類を説明されただけで、上手く淹れられるとは限らないだろう?」

「甘いですわ、ハーヴェン様。竜族にとって、お茶を上手に淹れるのは最低限の嗜みなのです。それなのに……まぁまぁ、皆様点でなっていないのですから、話になりませんわね。……どうせ、普段は他の方に淹れてもらっているのでしょう」

「そ、そうか……」


 それじゃぁ、彼女達と同じように、お茶も他人任せなエルノアはどうなるんだろう……。しかし、本当に美味いな、このお茶。俺のエルノアに対する疑念なんか、サラッと吹き飛ばす包容力と強制力があるぞ、これ。


「はぅ……ですけど、お茶を淹れられないだけでそこまで言われたら、皆さんが可哀想な気がしますです。それでなくても、お嬢様も自分でお茶を淹れたりできないでヤンすよ?」

「あっ、そいつは言えてるな。奥様の言い分だと、お嬢様もお嫁さん候補としては話にならないってことになるんですかね?」


 って、あぁぁぁぁぁッ! 俺が無理くり引っ込めたツッコミを何、サラリと言ってくれてるの! それはここで言っちゃ、絶対にダメなヤツ! 奥さんの地雷的にも、ギノの防衛的にも、超絶によろしくないから!


「うふふふふ……い、言われれば、そうですわね……! でしたらば、エルノアにはみっちりと私が手解きしませんと……!」

「お、おぅ……そう、だな。だけど、奥さん。エルノアもこっちに来るんだったら、俺の方で教えることもできると思うけど……」

「いいえ! ご配慮には及びませんわ! 娘に花嫁修行をビシ! バシ! と仕込むのは母親の義務ですもの。ハーヴェン様のお手を煩わせる必要はございません」

「そ、そうか……」

「奥様が手解きされるとなると、お嬢様はしっかりとお茶を淹れられるようになりそうですね……(もぅ! コンタローとダウジャったら、余計なことを言って!)」


 肉球で挟み込んだティーカップを器用に傾けながら、ハンナがジロリと余計な事を言い出したコンタローとダウジャペアを睨むものの。しかし、お2人さんは自分達の失言にはどこまでも無頓着なご様子。2人揃って、「何かやっちゃいました?」と言わんばかりに首を傾げては、不思議そうな顔をしている。……うん。この状況を無自覚とか、ある意味で大物だよ、お前達も。

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