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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−43 ごくありふれた話

「ルシエルは竜界へお出かけ。でもって、ボク達はこっちで調査結果の精査、かぁ。あぁ〜、退屈だなぁ、もぅ」

「そう言うな、ミシェル。今日は残った3人で今後の話をするのが、肝要だろう。そうそう、お前の励みになるかどうかは分からんが……サタン様とヤーティ様に、アスモデウス様の所へのエスコートをお願いしておいた。その内、ジェイドに会いに行くといい」

「ほ、本当、オーディエル!」


 いや〜、オーディエルはよく分かっているじゃない。ボクだけ留守番だった事にきちんと配慮するだけじゃなくて、ご褒美まで持ち帰ってくるなんて。だったらボク、今日もお仕事(お留守番)も頑張っちゃおう、っと。


「しかし……リヴィエルから上がってきた報告書だが、これはどうすればいいのだろうな?」

「そうよね。グランティアズ城の地下に通路がある事くらいは、何となく予想できていたのだけど……」

「うん、そうだよね。まさか……」


 グランティアズ城の地下はドップリと瘴気溜まりになっていただけじゃなく、迷路みたいに入り組んだ地下通路が広がっていたらしい。しかも驚いたことに、旧・カンバラ時代から既に存在していたと言うのだから、色んな意味で歴史のある地下迷宮になるみたいだ。で、元々そのお城に住んでいたリッテルによると、お城の地下は天然の洞窟になっていて、大昔は底を流れる川から砂金が採れたんだって。そして、その地下で……。


「金の採掘を重ねに重ねた結果、いつの間にか複雑な迷宮が出来上がっていた……と」


 迷宮が出来上がるまでの労働力の賄われ方が、相当に非人道的だったみたいだけど……そんなの、ボクが人間だった時からごくありふれた話でしかないし、今更驚くことでもない。いつだって、そう。何となく分かるようで、全くもって意味不明な基準で人間は「偉い奴」と「偉い奴に支配される奴」とで自然に分かれるから、不思議だよね。

 ユグドラシルが生きていた頃は魔法を「使える側」と「使えない側」で明確なボーダーがあったりもしたけれど、両方とも同じ人間であることに変わりはない。だけど……。


(それも当然だと、ボク達は割り切って……見て見ぬフリをしてきたんだよね……)


 地下通路が出来上がった経緯をサラリと受け流せちゃう自分が、ちょっとイヤになっちゃうけれど。そろそろ、天使の見て見ぬフリのお家芸も捨てないとね。だから、まずは一生懸命、目の前のことに集中することにしよう。


「だけど、さ。どうするの、これ? グランティアズの地下に迷路があるからって、向こう側との関連性、結構薄くない? だって、この地下通路……相当前からあったんだよね? リッテルの話だと」

「だろうな。リッテルが生きていた時には既に、掘り尽くされていたらしいことを考えても、この場合はたまたまグランティアズの地下に洞窟が広がっていたとする方が正しいだろう」

「だとすると、この迷宮を調査すること自体が意味があるかどうか、分からないわね……」


 そう、そうなんだよ。この地下通路は瘴気溜まりになっている、かつ、調べ尽くす目標も目的も希薄。グランティアズ城自体は、全体の規模がある程度把握できたとかで……リヴィエルの部隊からキュリエルの部隊へ監視業務も引継ぎ済みらしいけど。正直なところ、実験現場になっていたお城の方だけ精査すればいい気がしないもでない。しかも、タルルトの地下墓地の例を考えると、どう考えてもお城の地下部分は無関係な気がする。


 マモンの話では、タルルトの地下の瘴気濃度が薄かったのは「レプリカの根っこ」が幅を利かせていたから、らしい。そして、今回のグランティアズは同じ地下でも、瘴気にバッチリ侵されている。だとすれば、タルルトの瘴気濃度が「問題なし」だったのは地下だったからじゃなくて、レプリカが根を伸ばしていたからと言うことになるんだろう。この2箇所の瘴気濃度の差は、レプリカの根っこがあるかないかによるものであり、延いては向こう側の息がかかっているかいないかの違いだと言っていいと思う。……向こう側にミカエル様とウリエル様がいるらしい以上、瘴気溜まりを避けるのは本能だろうし、そんな場所で活動している可能性もないんじゃないかな……。


「それと、お城の生き残りは保護済みなんだよね? そっちの状況はどうなの?」

「ふむ。私も今日初めて状況を確認したので、何とも言えんが……バビロン様のお話では、彼らの洗脳は魔法ではないそうで、しばらく放置をしていれば自然回復する見込みだそうだ。現状は経過観察も兼ねて、排除部隊と救済部隊から人員を適宜配備し、生き残った者はグランティアズ城に戻している」

「意識はなくても、皆さんまだ……生きていましたから。神界にも置くわけにはいかない、という判断になったわ。それに、リヴィエルがきちんとグランティアズ城の調査をしてきてくれたのだもの。そこに住んでいた人達ごと、お城全体を正常化する方向性で、話もまとまっているの。……そうよ。きっと、まだ間に合うわ」

「そっか。ま、そうなるよね。神界に生きている人をそのまんま置いておくわけにもいかないし……」


 グランティアズ……延いては、ルクレスはこれで完璧に神界の監視下に置かれたことになるのかな? そうなると、次はボーラ(向こうのラボ)とリルグの調査について、話し合わないといけないか。とは言え、ルシエルが置いていった資料からするに、ボーラ側はほぼほぼ掌握済みと見て良さそうだ。


「……流石、ハーヴェン様だよね。ラボとやらに、しっかりアンカーを打ち込んできてくれるんだもん。お仕事のツボもしっかりと押さえているって感じ?」

「そうね。それに……ルシフェル様のお話では、ボーラ調査にはベルゼブブ様がご協力くださるそうよ」

「ほぉ。それは、心強いな。であれば、我らが今するべき事は……リルグの調査、と言うことになるか」

「そうなるだろうね」


 残るはリルグ……バビロンと同じように魔界を放逐された、憂鬱の真祖・アケーディアが紋章魔法を使った場所であり、仮初でなんとなく平穏を保っているらしい雪深い高山の町。人間界の季節はようやく、冬から脱出しつつあるみたいだけど、リルグは高山地帯ということもあり、雪が溶けるのはまだまだ先だ。

 なんでも、リルグを含むナーシャ地方の人達は冬前に備蓄を蓄えて、徹底的に引き籠もる事でなんとか厳しい冬をやり過ごすらしい。だけど魔法が使えれば、調査のやりようもそれなりにあると思う。う〜ん。ここはやっぱり、強行突破で調査もゴリ押した方がいいのかな?


「実は、リルグについてなのだが……リヴィエルが契約している、セバスチャン殿が何かを知っているようなのだ。なので、まずはリヴィエルに彼から情報を引き出せないか、掛け合ってもらっている」

「セバスチャン? えっと、誰だっけ……?」


 だけど、ボクがリルグの調査を強引にするしかないかと考えていると、オーディエルが意外な事を言い出す。どうやら、契約済みの悪魔の中にリルグの異常事態について知っている人がいるらしい。


(リヴィエルが契約しているって事は、精霊帳にも載っているかな?)


 どれどれと、アップデートしたばっかりの精霊帳を見つめてみるけれど。……うん、ハーヴェン様のマッチョっぷりやマモンのイケメンっぷりにため息が出るだけで、それらしい相手の情報はないみたい。多分、セバスチャンは新種の悪魔じゃなくて、既に情報がある種類の悪魔だったんだろう。


「セバスチャンさんは、最近闇堕ちされたアークデヴィルなのですって。だから……」

「あぁ、そういう事。……アークデヴィルはダンタリオンが登録第1号だもんね。それじゃ、彼の情報はなくて当然か」

「ふふ。そう、思うでしょ? 実は……ほら、ここ。精霊帳に何かボタンが増えているのに、気づかない?」

「あっ、本当だ。……えぇと、何これ? ”表示切り替え”……?」


 こんなボタン、いつからあったんだろう? まぁ、それはともかく。折角あるんだから、押さなきゃ損だよね。そうして、図鑑ページに知れっと追加されているボタンをポチッとな、とタップしてみれば。な、なんと! ダンタリオンと思われるアークデヴィルから、別のアークデヴィルの姿が表示されるじゃないか。うん、こっちがセバスチャンなんだろうな。だけど、この様子だともしかして……?


「い、いつの間にこんな機能が……? というか、だとすると……あぁッ! やっぱり! インキュバスはジェイド君にも切り替え可能じゃない!」

「ね、凄いでしょ? ルシエルとリッテルがこっそり、記憶台を改良してくれたみたいなの。彼女達によると、精霊には個体差があるのに、種類ごとで一括りにしているなんておかしい……って事らしいわ。それで、リッテルの調査データを整理ついでに、記憶台にも手を入れてくれたみたいなの」


 流石、お仕事も優秀な調和の大天使様と、気配り上手な美人天使コンビ。そう言えば、リッテルには塔の監視データを書き換えるレベルの知識はあったっけね。まぁ、ボクに言わせれば中途半端だったけど? でも、このナイスな改良に免じて、認めてあげようじゃないか。ふふふ……いい仕事してますねぇ、調和斑。

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