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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−30 お婿さん争奪戦

(ゔっ……この状況、どうすればいいんだろう……?)


 僕のお向かいに座った3人の女の子達が、こちらをじっとりと見つめてくる。向かって左側の、ちょっぴり気が強そうな金髪の子はマハ様の姪っ子・エリーザさん。その隣で上目遣いで一生懸命こちらを見つめているのは、グランサラマンダーという上級種の娘さんらしい、ラディーヌさん。それで……一番右側で目が合う度にウィンクしてくれるのは、地属性の竜族だというライメルさん。……なんだろう、こうもタイプが違う女の子が同時に集まるなんて。彼女達には僕なんかが、そんなにも魅力的に見えるんだろうか。

 状況を飲み込めないなりに、ルノ君と一緒に怯えながらその場を窺えば。やっぱり、女の子達(アウロラちゃんも含めて)は僕の脱皮の噂を聞きつけて集まっていただけで、母さまの許可なくエントランスに居座っていたらしい。しかも、父さまは朝から出かけていたとかで……父さまも彼女達の集合は知らなかったみたいだ。


「折角、こうして押しかけてくださったのですもの。とりあえず、お茶の準備をしましょう。ちょっと、よろしくて?」

「えっ……あっ、はい! 僕もお手伝いします!」

「あら、ギノ君はそのままでいいのよ? ……私がお手伝いしていただきたいのは、お嬢様達の方ですわ。……ふふふ……私よりもお上手お茶を淹れられないようでは、ギノ君のお嫁さんには不適格ですもの……!」

「えっ……?」


 どうしよう……! 母さま、やっぱり怒ってる! 言葉遣いはまだまだ柔らかいけど、間違いなく、ものすごく怒ってる……! しかも、母さま以上にちゃんとお茶を淹れるなんて、条件がとっても厳しい気がするよ……! そんな事ができそうなのは……。


(ハーヴェンさんくらいかも……)


 ハーヴェンさんであれば、母さまに負けないくらいの美味しいお茶を淹れてくれる気がするけれど。もちろん、今気にするべきなのは、ハーヴェンさんの器用さじゃない。……母さまのご機嫌をどうやって直すか、が問題だと思う。


「……兄たま。みんな、ちょっと怖いよぅ……!」

「う、うん……僕も少し怖いかも……。でも、ルノ君が心配しないといけない事は……」


 何もないよ、と言いかけて……実際にはそうでもない事に気づく。

 ルノ君も貴重な竜族の男の子だし、更に父さまと同じバハムートともなれば、僕なんかよりお婿さんとして「有望な相手」なのは、間違いないと思う。そう言えば、さっきからアウロラちゃん以外の女の子達はルノ君にも熱心な眼差しを向けている様子から……お婿さん争奪戦には僕だけじゃなくて、ルノ君も対象に含まれているみたいだ。多分、ルノ君も意味が分からないなりに、注目されているのは気づいているんだろう。母さまの不機嫌以上に、彼女達の熱視線に怯えては、僕の影に一生懸命隠れようとしている。


「あの、テュカチア様」

「あら、アウロラちゃん、どうされました?」

「えぇと……その。私はお茶の準備、して来ました。樹氷銀茶を持って来たのですけど……そちらをギノ様に召し上がっていただきたくて……」

「まぁ、そうでしたの? ムムム……流石、エルノア最大の好敵手ですわね。気配りもバッチリと言ったところでしょうか。もちろん、よろしくてよ。それにしても、樹氷銀茶だなんて。……後程、ラヴァクール様とカミーユ様にはお礼も差し上げないといけないかしら……?」

「い、いえっ! これはそんな大層な物ではなくて、ですね。銀の氷原では、脱皮後はこのお茶で疲れを癒すのが定番なのです。ですから……」


 そこまで解説して、きっと急に恥ずかしくなったんだろう。モゴモゴと俯いて、キュッと手元の包みを握りしめるアウロラちゃんだけど。母さまの反応からしても、樹氷銀茶はとっても珍しいお茶に違いない。そっか。アウロラちゃんは僕のために、そんな貴重品を持って来てくれたんだ……。


「ふふ。まぁ、いいでしょう。折角ですから、皆さんの腕前をギノちゃんの母親代理の私がしっかりと吟味して差し上げますわ! 気が利かない手ぶらのお嬢さん達も、是非にいらっしゃい。お茶はこちらにいくらでもありますから、好きな物を使うといいでしょう」

「は、はい……では、お言葉に甘えて……」

「それにしても、不覚でしたわ……! お茶くらい、私も用意できましたのに……!」


 何をするにしても、やる気があって前向きなのは悪い事じゃないとは思う。だけど……気にしなきゃいけないところは多分、そこじゃない。母さまに「気が利かない」と言わせている時点で、ここは押すんじゃなくて、一旦は引くべきだと思う。


(大丈夫かな……。母さま、相当に怒っているみたいだし……。頼みの父さまもいないし……)


 こういう時に父さまがいないのは、とっても不安だ。父さまにも、怒った母さまを止められないこともあるみたいだけど。でも、なんだかんだで母さまは父さまがいれば、ご機嫌が直るのも早いと思う。


「それはそうと……婿殿はどうされるのです? まさか、エルノア以外の娘とくっつくつもりじゃありませんよね?」

「……」


 そして、僕の心配事を軽やかに無視するように、ピキちゃんも不満そうにこちらを睨んでくるけれど。だけど……本当に婿殿はやめて、ピキちゃん。……今はそれどころじゃないんだよ……。

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