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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−10 悪魔になってよかったかな

「ハーヴェン⁉︎」

「あぁ、大丈夫だ。この程度、屁でもないさ。それはそうと……久しぶりだな、ダッチェル? 相棒のノクエルはどうしたよ?」


 突然の不意打ちを防ぎながら、宙を仰ぎ見れば。そこにはノクエルとほぼ同じ顔をしている相方……ダッチェルが浮かんでいる。翼は白いままだけど……多分、彼女に流れる血も真っ黒なんだろう。


「まさか、こんなところまで蝿が入り込んでいるとは思わなかったわ。姿格好で気づかなかったけど……あなた、あの時の魔神かしら?」

「……ダッチェル様、これは一体どういうことですか?」


 振り向けば……恐ろしい形相で、リヴィエルが例の武器を既に構えている。銃口をこちらに向けられていないとは言え、その武器はやっぱり怖いんだけど。


「ラディウス砲……あぁ、そう。あなたはもしかして、リヴィエル?」

「えぇ、そうです。……それにしても、ダッチェル様。アヴィエル様の脱走を手助けして、何をなさるおつもりですか?」

「別に? あなたが心配するようなことはしないわよ? 少なくとも……問題児を体良く処分できるのだから、感謝して欲しいくらいね」

「……どういう意味ですか?」

「さぁ? ここであなたにお話ししてあげる必要はないわ。まぁ、すぐに分かると思うけど……」


 この人数に対し、随分と余裕な表情の中級天使。だが、彼女の表情はハッタリではなく、何か秘策があってのものにも見えなくない。


「それにしても、今のあなたはどちらなの? 英雄? それとも……悪魔ですか? ハール・ローヴェン?」

「別に、どちらでもないさ。今はルシエルの精霊だし、強いて言えば……旦那様ってところかな?」

「はぁ? 旦那様……とは、一体?」

「じゃ〜ん。俺、結婚しました〜! いや〜……あのまま異端審問官だったら、戒律のせいで結婚なんてできなかったし? ある意味、悪魔になってよかったかな、って思ってたりして〜」


 そう言いながら、左手の薬指に嵌めた指輪を見せつけてみる。俺の横で、ルシエルがまた妙にモジモジしているが、前みたいに怒ったように否定しなくなったところを見ると、満更ではないってところかな。更に、ルシエルの背後で鼻息荒くマディエルがペンを走らせているけど……あっ。今回はこの場面がクライマックスになる感じ……なのか?


「……何を、バカなことを……」

「ま。お前にしちゃ、バカな真似事かも知れないけどな。存外、こうして天使と夫婦になるのも、悪くないぜ?」

「アハハハハ! まさか……闇堕ちした挙句に天使に肩入れするなんて、なんて愚かなのかしら! 知っていますか? 今の天使共は惰性の中で、この世界の惨状を見て見ぬ振りをしているだけの、愚者の集まりでしかないのよ⁉︎ 派閥争いに忙しくて、するべきこともしてこなかった最低の輩の集まりなの‼︎ 真に世界を救おうとするならば、見ているだけなんて、生ぬるいことしている場合ではないと思わなくて?」

「確かに、その通りかも知れないが……では、そういう貴様は何を成そうというのだ?」


 今度はルシエルがロンギヌスを手に、ダッチェルに詰め寄る。おぉう……今回の凶暴組2人は、既に臨戦態勢のようだ。


「あら? 旦那様とやらの影に隠れていて気づきませんでしたが……あなた、ルシエルかしら。まぁまぁ……あれだけのことをされても尚、天使でいられるなんて。ハミュエル様の秘蔵っ子は、格が違うわね?」

「ハミュエル様の秘蔵っ子、か。かつてはそう呼ばれていた気もするが……別に私は一介の監視員でしかない。と言っても、今も昔もそんな大層なものでもないんだが」

「フゥン? 以前の高慢さはどこにいったのやら。悪魔に助けられてようやく、謙遜を覚えましたか? ……とは言え、流石に神界の実力者2人と最強レベルの魔神を相手に……1人では分が悪いわね。ここは例の問題児のカケラに任せて、私は退散することにしましょう」

「……?」

「我が名において命じる‼︎ 呪われた魂を放て、その罪を撒き散らせ! その汚辱を持って汝が敵を殲滅せよ! チェインドベリアル‼︎」


 ダッチェルの呪文に応じて魔法陣から現れたのは、首から鎖を垂らした白い木偶人形のような精霊だった。背には申し訳程度に白い翼が生えており、異様に長い手足はか細く骨だけのように見える。実際、体も骨ばっていて……肋骨が浮き出ているのが、痛々しい感じだ。顔に目と鼻はないが、口だけは不恰好に大きく、歯並びが悪い血まみれの牙がゾロリと覗いている。そして牙の合間から見え隠れする舌も、異様に長いのが殊の外、不気味だ。


「さ、彼らの相手は任せましたよ。では皆様方、ご機嫌よう。もし……またお会いできる時は、手を取り合える相手になっていると良いわね」

「待て! ダッチェル!」


 ルシエルの制止も聞かず、あらかじめ展開していたらしい転移魔法で、離脱するダッチェル。一方で置き去りにされた精霊は、文字通り盲目的に襲いかかってくる。


「ハーヴェン!」

「分かっている! お前は例のサーチ鏡とやらで、あいつの情報を集めておけ!」

「あ、それは私にもできますぅ〜。とにかく、皆さま、補助は私に任せてあれをみんなで止めましょう〜……七色の光を集め汝に輝けるぅ、知恵の宝冠を与えん……セブンスセンスぅ! でぇ、トリプルキャストですよ〜」


 今日は珍しく、マディエルも戦闘に参加する気らしい。やや間延びした呪文だが……きちんと効果を発揮させてくるところを見ると、伊達に中級天使じゃないということか。そうしてそのまま、マディエルが自分の精霊帳のサーチ鏡をかざして、確認内容を呟く。


「どれどれ〜?  【チェインドベリアル、魔力レベル測定不能? 光属性。天使の翼から作られた人工精霊】……じ、人工精霊ぇ⁉︎」

「……⁉︎」


 ダッチェル達は精霊を作るとかいう目的を……天使の翼を使って達成していたということか? ん? でも、それって……「材料」が必要なんじゃなかったっけ?


「チィ、貧相な見た目の割には……しぶといな! しかも、手応えが全くない。どうなってんだ?」


 そんな事を考える暇もなく、チェインドベリアルは長い手足を振り回して襲いかかってくる。攻撃精度は大したこともないし、現に相手の攻撃はただの1回もカスリもしていないのだが……糸が切れたような狂った動きには、不気味さを感じずにはいられない。


「ハーヴェン様、下がってください! これを使用します!」

「おぅ!」

「ラディウス砲、最大出力で連射します‼︎」


 リヴィエルの合図で一旦、彼女の後ろに下がる。いつぞやの時は、厄介な相手だと思っていたが。味方になると、これ以上に頼もしい相手もいないかもしれない。彼女の背後でそんな事を考えていると、幾千もの光の矢が容赦無く枯れ枝のような精霊に降り注ぐ。眩い光が収束する頃には、幾ら何でも灰も残らないだろう……と思っていたのだが。


「……⁉︎」

「キシャぁぁぁぁぁッ‼︎」

「嘘……でしょう?」


 光の収束と同時に、絶叫にも近い咆哮をあげる白い木偶人形。予想に反して……ラディウス砲をまともに食らったはずなのに、傷1つ負うこと無く、変わらない様子でヒョロヒョロと立っていた。


「オイオイオイオイ! こいつ、一体……何なんだ⁉︎」


 相手の攻撃は大したことない。しかし、こちらの攻撃も効果がない。その上、相手は消耗や疲労というものを感じさせない動きを続けている。このままでは……人間界の薄い魔力で戦わなければいけないこちら側は、圧倒的に不利だ。


「ルシエル! このままじゃラチがあかない! さっさと命令をくれないか!」


 こうなったら、魔力を解放して一気に叩くしかないだろう。しかし……後ろにいたと思っていたルシエルがいない。


「ル、ルシエル?」

「……ここか⁉︎」

「お⁉︎」


 彼女の姿を探して、俄にルシエルの声がする方を見やる。いつの間にか、精霊の背後に回っていたらしいルシエルが、ロンギヌスを突き立てていて……どうやら、彼女は奴の鎖が繋がれた「首輪」を狙っている模様。そうして、ロンギヌスの鋒を受けてカチン、と鈍い音がして外れる首輪。すると同時に、精霊もどきだったものが何か別のものに姿を変えて……ドサリと倒れる。その崩れ落ちた何かは……どこをどう見ても、人間みたいなんだが……。


「……これって、まさか……」

「あぁ。あまり、考えたくなかったんだが……」


 ルシエルが切り落とした鎖の先には、既のところで外された首輪がぶら下がっている。しかし……形状は首輪というよりも、何かの楔でしかない。


「この鎖がうっすらと魔法陣の中に繋がっているのを見て、まさかとは思ったんだ。こいつはどうやら……召喚元の魔法陣の先と繋がってさえいれば、ほぼ無敵の精霊として作られていたみたいだな」

「作られていた、か……。やっぱり、そういうことなんだな……」

「以前、ラミュエル様が言っていたよ。“彼らは他の命を購うことで、精霊を生み出そうとしている”って。まさか、その裏で天使ともあろうものが……糸を引いていたなんて、思いもしなかった……!」


 そこまで吐き出すように呟くと……ルシエルは自分の足元にうずくまり、「精霊の材料」と思しき若い女性の遺体にローブを被せてやっている。……被害者の首には、痛々しい「首輪」の内部についていた針が貫通した跡が口を開けていた。しかし、しばらくすると……魔力の供給が絶たれたせいだろう。今度こそ、本当に灰になって彼女の遺骸は跡形もなく崩れ去っていった。


「ダッチェル達は……アヴィエル様の翼を毟って人間に埋め込むことで、精霊を人工的に作ることに成功したようですね」

「あぁ、そのようだな。だとすると、アヴィエルはもう生きていないかもしれない。先日全滅した天使も……併せて、材料にされていると見ていいだろう」

「えぇ、悔しいですが……その可能性が非常に高いと、私も思います」

「とにかく、今日は帰ろう。流石に疲れたし……ちょっとお腹が空いた」

「おぅ。とりあえず、さっさと引き上げようぜ。落ち込むのは、夕食を食べてからでも遅くないだろ?」

「そうだな。何より、今回の調査はかなりの収穫があった。マディエル、すまないが……明日には、ラミュエル様に報告をしたい。報告書の作成をお願いしても、いいだろうか」

「もちろんですよ〜。超シャカリキで、素敵な物語を書けるよう頑張ります〜!」

「あ、あぁ……小説の方は程々でいいから……」


 マディエルにしっかりと、小説に関しては釘を刺しているルシエル。しょんぼりしている割には、その辺りは平常運転のようで、少し安心する。それにしても……さっきの精霊もどきもそうだが、あのラディウス砲をぶっ放しても傷1つつかないこの空間も異様だと思う。……この聖堂はこれ以上、何を隠しているのだろう。

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