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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−18 グルメな腹ペコ天使

「はいよ、お待たせ。今夜のメニューはサルシッチャとブロッコリーのパスタに、メインは鯛のポワレ。で、付け合わせはサツマイモサラダと蒸し鶏のオリーブオイル和えとなっています。デザートにはオレンジのムースを用意しているから、そっちも美味しく食べてくれよな」

「う、うん……もちろん、それはいいのだけど……」

「……ま、とにかく話はあとあと。ルシエルが食事している間、他の皆さんはお茶でもいかが?」


 ティデルが粛々と向こう側の事情を話してくれているところで、ハーヴェンが少しだけ元気を取り戻した様子で食事を運んできてくれる。ティデルの話の続きも気になるし、今はそれどころじゃないと言いたいのだけど。しかし、目の前に食事を並べられた瞬間に、私の仕事モードが一気に吹き飛ばされる。

 ……あぁ、なんていい香りなんだろう! これ以上の我慢は無理だし、お預けだなんて許さない。カリッと焼かれた鯛のポワレは見た目も極上だが、バターの香りも最上。付け合わせは甘いものと塩気のあるものが用意されているものだから、交互に食べるだけでとにかく食が進む。しかも、パスタはガーリックが効いていて……淡白な見た目とは裏腹に、満足感も食べ応えも十分。こんなご馳走を前にして、話が先だなんて突っぱねられる程、私は意地っ張りでもない。


「美味しい……! 今夜の食事も、とっても美味しい……!」

「そか。それは何よりだよ。うんうん。そう言ってもらえれば、料理長はとっても満足なんだな」


 私が「美味しい」と当たり前の事を言っただけで、ご機嫌を少しだけ上向かせるハーヴェン。しかし、そんな彼の一方で私がうまうまと舌鼓を打っているのを、やや呆れた顔で見守っているティデルに、明らかに驚いた顔をしているエドワルド。……ティデルはともかく、偽ハールにまでそんな顔をされるなんて、非常に不服なんだが。


「それはそうと……私の顔に何か付いてますか?」

「えっ? い、いいえ……そういうわけではないのですが」

「それじゃぁ、何か?」


 私の日常において、最大級の楽しみでもある食事に水を差されるのは、我慢ならん。そうして思わず睨みつけてしまうと、私の横を固めていたモフモフズが縮み上がっているのも伝わってくるが……。


「姐さん、あのぅ……」

「何? 別に私は不機嫌じゃないぞ」

「はぅ……そうなんでヤンす?」

「少なくとも、原因はコンタロー達じゃない」

「……それって、原因は別にあるって意味ですよね?」

「まぁ、何となく理由は察しもつきますが……」


 いや、だって。こいつはかつて、ハーヴェンを私から取り上げようとした挙句に、引っ越しまで邪魔しようとした不届き者だぞ? そんな奴がいるテーブルで、ご機嫌で食事ができるもんか。


「ルシエルもそんなに睨むなよ……。それと、エドワルド。お前さんも一杯いかが? あぁ、因みにな。ルシエルはこれで、中身はグルメな腹ペコ天使でな。一生懸命お仕事をした後の食事を楽しみにしてくれているもんだから。落ち着いて食べさせてやって欲しいんだ。だから……あんまり、見ないでやってくれるか」

「え、えぇ……。ただ、その。……以前、少しばかり天使様のケーキ好きについては、噂をお伺いしていたものですから。天使様のお食事風景を拝見できるだけでも、恐れ多いとは思いますが……いや、なんと申しますか。……ハーヴェン様のお料理を前にすれば、天使様も普通の女性なのだなと感心してしまいまして……」


 そうして、自身の「不躾」の言い訳を述べ始めるエドワルドだったが。どうやら、噂の出どころはカーヴェラのあのカフェらしい。全く、あのカフェは余計な詮索もさることながら、勝手な噂まで振りまきおって……。偽ザッハトルテも含めて、今度抗議に行ってやろうかな。


「今、考えても……非常に失礼なことだったと、思いますが。ジルヴェッタ様がどうしてもハーヴェン様を手元に置きたいと……その。ワガママを仰るものですから。……巷で暴君と言われるメリアデルス様も、ジルヴェッタ様にはとにかく甘くて……。それでなくても、ハーヴェン様はお強い。娘のワガママを叶えるのも含めて……下された王命の元、グランティアズの兵力増強の名目もあり、ハーヴェン様の手がかりを探すことになったのです」


 そんな顛末もあり、ハーヴェンを諦められなかったらしい小娘が駄々をこねたものだから、このエドワルドは仕方なく彼女のお供で一緒にカーヴェラへ出かけたことがあったのだと言う。そうして、その末に私達が頻繁にカーヴェラに出入りしていることも突き止めたそうだが……。


「しかし、本当は……そんな事をしている場合ではなかったのです。先程のティデル様のお話にも関わってきますが……気がつけば、グランティアズは国家丸ごとがリンドヘイムの手に落ちておりました。しかも……」


 カーヴェラに残した弟さえもその毒牙にかかったらしいと、ホロホロと涙を落とし始めるエドワルド。そんな彼の背を摩りながら……ハーヴェンもつられるように、深々と悲しげなため息を溢す。


「しかし、そのタールカはどうしたんだ? だって、今日はあの子達と一緒に出かけていたんだろう?」

「あぁ。その、タールカなんだけど。……まぁ、こうして元に戻ったエドワルドと再会できたのまではよかったんだけど、さ。……諸事情により、一緒に帰って来られなくてな。見りゃ分かると思うが、あの子達はもう人間じゃなくなってて……」

「確か……ギノと同じように、デミエレメントにされたという話だったが……」


 ブロッコリーを頬張りながら、朧げに応じてみるものの。ロジェとタールカは向こうの一員として、デミエレメントに仕立てられていただけではなく、既にアケーディアという悪魔の紋章が刻まれていたそうだ。


「アケーディアって、まさか……」

「うん、そのまさか……だな。例の原初の真祖の片方みたいだが……リルグの紋章魔法を使った奴でもあってさ。どうも、ヨルムツリーが一方的に弾き出したせいか、配下もいなければ、正式な真祖としての領分もないみたいでな。その状況を逆手に取った形になるんだろう。アケーディアは相手の種族に関係なく、エンブレムフォースで無理矢理配下を作ることができるらしいんだ」


 そのせいで、ロジェとタールカにはデミエレメントからの昇華さえも許されないとかで……そうして結局、アケーディアの鎖に引きずられていく彼らを助けてやれなかったんだと、悲しそうにハーヴェンが肩を落とす。

 ……あぁ、なるほど。ハーヴェンに元気がなかったのは……このせいだったんだ。

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