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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−15 女神の蛹

「ところで……神父様がどうして、こんな所にいるの? えっと、あぁ! そういう事か。神父様も……」

「えぇ、そうですよ、ロジェ。……私も晴れて、こちら側の存在になりました。歪んだ世界を作り出した神に、復讐するため。……ようやく、本当の力を取り戻したのです」

「……神父、様? えっと……」


 ハインリヒに引きずられては、渋々同行していたロジェがプランシーの姿を認めて嬉しそうに声をかけたのも、束の間。ロジェの問いに対して、彼の柔和な記憶をあっと言う間に塗りつぶす程に、悍ましい笑顔を浮かべてはプランシーが口元だけを緩ませる。一方でロジェは、プランシーが渇いて薄い唇の下に、鋭い牙を覗かせているのも認めては……彼が自分の知る「善良な神父」ではないと悟って、後退りし始めていた。


「ロジェ、どうしたの? ……この人、知り合いなの?」

「う、うん……ここに来る前は一緒にタルルトって町に住んでいたんだけど……。でも、神父様は……こんな怖い顔で笑う人じゃなかったと思う……」

「そうだね、ロジェ。……今の私はきっと、君の知る神父ではないだろう。何せ……今ではこの手で、何よりも忌々しい子供達を屠った悪魔なのだから。そうだよ。……私は、この世界の神に復讐するために悪魔になったんだ。そして……私に苦労ばかりを押し付けてきた世界そのものを変えてやるために、こうしてこちら側にやってきたんだよ」


 明らかに恐ろしいことを平然と言ってのけながら、更に口元を歪ませるプランシー。しかし、今の彼の関心事はロジェではないらしい。やや苛立ち気味のハインリヒに、目の前のグラディウスがどんな状況なのかを問う。


「ハインリヒ様。ところで……今のグラディウスはどのような状況なのでしょうか?」

「……あれを覆っている白い繭はおそらく、ルートエレメントアップの効果によるものでしょう。この魔法はディバインドラゴンの命を糧に霊樹の鎖を作り上げ、一時的にコントロールするための固有魔法です。本来であれば、竜界のドラグニールが対象となるはずですが……霊樹は皆、同じ魔力構造を持っていますからね。応用も利くという事なのでしょう」

「だとすると、オズリック様は……」

「そうですね。……契約主に食われたと判断するのが妥当かと」


 それでなくても、兼ねてからフランツの皮を被った彼女はグラディウスの完成を今か今かと待ち望んでは、オズリックを急かしていた。なので、ハインリヒもフランツが勝手にグラディウスを稼働させそうだと予想しては、オズリックに定期的に様子を見にいかせていたのだが。しかし、その素性をよく知るはずのハインリヒも彼女……ミカエルの堪え性がここまで薄っぺらいとは、予想できなかった。


「……仕方ありません。ここは避難に乗じて、僕達もグラディウスに乗り込んでしまいましょう。あぁ、それと、コランド……いや、プランシー」

「はい?」

「……天使との契約は切っておきなさい。今のあなたには天使との契約はもう必要ないでしょうし。それが残っていると……」

「実は先程から、何度も試しているのです。しかし、何故か……片割れがそれを拒んでおりましてな。フン、本当に忌々しい。あれ程までに鮮やかに赤い記憶を思い出したというのに……未だに、浄化を求めるなんて。先方の大天使は片割れにとって、相当の拠り所でもあったようです。強制契約解除はミカエル様の分だけしか、できておりません」

「……そう、ですか。まぁ、いいでしょう。でしたら、あなたにも僕の紋章を刻んでおきましょかね。……それさえあれば、絶対逃避の特殊能力を付与できますから」


 しかし、ハインリヒの提案の裡に醜悪な思惑も見透かしては、プランシーはそれは無理だと首を振る。ようやく自由になったのに、どうしてその自由を差し出してなるものか。

 それに、2人が1人に逆戻りして「本当の力」を取り戻したとは言え、カイムグラントはどこまでも「憤怒の悪魔」であることに変わりはない。プランシーが頑なに彼の提案を拒否するのは至極真っ当な反応である。


「あぁ、言われればそうか。……あなたは既にしっかりと悪魔として、認められていましたものね」

「えぇ、まぁ。……この場合はそういう事になりますか」

「フン。……いいでしょう。とにかく、今はフランツの単独行動を阻止するのが最優先です。……ヨフィ、申し訳ありませんが、あなたは刈穂ちゃんの所へ戻っていて下さい」

「かしこまりました。……ご用があれば、お呼び出し下さい」


 やはり、紋章を与えた相手は素直で助かると、従順なヨフィの態度に満足しつつ。同じ境遇だというのに、生意気な態度を崩さない2人のデミエレメントも巻き添えにする事を決めると、ハインリヒはグラディウスの内部へと侵入を試みる。

 白い産毛に包まれて、ゆらりゆらりと空へと登る姿はまるで、純潔のゆりかごに揺られているよう。本来はどこまでも真っ黒で、どこまでも不気味な鐵の肌をしていたというのに。今のグラディウスは……羽化を待つ女神の蛹そのものだった。

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