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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第18章】取り合うその手に花束を
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18−3 報われない事

 ロジェとタールカに連れられて。彼らの握るサンクチュアリピースが導く先に目を凝らせば、やっぱりいつかの真っ白なあの空間。彼らの話によると、ここは地下に埋まっている奴らの「ラボ」ということらしく、その中でもハール(エドワルド)はラボエリアとやらの1室に留め置かれているらしい。


「……僕、初めは兄上に復讐したくて力を貰ったんだよ。母上や僕に苦労させた兄上に仕返ししたくて……手術も受けたし、身体中が焼けるように痛む人工エーテル溶剤も言われるがままに飲んだりもしたんだ。そうして、やっとこの姿になったのに……本当は兄上が何も悪くなかったことが分かったんだ。兄上はこっちの奴らに……」

「それ以上はいいよ、タールカ。……そか。エドワルドもタールカも……こっちの奴らのせいで、辛い思いをしたんだな……」


 元々のタールカの狡猾な様子を思い出せば、今の話が嘘だって可能性も捨てきれない。だけど、子供達が無理やり精霊化させられた光景を目にしてきた以上、この子の言う「苦痛」は本当のことなのだろうと理解しては、彼を丸ごと信頼するかと覚悟もしてみる。

 ……それでなくても、向こうさんにとっては俺がここにいることは、もの凄く都合が悪いはずだ。そんな俺をこうして手引きしている時点で彼らの覚悟も相当のものだろうし、タールカの話が本当だとすれば……この子達を俺が連れ帰って「一緒に暮らそう」と提案することは、不都合以外のナニモノにもなり得ないだろう。情報漏洩を考慮した場合に、最大限の警戒対象になり得る俺がフラついているのが見つかったら、穏便には済まないに違いない。……最悪の場合、強行突破も想定しておいた方がいいかも知れないな。


「……ハーヴェン。そう言えば……その。こんな所で聞くのも、変なんだろうけど。……エルノアは元気?」


 そうして俺がこっそりと、暴れる算段をあれこれ考えていると。ロジェが遠慮がちに、エルノアの近況を聞いてくるが。そう言えば、ロジェはエルノアの事が好きだったんだっけか。それで……うん。隠れ悪女の方はロジェの事を覚えていなかったんだった。……なんて、報われない事でしょう。


「エルノアは今、脱皮をしていてな。竜族は心が成長すると、本性側で脱皮をして大人になるんだそうだ。だから……あの子は大人の階段を1つ登ろうとしていて、そのチャレンジにちょっと苦戦しているみたいだな」

「そう、だったんだ……。というか、竜族ってそうやって大人になるんだね。だとすると……」


 うん、まぁ……そういう事になるんだろうな。ギノのパターンを考えれば、ロジェとタールカはいわゆる「デミエレメント」……要するに、正式に精霊としての仲間入りを果たしていない状態なのだろう。それはつまり、彼らはこのままの状態だと本性側の姿を持てないという事であり、延いては大人になれない事を意味している。だったらば……。


「やっぱり、エドワルドのお見舞いが済んだら、2人も向こうで暮らした方がいいだろうな。……このままじゃお前達は精霊になることも、大人になることもできない。ここはしっかりと竜神様に相談した方がいいだろう」

「竜神様……?」

「おぅ。竜神様っていうのは、エルノアの父親のことなんだけど……彼はバハムートって言う、竜族の中でもかなりの実力者でな。とっても物知りな上に、面倒見もいいもんだから。きっと、2人のこともしっかりと考えてくれるだろ」

「それ、本当? ……本当に、僕達もきちんと竜族になれるのか?」

「多分、本当。もぅ〜……そんなに心配そうな顔、すんなって。ちゃ〜んと、俺も一緒に頼んでやるから」


 両側から縋るような視線を向けてくるお2人さんの頭をヨシヨシと撫でてやれば。今度はタールカだけではなく、ロジェまでグスグスと泣き始めた。……あぁ、何だろうな。気丈に見えてもきっと、この子達も不安で仕方なかったんだろうな。だったらば、悪魔のお兄さんもしっかりとフォローしてあげちゃうぞ。困っている相手を助けるのは嫁さんのお役目的にも万々歳だろうし、何より、俺自身も気分がいい。


「グスッ……って、変な話に付き合わせてごめんね、ハーヴェン。……ここがタールカのお兄さんのお部屋だよ」

「あぁ、やっぱり……って、トコロだろうな。実は、さ。俺自身は場所が分からないなりに、ここに来た事があって。……一応、チラッとハール様にお会いした事があったんだよなぁ」

「そうだったの?」


 と言っても、あの時は俺の方も「シェルデンさん仕様」でのご対面だったから、ハーヴェンです……って名乗る訳にもいかなかったし、何より相手がエドワルドだっていう事も知らなかったんだけど。


「……あれ? 兄上? 兄上……どこに行ったんだろう?」


 ご相談混じりでノコノコとやって来たはいいが。肝心のハール(エドワルド)はお留守の様子。しかし、ロジェとタールカの話では、今のエドワルドは自分の意思で出かけられるような状態にはないのだと言う。


(とりあえず、この部屋にポイントを打ち込んでおくか……)


 そうして誰もいないのをこれ幸いと、こっそり「潜入ルート」を確保してみる。本当はプランシーの記憶が戻ってから、潜入の流れだったはずなのだけど。ミカ様の話から、あの「遺恨の言葉」はプランシーが刻んだ文字じゃなかったことも分かっているし……。そのプランシーも行方が分からなくなっているし……。ここは強引に、道を作っておくに限る。


「……もしかして、ハインリヒ様に連れ出されたのかな……」

「ハインリヒ?」


 そうして俺が任務に勤しんでいると、ロジェが訝しげに首を傾げている。彼によると、ハインリヒとやらに「勇者様のお相手」をお願いされたのが、兄弟の再会に繋がったそうで……エドワルドをハールとして完成させようとしている「こっち側」の偉い奴でもあるらしい。


「ハインリヒ様はラボエリアの偉い人でね。表向きは教会の幹部だったと思うけど……でも、彼の中身も人間じゃないよ。正体は分からないけど、フュードレチアのおばちゃんを使って僕達みたいな竜族っぽいのを量産していたみたいだし……」

「って、今……なんて? フュードレチア……だって?」

「えっ? ……うん。フュードレチアっていう、少し前まで竜族のおばさんがいてさ」

「でも、確か……試作品同士で喧嘩になって、死んじゃったんだっけ?」


 オイオイオイ……こんな所で行方不明者の訃報を聞かされる羽目になるなんて、思いもしなかったぞ。だとすると……。


(……あぁ、そういう事か……。彼女がミレニアムポートで迷い込んだのは……)


 不運にも、こっち側の空間だったんだな。ルシエルの話では、地下に埋まっているこの場所は天使様方の監視にも引っ掛かりにくい位置にあるらしい。……竜族クラスの精霊がストレートに見つからなかった事を考えても、その隠蔽加減は相当に手が込んでいるのだろう。やれやれ。……また1つ、複雑な事情を抱え込んじまった。悪魔のお兄さん、厄介事からも人気者すぎて、とっても困っちゃうんだな。

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