表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第17章】機械仕掛けの鋼鉄要塞
737/1100

17−27 そんなモノ、知るかぁッ‼︎

 フォウル君から呼び出しを食らって、人間界に降臨してみた。もちろん、それは問題ないよ? でもって、その呼び出し先はパパ(先代オベロン)のお店だった。まぁ、その辺も違和感はないかもね。だけど……今目の前で、妙に「見覚えのある文字列」をカタカタと呟いているのは、生存が絶望的だと思っていた機神族なわけで。……これ、何がどうなっているんだろう。しかも……。


「……この子、もしかして……」

「もしかして? なんなのだ、大天使」

「う、うん……この子が今呟いているのは、監視システムのプログラミング言語なんだけど……」

「プログラミング……言語とな? それで……ヴァルプスは無事なんじゃろか……?」


 ボクに縋るような涙目を向けてくるのは、先代オベロンさんの知り合いで、レプラコーンの精霊落ちだというお爺ちゃんだった。なんでも、彼が居着いた家にあった魔法道具のおかげで、この「ヴァルプスちゃん」は機神族なのにも関わらずローレライの外でも生き延びていたらしい。


「……ヴァルプスはワシが見つけた時は名前しか、覚えていない状態だったのです。じゃから、魔力の器の代替になる魔法道具を乗せてみたんですけど……。その結果、辛うじて稼働だけはできるようにはなりまして。それで、こうして記憶はないなりにワシのところで、手伝いをしてくれていたのです」

「そうだったんだ。……で、この子が無事かどうか、なんだけど。こればっかりはリブートが完了するまで分からない、が正直なところかな……」

「なんだ。勿体ぶった割には、やっぱり大天使も大した事ないな。そのくらい、分からないのか?」

「こら、フォウル! 大天使様に向かって、その言い方はないだろう? それに、分からないのは僕達も一緒じゃないか」

「ゔっ……だけど、パパ。天使であれば、機神語くらい分かって当然なのでは……?」


 そんな訳、ないでしょうに……。まぁ、ボクはとある事情でこの系統の言語は見慣れているから、ある程度は分かるけど。普通はそんなに簡単な事じゃないんだからね? それにしても……そっか。機神語って、塔の管理システムと同じプログラムを使っていたんだ……。


(まぁ、それも当然と言えば、当然か……。何せ……)


 ローレライは救済の大天使・ラファエル様によって植えられた霊樹であり、その領分に「救済」の意義も含まれている。そして、そのラファエル様は今の塔の監視システムのベースを作った天使でもあり、完全オートで魔力情報から異常事態を拾うシステムを作り上げた。それが塔の管理システムのベースでもある「ポーリング&トラップ」による異常事態検知の仕組みなんだけど……。ラファエル様が妙に凝り性だったせいで、完全オートに拘りすぎたあまりに、システムの構築部分には妙に難解な文字列が並ぶ結果になったんだよね……。

 神界の監視システムの根幹は、便宜的にプログラミング言語と呼ばれる特殊な文字列で構成されている。ボクはそれを「命令文」とも呼んでいるけど、そもそも通常の言語と異なるアルゴリズムをわざわざ使っているのは、塔のシステムがボク達の言葉をそのまま処理できないから、という事になるらしい。……あ、違うか。この場合は、塔のシステムを構成している文字列をボク達でも何となく分かるように翻訳した結果だと言った方が正しいかな。

 まぁ、何れにしても……塔の監視システムは記述された命令文通りにデータを収集して、規定外の異常値を観測すると警告を上げる仕組みになっているんだけど。ただ、この仕組みだと規定内の数値や挙動だった場合は異常事態も見逃しちゃうんだよねぇ。正常値を監視するのが難しいのは、対象に実際に異常事態が起こっていても、システムの仕組みに「正常な相手」と「数値だけは正常だけど非常事態」の相手を情報だけで見分けることができないから。そして、そんな数値を見つめているだけのボク達にも、「異常値になる前の正常値」を見分ける事はできない。大抵の場合、対象が「異常値になった後」で警告が鳴ったところで、手遅れだろう。そして……。


「……この様子だと、ヴァルプスちゃんが検知したのは、監視対象の異常値みたいだね。えぇと……もしかしたら、これで情報データのアーカイブを覗けるかな?」

「ほよ? 天使様……それは何じゃろ?」

「あぁ、これ? これは大天使専用の管理者デバイスなんだけど……。ボクは神界の全システムの管理と改良をやっててね。よくこれを管理システムに繋いで、データの収集と閲覧をしているんだよ。で、どれどれ……? あぁ、こんな所にポートがちゃんとあるじゃない。それじゃ、これを繋いで……と」


 手元のデバイスとヴァルプスちゃんの首元にあるポートをケーブルで繋いで、早速中身を確認すれば。情報ツリーの中身が真っ赤なのに、すぐさまマズい事に首を突っ込んだのも悟る。うわぁ〜……こんなに黄色と赤のアイコンがフルコンボで並んでいるの、ボク、初めて見るんですけど……。しかも、知れっとクリティカルパープル(致命的破損、激ヤバい)のアイコンまであるじゃない。……これ、間違いなく緊急事態だよね……?


「……こいつはかなりヤバいかもね……。えっと、ヨハネさん……だったっけ?」

「は、はい!」

「この子なんだけど……さ。ヨハネさんが保護したのって、いつくらいの時期だった?」

「えぇと……確か、ユグドラシルが燃える少し前じゃったから……大体400年くらい前じゃろうか?」

「そう。400年前……か」


 さっきラミュエルと睨めっこしていたデータの一致期間もその位だったよね……。ヴァルプスちゃんが飛び出したのと、ローレライの消失が無関係なのは、まずまずあり得ないだろう。そして……この文字列からするに、ヴァルプスちゃんが監視していた対象エージェントは……。


「システム名・マネージャコード:VIRusira PUrification System……か。その頭文字を取って、この子は“VIRPUS”って名前なんだね。で、この子のマネージャモード起動条件なんだけど。アーカイブ情報を見る限り……エージェント名“VIRusira”との疎通不能、つまり機神王・ブリュンヒルドの絶命がトリガーみたいだね」

「機神王・ブリュンヒルドの……」

「絶命、だって?」

「な、何たる事じゃ……!」


 情報からするに、ヴァルシラの絶命時間はおよそ、1時間前くらい。だけど……この子のプログラムがとってもお利口だったお陰で、彼女の最期の場所もある程度は特定できているっぽい。で、その座標を神界が管理している世界座標のデータに当てはめてみると……あぁ、やっぱりってところかな。この場所はどこをどう見ても、例の真祖様に滅ぼされた旧王朝じゃないか……。


「……おや? どうやら……リブートの準備ができたみたいだね。でも……うん? パスワードが必要なのかな?」

「システム起動の準備ができました。パスワードを入力してください」


 そんな事を急に言われても……。パスワードなんて知らないよ、ボク。えぇと……神界の監視システムの管理者権限のパスワードでイケるかな……?


「パスワードが違います。あと2回でロックがかかります」

「って……おぉい⁉︎ 失敗回数、少なすぎでしょ、それッ! あと2回って!」

「なんだ、大天使のクセに……パスワードとやらも知らんのか?」

「あのさ……フォウル君。さっきから気になっていたけど……天使は万能じゃないんだよ。なんでもかんでも知っているワケ、ないでしょーが!」

「……本当に申し訳ございません、ミシェル様……。事あるごとに、息子が生意気を申しまして……」


 って、今はオベロンさん達と戯れあっている場合じゃないか。何かヒントがないかなと、もう1回改めて画面を見つめると。そこにはご丁寧に「パスワードを忘れた場合は」なんて書かれている。と、言うか……この場合は忘れたと言うよりは、知らないって言った方が正しいんですけど……。


「えぇと……ナニナニ? パスワードのヒント……?」

「ヒント、とな? えぇと、天使様。それは、どんなヒントなんじゃろ?」

「うん、とね……。“主人の名前を入力せよ”……って、おぉぉぃ! そんなモノ、知るかぁッ‼︎」

「おぉ! 天使様が怒っちょる! しかし……ヴァルプスに主人なんて、おるんじゃろか?」

「普通、主人と言えば夫か、或いは……精霊の視点からすると、契約している天使様……になるでしょうか?」

「じゃが……マルディーン様。ヴァルプスは精霊落ちなのです……。契約はしていなかったかと」


 そうなると……この「主人」はヨハネさんのことで合ってる? あ、違うか。ヴァルプスちゃんの名前はヨハネさんが付けたわけじゃないものね。このシステム自体はヨハネさんに会う前から組み込まれていたものになるんだろうし……。


「まさか……ヴァルプスちゃんの主人じゃなくて、ヴァルシラの主人のことを指しているのかな……」

「ヴァルシラ……? あぁ、ここにあるブリュンヒルドのことか?」

「うん。で、そのヴァルシラにはきちんと契約主がいてね。ボクの同僚で……救済の大天使なんだけど」


 猶予はあと2回。たった2回しかないと言われれば、それまでだけど。逆に言えば、あと1回は間違えられるんだよね? そんな絶妙などん詰まり感も、強引に受け流して。ボクは思い切って、ヴァルプスちゃんの胸のパネルに表示されている「パスワード入力欄」に同僚の名前を入力してみる。すると……。


「パスワード、認証しました。

 これより、緊急コネクトモードに移行します。

 座標位置、特定。

 VIRusira PUrification System ウィッチモード起動。

 飛行形態、準備。

 必要な構成データと魔力を収集しています。

 残り時間を計算中……」

「……飛行形態……?」


 えぇと……? これってつまり、この子が直接目標に飛んでいって……エージェント(ヴァルシラになるのかな?)を修復する流れになるんでしょうか?


「ちょ、ちょっと待って、ヴァルプスちゃん! 今のヴァンダートにそのまま飛び込むのは危険だから! まずは調査してから……」

「魔力充填完了予定:およそ145時間18分後。

 処理が完了するまで、このままお待ちください」

「慌てるな、大天使。どうやら……その処理には145時間もかかるみたいだぞ?」

「う、うん……。いきなりチュドーン! にはならない訳か……。そりゃそうだよね。人間界の魔力は薄すぎるもんね……。タハハハ……」


 だけど……さ。これは要するに、145時間(約6日)以内に調査を完了せよと……そういう事で合ってる? 何気なく、フォウル君見守りサービスの一環で呼び出しに応じてみたけれど。こんな所で、別の見守りサービスに参加させられる羽目になるなんて、思わなかったなぁ……。どうしよ、これ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ