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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第17章】機械仕掛けの鋼鉄要塞
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17−15 最高の相談相手

「こっちで会うなんて、珍しいよね。どうしたの、リッテル」

「すみません、ザフィール様。実は主人から、ちょっとしたお願いがありまして。相談したいことがあるのですが……」

「お願い? と言うか……もぅ、ザフィでいいわよ。水臭い。それで? グリちゃんは私にどんなお願いがあるのかしら?」


 神界でのザフィールは仕事も確かな上級天使で、転生部隊の中でも一目置かれる存在だ。そんな手腕も見事な優等生に、下級天使のリッテルが気安く直談判など……本来はあり得ない話だったのだが。時代は変わったと言うことだろう。翼の数で相手の実力を測る天使達の習性はそのままではあるものの、今の神界にはかつての刺々しい空気はない。部門が違う上位者への相談も気軽にできるようになっていたし、各部門間の垣根も相当に低くなっていた。


「……と、いうことでして……。シルヴィアちゃんに必要以上の無理をさせないように、彼女に外付けの魔力の器を作ってあげたいんです。ですけど、それにはどうしても彼女の血液が必要で……」

「なるほどね。それは確かに、私を頼るのも納得だわさ。向こうでは医者ってことになっているから、採血のミッションは難なくクリアできると思うわ。ただ……この場合の問題は、そこじゃないわよね」

「……そうですね……」


 しかし、気軽に相談できたところで、目的の達成難易度については別次元の話である。シルヴィアから血液を採取すること自体は、「ザフィ先生」の立場があれば苦労はしないだろう。しかし……そうして出来上がった魔法道具を本人に説明もなしに取り付けるのは、明らかに反則である。シルヴィアに役目を全うしてもらうには、本人の理解と了承がどうしても必要だ。なので……この場合は、誰かが彼女に役目と負担の内容をしっかりと説明しなければならない。


「……やっぱり、その辺りはルシエル様に改めて相談します。きっと、お願いすれば主人も説明役を引き受けてくれると思いますが……その。シルヴィアちゃんの事に関して、彼の方は色々と思うところがあるみたいで。原因を自分が作ってしまったと、後悔しているみたいですし……あまり、無理はさせたくないのです……」

「そっか。ふ〜ん……それにしても、グリちゃんがねぇ……。まぁ、その辺はあまり深く聞かない方がいいかしらね。私も、それに関してはルシエル様がお戻りになったら相談するでいいと思うわ。ま、お注射の方は任せてちょうだい」

「はい……! よろしくお願いいたします! あっ、そうだ。……ところで、ザフィ様に聞くのも変な話なのですけど……そのルシエル様がどちらにいるか、ご存知ないですか?」

「竜界に行っているらしいわよ。何でも、ドラグニールに確認しなければならないことがあるとか」

「そうだったのですね……」


 う〜ん、どうしようかしら……と、悩んでいるのを見るに、リッテルの方は魔力の器以外の部分でも相談内容がある様子。綺麗な顔をややこしい表情で歪めているのを見るに、重要な内容でもあるらしい。


「どうしたの、リッテル。私で良ければ、話は聞くけど」

「ありがとうございます。ですけど……多分、大天使様クラスでないと分からないかもしれない事なのです……。その……ザフィ様はアポカリプスの発動条件って、ご存知ですか?」

「アポカリプスって……あのマナ語の最強魔法よね?」

「そうです、それです、それ。実は、外付けの魔力の器……“ヴァルプルギスの鼓動”と言うらしいのですけど、そちらの構築技術を教えてくださったコーデリアさんから、興味深い昔話をお伺いできまして。そのお話の中に、2300年前のバンリでアポカリプスと思われる魔法が使われた経緯があるみたいなんです。そして……その魔法のせいで、コーデリアさんはお子さんを失う事になって……」


 相談内容を白状するついでに、情報源のコーデリアに深く同情した様子でオヨヨと涙を流し始めるリッテル。一方で、それは確かに不可解だとザフィールは考えていた。何せ……彼女が知り得る範囲では、アポカリプスは構築を理解していても、特定条件を満たさない限り行使できない魔法なのだ。そして、その条件というのが……。


「……私も使えない魔法だから、確実な事は言えないけど。確か、アポカリプスはマナの女神の固有能力を概念化した魔法らしい、って聞いた事はあるわ。そもそも、マナ語の魔法はマナの女神の力の上澄みを天使が使えるように考案されたものみたいだし。で、その肝心の条件だけど」

「は、はい!」

「……マナの女神はもちろんとして、基本的には始まりの天使達しか使えない魔法だったはず。まぁ、ノクエルが使った形跡もあるみたいだけど。彼女の場合は特異転生体だった上に、ウリエル様の共鳴魂持ちって言うトリックがあったし……特殊事例だから、例外として考えるべきね」

「と、言うことは……お話に出てきた魔法の術者は、始まりの天使の誰かって事でしょうか?」

「そうかも知れないわね……って、結論を急ぐ前に。もぅ、ここは神界よ? まさに最高の相談相手がいるじゃない。さっき、告知されていた内容にもちょっと関連しそうだし……こうして、返信をして……っと」

「……ザフィ様。一体、誰にメッセージを送られたのですか?」

「うん? もちろん、ルシフェル様に決まっているでしょ? 今の神界でアポカリプスを使えるのは実質、ルシフェル様とマナの女神だけだし。きっと、相談にも乗ってくれるわ」

「え、えぇ……。ですけど……」


 それこそ、その直談判は今までの神界では考えられなかった事だ。そもそもリッテルがルシエルを探していたのは、他部門の上位者にお伺いを立てる場合、上司の大天使を経由しなければならないからである。告知に対してアンケートがついていたり、要返信となっている場合は直接のコンタクトもアリだろうが……ただの業務連絡に対して、上級天使階級以下の天使が所属が違う大天使クラス(今回は更に上の天使長)相手に直にメッセージを送るのはご法度だったはず。しかし……。


「ほらほら。早速、お返事を下さったわよ。……今から天使長室に来なさい、ですって」

「え、えぇ⁉︎ ルシフェル様、お返事くださったのですか⁉︎」


 天まで高く聳えると思われていた敷居の高さも、もう過去のものになりつつあるようだ。最近は共有される情報も部門の縛りがなくなってきているし、現にザフィールとリッテルに送信されている告知内容は全く同じ……寸分違わぬものだった。昔は下級天使には必要な情報さえ、落ちてこなかったりしたのだが。神界もしっかりと変わりつつあるという事なのだろう。


(……そうよね。今の神界はみんなで頑張れるようになったのですもの。あぁ……それにしても、緊張してきちゃった……。ルシフェル様とお話するなんて……私、上手くできるかしら……)

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