3−1 嫁アピールをしておいてもいいかもしれない
約束は約束なので、ハーヴェンが帰ってきたことをラミュエル様に報告する。それは自動的に、マディエルの耳にも顛末を入れることになるのだが……もう、無駄に繕うのはやめた。もし深いことを聞かれるようであれば、ある程度は正直に答えよう。それで翼を失うことになるのなら……それはそれで構わないと、私は既に吹っ切れていた。
「……ハーヴェンが帰ってきました。彼曰く、重要な記憶を取り戻した上に、魔力も大幅に上がったと申していました。話はまだ全て聞けていませんが、試練は無事に達成できたそうです」
「そう、それは良かったわね〜。それにしても……ハーヴェンちゃん、更に強くなっちゃたの? もぅ、愛の力でパワーアップとか、素敵すぎるにも程があるわ〜。ね、マディエル?」
「はいぃ〜。お陰様で、小説も今まで以上にパワーアップできそうです〜。あ、それと、ハーヴェン様に試練達成おめでとうございます、と伝えてください〜。マディエルをはじめ、神界のハーヴェン様ファンクラブ一同、全力で応援していますぅ!」
「え、えぇ。ありがとう……?」
悪魔を全力で応援する天使とか……どうなんだろう。しかも、ファンクラブ? いつの間に、そんなものが出来上がっていたのだ?
「ところで、ルシエル。それ、何かしら?」
「?」
「ほら、その綺麗な指輪。見た所、相当レベルの魔法道具みたいだけど。それ……どうしたの?」
やっぱり、気づかれたか。話題に登らなければ特に話すつもりもなかったが、この際だから正式に嫁アピールをしておいてもいいかもしれない。(初耳だが)ファンクラブとか訳の分からない集団も出来上がっている事だし、悪い虫はブロックしておくに限る。
「ベルゼブブからのお祝いのペアリング、だそうでして……。それで、ハーヴェンから指輪をもらうと同時に、プロポーズされました……」
しばしの沈黙。悪魔である彼と「そういう仲」になるのは、「仲良くしていること」とは別問題なのだろうか。それが「否」と判断されるのなら、ある程度の懲罰を覚悟した方が良いのかもしれない。しかし、そう思いながら体を強張らせている私の上に降りかかったお言葉は……安定の斜め上のものだった。
「まぁ〜‼︎ それ、ホント⁉︎ で、で? お返事したの? ルシエルは……なんて答えたのッ⁉︎」
ラミュエル様の興奮具合から察するに……どうやら、前向きな反応のようだ。正直に答えても、大丈夫そうか?
「……そこまでされてノーと言える程、私も薄情ではありません……」
「きゃ〜、素敵すぎるわ‼︎ もぅ、最高にロマンチックじゃない〜。あぁ、次の物語の出来上がりが楽しみだわ〜」
「そうですね〜。もう、これはハッピーエンドの小説を急いで書き上げるしかないですぅ。タイトルはなんにしようかなぁ……エヘヘヘヘ……」
譫言を言いつつ、花畑に突入したらしいマディエル。そのトリップ癖、記録係としては致命的だと思うのだが。こんな調子で、この先……大丈夫だろうか。
「と、いう事ですので、彼はこれからも私の精霊でいてくれるそうです。ラミュエル様にもご心配をおかけしまして申し訳ございませんでした」
「いいえ、そんなことは気にしなくて大丈夫よ。それにしても、本当に良かったわね。それでなくてもルシエル、物凄く落ち込んでいたみたいだから。ちょっと、お仕事お願いしづらくて……。ハーヴェンちゃんもいないって事だったし、あなた以外の子達にお願いしたお仕事があったんだけど」
そんなにも、私は見るからに落ち込んでいたのだろうか。まさか、私情で仕事に支障を来していたなんて。
「申し訳ございません。そのようなご配慮をいただいているとは、知らず……挽回の機会を頂けるのであれば、何なりとご用命ください」
「あ、別に責めているつもりはないのよ? ルシエルは自分のお仕事はちゃんとしているし。それでなくても、今までルクレス以外のことも押し付けちゃっていたし。ただね……今回はかなりの非常事態になったみたいで……」
「非常事態?」
「えぇ。……アーチェッタに派遣した天使3名が殉職……しちゃって……」
「⁉︎」
殉職? どういうことだ? 確か、アーチェッタにはラミュエル様の直轄部隊の監視を付けるという話だったと思ったが……。
「アーチェッタの監視を強化しようと、上級天使を3名……しかも1人は排除部隊の天使……を派遣していたのだけど。どうやら、何者かに殲滅されてしまったようなの……」
「上級天使に、しかも排除部隊の……となると、かなりの戦闘能力を有している天使、ということですよね? それが殲滅? ですか?」
「そうなの……。アーチェッタで、何かよくない事が起こっているみたいなのよね。それとね、アーチェッタを擁するローヴェルズと、隣国のクージェで何やら戦争が起こりそうな雰囲気だし……人間達のやることに直接手を出さない決まりとは言え、流石に天使さえも殺される事態が起こったとなれば、手を拱いているわけにもいかなくて。……で、もし良ければ、ルシエルにもう一度アーチェッタに赴いて状況を確認して来て欲しいの。丁度、ハーヴェンちゃんも帰ってきたみたいだし……協力してくれないかしら?」
「もちろんです。ハーヴェンもきっと、力を貸してくれると思います」
「そう言ってくれると、嬉しいわ。で、今回もマディエルと……それと、排除部隊から人員を借りることにするから、そうね……明後日にまた来てくれるかしら? それまでに準備しておいてちょうだいね」
「かしこまりました」
「それにしても、あなたとハーヴェンちゃんの活躍があって、こうして受け持ちが違う天使同士で協力できるようになって、とても助かっているわ。……やっぱり、何事も手を取り合うことは大事よね。ね、マディエル?」
「そうですね〜。私も自分が書いた小説がこうして、皆さんに喜んでもらえて嬉しいですぅ。とにかく、ルシエル様、今回もよろしくお願いいたしますぅ〜」
「……こちらこそ、よろしくお願いいたします……」
そちら方面はあまり、よろしくお願いされたくないのだが。ここは素直に応じるべきところだろう……か。