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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第2章】記憶の奥底
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2−32 恋する乙女の行動力

 精霊帳を記憶台に置いて待つこと、数分。無事に記録されたコンタローのデータに早速、目を落とす。


【ウコバク、魔力レベル2。魔神、炎属性。ハイエレメントとして闇属性を持つ。攻撃魔法を行使可能。登録者:ルシエル】


 とても悪魔には見えない癒し系な挿絵は、つい頬が緩むくらいに可愛らしい。魔力レベルも2、と強さも可愛い部類に入るだろう。

 そんなウコバクのお頭らしいハーヴェンが魔界に帰ってから、既に2日が経っていた。彼の作り置きはとっくに尽きてしまっているため、仕方なく最近は神界で最低限の魔力を補充しては帰るようにしている。ずっとこちらにいてもいいのかもしれないが、できるだけあの家で彼の帰りを待っていた方がいい気がして……結局、あちら側で寂しい夜を過ごす日が続いていた。

 そうして今日も何かを諦めながら、報告書を出して帰ろうとしていたところで、ラミュエル様の従者に声をかけられる。どうやら……またも、彼女がお呼びらしい。


「ね、ね、魔界に何をしに行ったの? もしかして、ハーヴェンちゃん絡み?」

「何をしに行ったと申しましても……」


 先日提出した報告書に目を通したらしいラミュエル様が、目を輝かせて詰め寄ってくる。流石に魔界に足を踏み入れ、しかも……向こうの大物に出会ったとあっては報告しなければと思い、きちんと具に記載したつもりでいたのだが。見れば……傍らには中級天使に昇進し、ラミュエル様付の記録係になったマディエルが控えている。その手にはペンとノート。物凄く……嫌な予感がする。


「……いえ、別に大したことではありません。今、ハーヴェンが魔界に里帰りをしていまして。それで……」

「あら、正直に答えなさい? さ、何をしに行ったの? さっさと白状しなさいな」


 まるで、取り調べを受けている気分だが。こうなると逃げられないのは、とうに織り込み済みだ。どうして……いつもこうなるのだろう。


「ハーヴェンが人間の時の記憶を取り戻したみたいでして。突然、いなくなったものですから……バハムートに協力してもらい、魔界に乗り込んでしまいました。……あ、でも。心配してとかでは、断じてないですから!」

「ウフフ、一生懸命に否定するところがますます怪しいわ〜。なに、どうしたの? ハーヴェンちゃん……具合悪いの?」


 具合が悪い、か。この場合、あながち間違っていないのかもしれない。


「私も詳しくは分からないのですが……ハーヴェンは生前に相当、辛い思いをして悪魔になったようなのです。そして、辛い記憶と向き合うことで悪魔として新たな力を手に入れようと、現在試練に臨んでいるのだとベルゼブブから聞きました」

「で、あなたはハーヴェンちゃんのことが心配で、居ても立っても居られず魔界に乗り込んでしまった、と。もぅ、恋する乙女の行動力は、大物悪魔さえも動かすものなのね〜。ウフフ、素敵な物語になりそうね、マディエル?」

「はい〜。先日のルシエル様の報告書、私も拝見しましたぁ。もうちょっと情報が欲しいところですが……私の分は報告書として提出する必要はないですし、想像を膨らませて書き上げることにします〜」

「ちょ、ちょっと待て! 想像を膨らませた結果、私はどうなるんだ⁉︎ それ、最終的にはどうなるんだ⁉︎」

「うぅ〜ん。とりあえず、ハーヴェン様がお戻りになったら、教えてもらえると嬉しいですぅ。最後は報われる展開にしたいですし、お2人がより親密になる感じで次に繋げられればと思います〜」


 次に繋がる展開、か。これは……口が滑ってもハーヴェンと既に「そういう仲」になっていることは言わない方がいいな……間違いなく。

 それに、私達の関係性が「正しい姿」なのかが、私にも分からない。初めは成り行きで身を重ねたが、そもそも……天使と悪魔の組み合わせというのは、いかがなものなのだろう。ある意味、禁断の関係なのではないだろうか。


(禁断の……関係?)


 そこまで考えたところで、体が急に熱くなるのを感じた。今更……それがなんだというのだ。例え、私達の関係が許されないものだったとしても……私はこの先も彼を受け入れ続けるのだろうし、彼が望んでさえくれるのなら、それで構わないと既に諦めている。


(……何をバカなことを。とにかく、今はこの状況を切り抜ける方が先だ)


 見れば……2人の天使は呪いの書第4弾の準備で盛り上がっている。今はその熱に乗じて、この場を抜けるのが賢い選択だろう。


「……もう、よろしいですか? ハーヴェンは私が監督している精霊でもありますし、戻ってきたらご報告いたします」

「そうね、そうしてちょうだい。じゃぁ、また聞きたいことがあったら呼ぶから、よろしくね」

「……承知いたしました」


***

「あ、姐さん。おいらの出番でヤンすか?」

「あぁ、コンタロー。元気にしていたかい?」

「あい!」


 元気に尻尾を振って返事をする小悪魔に、お土産が入った袋を渡す。中身はコンタローの好物だという、煮干しのちょっと高級版。気に入ってくれるといいのだけど。


「ほら、小魚の丸干だよ。おやつに食べるといい」

「こ、これ……オリエント・ヤポネ産のニジヒメタラの丸干しじゃないでヤンすか⁉ 高級品のこれを食べられる日が来るなんて……姐さん、ありがとうでヤンす!」


 無事、小魚の特別感が小悪魔にもしっかり伝わったようだが……。つぶらな瞳をこれ以上ないくらいに輝かせて、生きてて良かったとか、大げさなことを言っている。こんな風に素直に喜んでもらえると、心なしかとても嬉しい。


「大切に食べるんだよ。ところで、今日は魔界に行きたいんだけど……大丈夫かな?」

「もちろんでヤンすよ!」


 このまま信じて待つべきなのだろうが……やはり、気になる。今日の仕事はちゃんと片付けてきたし、ハーヴェンの様子を見に行ってもいいかもしれない……と、気づいたら不思議とゲルニカの屋敷に足が向いていた。


「あら、ルシエル様。お元気でしたか?」

「えぇ、お陰さまで……ゲルニカ様と子供達は留守ですか?」


 子供達の姿が見えないとなると、出かけているのだろうか。ついで、という訳ではないが出迎えに来てくれたテュカチアに彼らの近況を尋ねる。


「子供達は主人と一緒に魔法の練習中です。ギノちゃんも順調に魔力の制御をできるようになったそうですので……もう少しで尻尾の包帯も取れそうだ、と主人も申していましたわ」

「そう、ですか。ギノは頑張っているようですね」

「えぇ、とても頑張っているみたいですよ。それに……もしかしたら、名実ともに私達の息子になる子かもしれませんし。今から、将来が楽しみです。ウフフ……やっぱり男の子もいるって、いいですわね」

「な、なるほど……」


 名実ともに息子になるって。幾ら何でも、気が早すぎやしないだろうか。まぁ、それはさておき……。


「コンタロー。それじゃ、すまないが道を作ってもらえるか?」

「ようがす。じゃ、鍵を使うんで……おいらを抱っこして、鍵穴の高さに合わせてくださいでヤンす」


 鍵を使うのに抱っこを要求してくる時点で、そのあざとさは流石というか。仕方なしに……言われた通りにコンタローの腋の下を支えて、ドアの鍵穴の高さに運んでやる。そうされてコンタローは嬉しそうに尻尾を振りながら、ベルゼブブから持たされた鍵を差し込んだ。


「では、行って参ります。帰りはもう一度ここを経由することになりますので、よろしくお願いいたします」

「えぇ、かしこまりました。お気をつけて、行ってらっしゃいまし」


 柔らかなお見送りを頂きながら、魔界へ再び足を踏み入れる。真祖の悪魔ともなれば、常々、多忙かも知れないが……話ができる時間をもらえるなら、ハーヴェンの具合を聞くくらいはいいだろう。

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