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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第16章】君と一緒にいるために
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16−2 準備運動の相手

「霊樹の根は獰猛だと聞いていたのだが、どうにもこうにも……手応えがなくていけませんな。ですので……次はあなた様で肩慣らしをできるとあらば、小生も腕の振るいがいがあると言うもの!」


 彼女(彼?)がどこか蔑むようにチラリと下の方に目線を向けるものだから、俺もチラッとそちらの様子を窺うものの。どうやら、ご主人様は相当こっ酷くやられてしまったご様子で……竪穴の底には無惨な根っこの残骸が堆く積もっている。しかし、こいつは向こうさんが大事に育てているらしい霊樹だったよな? 俺が心配する必要性は皆無だろうけど。組織的にはどこをどう見ても、セーフじゃなさそうなんだが。


「ご主人様のご容体は俺には関係ないか。……言っとくが、俺は準備運動の相手になるような小物じゃねぇぞ」

「ふふっ、笑止ッ!」


 ハイハイ、結局偉そうな態度は変わんねーじゃん。

 とは言え……腕前を見ていれば、その自信も当然なのかもしれないと、ちょっと思ってしまう。相手の斬撃は距離もなかなかだし、振りざまの動きにも隙がない。自分自身を振るうのが、どんな感覚なのかは分からんが……武器も体の一部だというご認識の度合いは、俺以上に進んでいるものと思われる。なんだけど。


「ま……俺からすりゃ、色々と甘いけどな。風切り! 居合斬りのお手本を見せてやれ!」

(良き良き、もちろんじゃ!)


 いつものように魔力を練り込んで、青鞘から一思いに風切りを振り抜くと……陰気な暗がりを鮮やかに照らしながら、金色の風撃が結構な距離を物ともせず刈穂さんの懐にしっかりと届く。居合斬りっていうのは対象までの距離があると、その分威力が弱まるもんだが。風切りは4振りの中でも遠距離攻撃が殊の外、得意だったりする。そこに俺の魔力をちっとばかし、乗せてやれば……しっかり威力も範囲も保ちつつ、閃光の一撃が凄まじいスピードで空間を切り裂いていく。


「……クッ⁉︎」

「ほれほれ、この程度で体勢を崩してんじゃねーし。次は……雷鳴! 思いっきり、ぶっ放していいぞ!」

(御意! お任せあれ!)


 右手の風切りを鞘に戻すついでに、左手で雷鳴を思いっきり振るう。そうして、空いた右手に今度は十六夜を握りしめ、縦に一閃。遠慮なく、雷鳴の攻撃を防ぎきれないままの相手の片翼をチョッキンと切り落としてみる。


「大口を叩いていた割には、大したことねーな。……奮発して全員、呼び出す必要もなかったか?」

(おほほ! 流石、若。我らの扱いを心得ておいでだの。して……ご褒美はまだかえ?)

「だーかーらー! 今はそんな事を言ってる場合じゃねーだろうが! もうちょい、緊張感ってヤツを持ってくれよ……」

(麻呂はレイジンツバキの油を所望じゃ! 主様、たっぷりと塗り込んでおじゃれ)

(拙僧には枝の付け根の指圧を是非に!)

「ダァァァァッ! いいから、本当に黙れッ! 頼むから黙れし! サービスは後でしっかりしてやるから!」

(某は妻君の抱擁があれば、概ね満足であります)

「……」


 1番聞き分けがいいように聞こえるけど、是光。それ、俺からすれば完全にアウトだから。そこんとこ、分かっているか?


「本当に気に入らない……! あなた様の不遜極まりない態度もですが、お前達は揃いも揃って……悪魔如きに身を許すなどと……!」

(酒呑、我らの存在意義を忘れたのかえ? 我らはヨルムンガルド様が身から出し、魔法道具ぞ。その意義は魔界を守護し、天使に一泡吹かせる事にある。だが……おほほほほぉ! 若の奥方はなかなかに良きお方。我の趣向をしかとアシストして下さる。……天使にしておくには、勿体無いのぅ)

「まぁ、十六夜ちゃんたら。お上手なのですから」


 すみませーん、リッテル様にゲスヨイマル殿。そこで勝手に変なタッグを組まないでいただけませんかね?


「……なんと、嘆かわしい。小生と同格であったはずの月読さえも、その体たらくとは……! 悪魔どころか、天使如きにまで肩入れするなどと……。しかし、はぁて。強欲の真祖様はご存知なのですか?」

「あ? 何を?」

「お前様の嫁とやらが……このティデルを堕天に追い込んだことを」

「それがどうしたよ。ティデルの性格の悪さはリッテルのせいじゃねーだろ」


 切り落とされた翼もあっという間に再生させると、間違いなく悪巧みしている顔をしながら、さも楽しげに嫁さんの悪口を宣う刈穂さんだけど。……なんだろうな。こうもアッサリ翼と一緒に気分も再生されたら、魂ごとへし折ってやりたくなるだろうが。


「その様子だと、委細は知らぬようですな? いいですか、リッテルという天使は……大罪を犯したというのに、へらへらと生き延びた恥晒し。そして、ティデルは特別扱いをされてまで、生き延びたリッテルを許せなかったらしいのです。たった1人で厳罰の必要性を訴えもしましたが、誰にも相手にされず……逆にティデルを馬鹿にする者までいたみたいですね」

「ティデルが、そんな事を……?」


 その言葉に明らかに動揺し始めるリッテルと、彼女の様子にしてやったりとニヤける刈穂さん。この場合は奴の外側がティデルの姿なのも、非常によろしくない効果を発揮しているんだろう。俺としては、リッテルはその辺もとっくに乗り越えられていたと、思っていたのだけど。……今のお言葉で、見事に罪悪感を蒸し返したっぽい。


「そう……ですよね。私のワガママで……みんなに迷惑をかけたのは紛れもない事実ですもの。でも……まさか、ティデルがそんな風に思い詰めていたなんて、思いもしませんでした……」

「ふん……お前は思想も心持ちも甘いようだな。どうせ、その美貌があれば大抵のことは許されるとでも思っていたのだろう? ティデルの記憶によれば……お前は碌に仕事もできぬクセに、態度だけは大きかったようだな。そんな下級天使が……真祖の嫁だと? ほんに……笑わせてくれるよの‼︎」

「……言いたいことはそれだけか……?」

「はっ?」

「……言いたいことはそれだけか、って聞いてるんだよ。この三下が……!」


 うん、俺としては色々と限界です。そろそろ本格的にプッツンしそうです。こうなったら……もう、ヤメヤメ。お答え次第では……ティデルを助けるなんて、生ぬるいことはこの際、忘れるとしよう。


「っと、大暴れする前に。一応、確認だが。今のご意見はお前のものか? それとも、ティデルのものか?」

「無論、我らの総意ですよ。リッテルを許せぬというティデルの恨みを代弁してやっただけではあるが……小生も、大いに同意する部分がありますな。流石は強欲の真祖様です。どうせ欲望に任せて、見た目だけの天使に現を抜かしているのでありましょう?」

「ふ〜ん……そう。あぁ、そう言う事。だったら……リッテル!」

「は、はいっ⁉︎」

「……トットとオーダーを寄越せ。この際……ティデルを助けるなんて、甘ったるいことはナシだ。こいつをこのまま生かしておけば、お前はもっともっと傷つく事になる。……俺としては、その状況を捨て置くわけにはいかない」

「で、でも……私がティデルを追い込んだのは……間違いないと思います……。ですから……」

「ですから? だったら、お前はどうするんだ? まさか、罪滅ぼしとやらでおっ死ぬつもりか?」

「……」


 選りに選って、そこでダンマリかよ。お前は刈穂さんの勝手な言い分を丸ごと認める気なのか? クソガキ共がいる手前、本当はそういう事はあんまり言いたくないんだけど。ここはしっかりと励ましてやらないと……だよなぁ。ったく、俺の嫁さんは本当に手が焼ける。……そんなに悲しそうな顔をされたら、一緒にクールダウンするしかないじゃないか。

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