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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第16章】君と一緒にいるために
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16−1 モッフモフにされたい奴はかかってこい

「やっぱり、奥にこんな場所があったか……」

「あなた、これってもしかして……」

「うん。こいつが例の女神様の台座だろうな」


 いつぞやの時のように墓場のご主人様に捕まるのも面白くないと、例の縦穴をひとまず無視して奥に進んでみれば。その先もまぁまぁ、無駄に広くて嫌になっちまう。そんなもんだから、他の皆さんとは別れて俺達はコンタローを頼りに探索を続けているが……ウコバクの鼻は嗅覚だけではなく、記憶力もバッチリらしい。コンタローのオツムの出来が如何程のものかは知らんが、鼻は優秀そのもの。一瞬だけでも同じ空間にいた相手の匂いはしっかり覚えているのだから、大したもんだ。


「……フンフンフン……あふ。あの男の人達の匂いは、ここで途切れているでヤンす。で、多分ですけど……」

「奴らはゴッデスピースで高跳び……ってところだろうな。あぁ、ご苦労だったなコンタロー。ここまで分かりゃ、上出来だ」

「あい!」

「うぅ……おいらも褒めて欲しいです……」

「ウコバクばっかり、ズルいでしゅ……!」


 そうして嬉しそうに飛びついてくるコンタローを撫でていると、今度は足元からちょっとした怨嗟の声が聞こえてくる。ったく、仕方ねぇな〜……。ポリシー的には、手柄がない奴を褒めるつもりはないんだが。ここはネタはなくとも、とりあえず「よしよし」してやった方が後腐れも面倒もない気がする。


「ハイハイ、お前らも大人しくしてて偉いぞ〜。ほれ、パパにモッフモフにされたい奴はかかってこいよ」

「は〜い!」

「僕もモッフモフしてもらうです!」


 手持ちの小悪魔をフルボッコならぬフルモッフにしていると、隣でリッテルがとっても嬉しそうに腹を抱えていらっしゃる。だけどさ……笑っていないで、お前も手伝ってくれないかな。一気に5人を相手にするのは結構、厳しいんですけど。


「……っと、まぁ。お遊びはこの位にして。こっちは一応の目的も達成したし、トットと戻るぞ」

「そうね。そろそろ……他のみんなも戻ってきている頃かしら?」


 確か集合場所は地下1階だったな。とりあえず……折角だし、ここにもアンカーを打ち込んでおいた方がいいだろうか。そうして調査結果も下準備も上々と、ポインテッドポータルの前払いを済ませて来た道を戻ってみるが。その帰り道、ご主人様の住処でちょっとした顔見知りに出くわすもんだからつい、足が止まる。あいつって、もしかして……。


「……なぁ、あれ……例のチビブスじゃないか?」

「え、えぇ。ティデル……よね、きっと……」


 さっきまでの嬉しそうな表情を一気に曇らせて、途端に悲しそうな顔をし始める嫁さん。その心配そうな視線の先には薄暗いお墓に合わせましたとばかりに、これまた真っ黒な翼をはためかせて、何かを夢中で切り刻んでいるティデルの姿がある。


(……どうしようかな。これは……)


 相手には気付かれていないみたいだし、このまま無視して戻ってもいいのかもしれないが。かと言って……あぁ、そうだよな。嫁さんの方はあいつを助けてやりたいんだろうな。彼女の視線に合わせるように、もう1度ティデルの方を見やれば……その手には初めてお目にかかるものの、どこをどう頑張っても見覚えしかない類の武器が握られている。あれが噂に聞く妖刀・陸奥刈穂……かな。多分。


「……仕方ない。ちょっくら、事情聴取でもしてみましょうか。そんで……奴からティデルを引き剥がせるようだったら、助けてやった方がいいんだな?」

「そうしてくれると、嬉しい……です。でも……あなた。その……」

「ま、勢力的には放置プレイが賢い選択だろうけどな。だけど……それをしたら、お前はきっと後悔するんだろ? だったら、俺としてもマスターのご希望に応えるだけだ。後悔するって分かってんなら、迷っている場合でもねーだろ」


 慰めるついでに、そんな事を言いながら励ましてやると。感激したように、今度はリッテルが涙目になり始める。あぁ、もう。そんな顔をされたら、必要以上に頑張るしかないじゃないか。


「……は〜い、そこのお嬢さん。ちょっと、お話いいかな〜?」

「おや? あなた様は、確か……」


 通りすがりの気軽な感じで、話しかけてみたはいいものの。なんだか……いつかの時に一悶着やらかしたチビブスと雰囲気がかなり違う気がする。その辺は、堕天したからって割り切ればオーケイ? なんて、俺の方は軽々しく思っていたんだけど。次から次へと伸びてくる墓場のご主人様の根っこを易々と御しながら、顎に手をやる仕草と醸し出される魔力の感じに、中身は既に別物らしいことに気づく。まさか、こいつは……既に食われた後か?


「その様子だと……お前、ティデルでもなさそうだな?」

「あぁ、あぁ。ティデルの記憶にもしっかりございましたね。あなた様は、かの強欲の真祖様ではございませんか。いやはや……こんな所でお目にかかれるとは、なんと素晴らしいことでしょう。ふふ、申し遅れました。小生は陸奥刈穂と申します。カリホちゃんで結構ですよ」

「……何、そのふざけた呼び名。偉そうな一人称使っといて、自分でちゃん付けとか。あり得ねーだろうよ……」

「おや……これは失敬。魔界の真祖様相手に“小生”では……失礼でしたかね」


 なーんか、調子狂うな……。と言うか、そもそも「小生」って話し言葉じゃなかった気がするけど。こんな状況で、そこは突っ込まなくてもいいか……。


「しかし……ふふふふ……。こんな所で最高の相手に出会えるなんて、なんと幸運なことでしょうな! 正直なところ、レプリカの根は小生の相手としては不足も不足。折角、愚か者の体を奪ったというに……刃の振りがいもなくて、飽き飽きしておったところなのです」

「ふ〜ん……それはそれは、いいご趣味なこった。悪いけど、俺はお前なんぞの相手をしてやるつもりはねーぞ。嫁さんのオーダーを満たせりゃ、それでいいんだが」

「ほぉ? 強欲の真祖様には嫁御がおいでか。しかも……あぁ、なんと愉快な! 魔界の大悪魔が小生の相手よりも、嫁とやらの要望を優先すると吐かすか!」

「おっと! 危ねーだろうが、このナマクラが!」


 小馬鹿にしたセリフのついでに、刈穂さんが見事な居合抜きをくれちゃうもんだから、そいつを躱しつつ。相手はお仲間だよ全員集合とばかりに、久しぶりに手持ちの奴らを全員呼び出してみる。なんだけど……あっ、こいつは逆効果だったか? クシヒメさん命の刈穂さんにしてみれば、かつてのお仲間も裏切り者に含まれる……よな、きっと。そのせいだろう、俺が呼び出した十六夜丸達の姿を認めた途端、刈穂さんがめちゃくちゃおっかない顔をし始めた。


「真祖とは言え……所詮、悪魔如きが小生を鈍呼ばわりなどと! しかも……お前様の言う嫁とやらは、そっちの貧相な天使かの? クククク……そうか、そうか。このティデルもそちらの嫁御には恨みがたんまりあると申しておるな」

「……!」


 恨みの方向、そっちかよ! 嫁さんをちゃっかり巻き込むなし!


「是光! 聞こえているか!」

(は、はいっ! お館様、某をお呼びでしょうか!)

「ハイハイ、呼びましたよ……っと。お前はリッテルをしっかり守っとけ! 言っとくが、嫁さんに傷1つでも付けたら、タダじゃおかねーぞ」

(無論! 某はこの身を折られても、妻君を守る所存にございます。これからも妻君の抱擁は某のものであります!)

「……ここで、不快度マックスなこと言わなくていいからな。空気を読め」

(おほほ……輝夜はあいも変わらず、好き者ぞ。して……若)

「お前もしっかり同類だ、このゲス野郎が! ご褒美は後でしっかりやるから、今は我慢しとけ!」

(おほほほぉ⁉︎ ゲス……ゲス……グフフフフ……!)

(まぁまぁ、月読の悪趣味は解せぬよの。しかして……かように皆が揃うとなると、あれは相当の使い手かの? 主様、麻呂を存分に振うておじゃれ)

(拙僧も望月に同じ。うむ、うむ……! 強者を前にしての、この緊張感! 武者震いも心地善きかな)

「お前ら、とにかく黙れ。おしゃべりは後にして、今は目の前の敵に集中してくれよ……」


 そんな事を仕方なしに懇願しながら、改めて刈穂さんに向き直れば。いよいよ呆れ果てましたとばかりに、軽蔑の眼差しをこちらにくれている。こいつは……うん。真祖様として、魔界を飛び出した「裏切り者」にはチィっとお灸を据えにゃならんな。

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