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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第2章】記憶の奥底
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2−16 竜族の魔除け

 上質の素材。司祭とやらの言い草に、改めて怒りを覚えながらも……今はゲルニカと話を進める方が先だと、渋々割り切る。折角こうして、竜神様のお知恵を借りに来ているのだし、怒るのは話が纏まってからにしよう。


「それはともかく、だ。あの子はこのままだと中途半端なまま、人間に戻ることも、精霊になることもできない。精霊になりきれない以上、ルシエルと契約もできないし……人間界で、魔力の維持もできなくてさ。何か、いい方法はないかな?」

「そうだな。では……しばらく、こちらで預かるというのはどうだろうか」

「お?」

「知っての通り、竜界の霊樹は生きているし、魔力の循環も順調だ。幸い、この黒の霊峰も女王殿下から十分に魔力を頂けているし、ギノ君1人くらい増えたところで、差し障りはないだろう」

「ここで魔力を補填すれば……ギノも晴れて精霊になれる、ってことか?」

「おそらく。後程、ギノ君の状態を確認させてもらうが……デミエレメントになっている時点で、エルノアの鱗が定着していると考えていいだろう。その先は……ギノ君次第だな」

「ギノ……次第?」

「ところでギノ君の尻尾、今どんな状態だ?」


 あぁ、そうか。未だに包帯グルグル巻きだもんな。


「ルシエルが止血をして、傷はふさがっているが……初めは鱗の枚数が足りなさすぎて、殆ど中がむき出しの状態だった」

「そうか。……鱗の色は?」

「色? 確か銀色だったと思うが。包帯の交換はルシエルがやっていたみたいだし、そういや……最近、確認していなかったな」

「黒くなっていたりはしないか?」

「ん?」

「……ギノ君はあの状態になって、どのくらい人間界にいたのだろうか?」

「大体……そうだな、4日くらいかな?」


 ゲルニカの質問の意図が見えないまま、正直に答える。俺が何気なく、そこまで答えたところで……ゲルニカがさも辛そうに、ため息をついた。


「……だとしたら、少しばかり厳しい状態かもしれんな」

「どういう意味だ?」

「人間界は魔力が薄い割には、瘴気だけは濃いところがあるだろう? エルノアはルシエル様と契約しているから、大丈夫だろうが……契約無しの精霊が生きていくには、過酷な環境だ」

「でも……ギノは今のところ、元気だぞ?」

「そのようだな。だから鱗が黒くなっていたりしないか、と聞いたんだ」

「黒くなっていると……何か、マズいのか?」

「……例えば、だ。私の鱗がなぜ、こんなに黒いのか知っているか?」

「お前がバハムートっていう、闇属性のハイエレメントを持っている種類だからだろ?」

「それはそうなんだが……実はバハムートの鱗は本来、銀色なんだ」

「は?」

「バハムートの鱗は角を経由することなく、瘴気を自らの力に変換することで……魔力と一緒に、闇を溜め込むことができてね。その結果、だんだんと黒く染まっていく」

「つまり……ゲルニカはの鱗は相当の瘴気を取り込んだから、真っ黒ってことか?」

「そうだ」


 いつの日か、長老様がゲルニカは瘴気を払うのも上手いと言っていたけど。ゲルニカは瘴気を払うのが上手いのではなく、鱗に溜め込んでいたのか。


「先ほど、ギノ君は今のところ元気だという事だったが……瘴気を取り込んで、凌いでいたと考えた方が自然だろう」

「えっ⁉︎」

「彼の魔力の苗床になっているのは、エルノアの鱗……つまり、私の血脈を持つ竜族の鱗だ。瘴気を取り込めてしまっていても、不思議ではない。4日間も人間界で元気でいられたということは……ハーヴェン殿の食事のお陰もあるだろうが、おそらく魔力ではなく、相当の瘴気を取り込んでいるのではないかと思う。見た所、角も生えきっていないようだったし……ギノ君が瘴気を浄化できているとも思えない」

「でもよ、お前も普通に過ごしているんだし……別に瘴気を取り込むのって、そこまで悪いことじゃないんじゃ?」

「……そうでもないんだ。瘴気には、かなりの毒性がある。バハムートは代々、その毒性に耐性を持つからある程度は平気でいられるだけで、一線を越えると……理性を保てなくなる」

「理性を保てなくなると……どうなるんだ?」

「理性を保てなくなった竜族はもはや精霊とは呼べず、ただの災厄でしかなくなる。本能の赴くままに破壊行動を続け、甚大な被害をもたらす。更に悪いことに……上位種がその状態になると、エレメントマスター総出で災厄を強制的に鎮めるしかなくなってね。実際に私の父……先代は理性を保てなくなり、果てに処刑された」

「処刑……された?」


 ギノの相談をしているはずだったのに。どことなく、闇深い竜族の家庭事情に首を突っ込んだ気がするが……このまま、俺が聞いてもいい内容なんだろうか?


「瘴気の毒に抗うというのは、場合によってはとても難しい部分があってな。他属性のエレメントマスターに比べて炎属性のそれの代替わりが激しく、ほとんど常時最年少なのは……そういう事情があるんだよ」

「それって……お前もいずれそうなる、って事か?」


 しかし、ゲルニカは話を中途半端に切り上げるつもりもないらしい。相当にヘビーな事情を暴露してくれつつも、表情は相変わらず、穏やかなままだ。


「いや、どうだろうな。あくまで他のエレメントマスターと比較して寿命が短いというだけで、竜族の中では魔力が多い分、長寿な方だ。それに、父の場合は瘴気以外の要因が色々あったし……妻と子供に恵まれ、私はとても幸せでね。瘴気の毒に取り込まれてしまうのには、精神的な要素に左右される部分も多い。何れにしても、私もそうならないように頑張るつもりだよ」

「そか、ならいいんだが……」

「……話を戻そう。ギノ君が瘴気を取り込んでいた場合は、毒性に対する知識と同時に……精神コントロールも必要になってくる。精霊として生きる中で、大前提でもある魔力コントロールを覚えるだけでも、相当に苦労するはずなのに、その上で瘴気の毒にも慣れなければいけないのだから……幼いあの子に、果たして耐えられるものなのかは、私にも分からない」


 ……その先はギノ次第、というのはそういう意味か……。だけど、さ。折角生き残っても、こんなに試練が山積みだなんて……。幾ら何でも、色々とあんまりだろうよ……。


「……そっか。それでも、お前のところに預けるのが、最善策みたいだな?」

「そうだな。このままギノ君を人間界に置いておいても、いいことは何もないだろう」


 ちょっと寂しい気もするが……こちらから様子を見にくればいいのだし、ゲルニカに任せておけば大抵のことは大丈夫だろう。前途多難なりに……きっと、ギノが生き延びられるようにしっかり面倒を見てくれるに違いない。


「それじゃぁ……済まないが、あの子をしばらく預かってくれないか。俺の方もちょこちょここっちに来るから、よろしくな」

「もちろんだ。ギノ君があの状態になってしまったのは、エルノアのせいでもあるだろうし……私もしっかり、協力しないとな」

「あ、いや。その言い方は……違うだろう」

「ん?」

「エルノアのおかげでギノは助かったんだよ。あの子が鱗を渡していたから、生き延びることができたんだ。竜族の魔除けっていうのは……本当に効果があるもんなんだな?」

「……ハーヴェン殿はつくづくお優しい。そう言ってくれると……こちらも助かるよ」


 俺の言葉に少しだけ安心したとばかりに、噛み締めるような笑顔を見せるゲルニカ。超が付くレベルで子煩悩らしい竜神様は殊の外、責任感も規格外に強いらしい。何も、ギノの事はエルノアのせいでも……まして、ゲルニカのせいでもないだろうに。彼のあまりに真面目な様子に、少しばかり申し訳ない気分になる。だけど……とにかく今は、あの子がしっかり竜族になれるように、素直にお力を借りるのが得策だろう。

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