2−14 いかにもお上品な感じ
「はい、注目。今日は朝食後に、ゲルニカのところに行くぞ〜!」
俺の発表を聞いて、早速エルノアが歓声をあげる。お〜、いい反応だ。ギノの相談がメインとは言え、たまには両親に会わせてやらないとな。
「父さまと母さま、元気かな?」
「エルのお父さんって、怖い?」
心なしか、ギノは超絶に不安そうだが……エルノアに「そんなことないの」とあっけらかんと言われて、とりあえず安心したらしい。あの竜神様は、いろんな意味で心が広いからなぁ。その辺は大丈夫だな、きっと。
朝食の時間が終わり、例の鍵を使ってお屋敷に潜入すると……ギノはまず、目の前で起こったことに、ただただ驚いている。それなのに、俺が説明を与える間もなく、勢い勇んだエルノアに手を引かれて、そのままマホガニーブラウンの空間に引きずり込まれていくギノ。まぁ……適度に空気を読むギノは賢い子だ。多少は放っておいても、おいおい理解するだろう。
「ただいま〜!」
しかし、驚きの連続に付いて行けていないギノを、中途半端に置き去りにして。彼の事は忘れましたと言わんばかりに、元気よくエルノアが両親を呼ぶ。……やれやれ。俺はそう思いながら、どうしていいか分からないままのギノを安心させる意味で……彼の身を自分に寄せた。うん、このギノの固まり具合といい、引きつった顔といい。今の彼には、状況を飲み込む余裕もなさそうだ。これはやっぱり、後で優しく説明してやらないと、ダメかも知れない。
「おや……エルノア、お帰り。ハーヴェン殿も久しいな」
「おぅ、久しぶり。元気してたか?」
「おかげさまで」
俺が仕方なしに、ギノのフォローに思いを巡らせていると、お待ちかねの屋敷の主人がお見えになる。ゲルニカはどうやら魔法書の整理をしていたらしい、彼の腕には分厚い本が何冊も抱えられていた。そうしてピシリと洒脱にジレを着こなし、真っ直ぐに立っているご様子は……麗しい以上に、いかにもお上品な感じだ。
「……邪魔だったかな?」
「いいや、そんなことはないよ。今日は久しぶりに、出かけなくて済みそうなんだ。あぁ、今お茶を用意してもらうから、ちょっと待っていてほしい。……テュカチア! エルノアが帰ってきたよ!」
ゲルニカに呼ばれて、今度はいつものふんわりした様子で奥さんも出てくる。本日の奥様はすみれ色のドレスを着ているようで、これまたこの上なく、こちらもお上品な印象だ。
「あらあら、いらっしゃいまし。それと……エルノア、お帰りなさい。ちゃんと、ルシエル様とハーヴェン様の言うこと聞いていますか? ご迷惑をおかけしていないでしょうね?」
「大丈夫だもん」
「そう? なら、いいですけれど。とにかく、こちらにどうぞ。すぐにお茶をご用意いたしますわ。……あら? そう言えば……そちら様は誰かしら?」
奥さんが、俺の影から少し身を乗り出していたギノに気づいたらしい。さっきまで見事に隠れていたから、ゲルニカにも気づかれなかったみたいだが。あっ、この様子だと……ようやく、この場の空気になじみ始めた感じか?
「あぁ、こいつはギノって言います。エルノアの友達なんだけど……人間界で色々とトラブルに巻き込まれちまってな。実は……今日はこの子のことを相談しに、お邪魔したんだが。何か、いい知恵はないかなと思って……」
そう俺が紹介すると、ぎこちなく挨拶をするギノ。少しもじもじしている様子は緊張している……というよりはどうしていいか分からない、といったご様子。それでも初対面でしっかりご挨拶できるのは、とっても偉いぞ。
「まぁ、そうでしたの。エルノアのお友達ということであれば、もちろん歓迎しますわ〜」
「私も歓迎するよ。しかし、どうやら……少々、複雑な事情のようだな?」
「ま、そういうこと。できれば、物知りなゲルニカの知恵を借りたくてさ。お願いできるかな?」
「もちろんだ。すぐ本を片付けて向かうので……まずは客間へ。テュカチア、頼んだよ」
「かしこまりました。さ、こちらにどうぞ? 今日は久しぶりにベリーパイを焼いたから、是非に召し上がっていってくださいまし」
そんな奥さんのベリーパイの言葉に、殊更に目を輝かせるエルノア。朝食もしっかり食べたばかりだと言うのに……この子は意外と、かなりの健啖家らしい。あっ……違うか。甘い物は別腹、なんだったっけか。失礼失礼……はい、訂正します。うん、エルノアは本当に甘いものが好きだよな。




