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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
397/1100

10−5 とってもフレッシュでヤンす!

(こんな風にくっつかれるのも……悪くない、か)


 ブルー・アベニューを目指して、リッテルと一緒に歩いていると。向こうからやって来る、妙に既視感のある団体が目に入る。きっと、向こうもこちら側に気づいたんだろう。引率係のノッポがちょっと驚いた顔をしたが、すぐさま親しげに手を挙げてくる。……こんな所で顔見知りに会うなんて、思いもしなかったな。


「お? 奇遇だな〜。2人も今日はお買い物?」

「うん、まぁ。ハーヴェンオススメの店で着替えも調達できたし、これから美術館に行くとこなんだけど」

「美術館? また、どうして?」


 ハイハイ、分かっていますとも。悪魔に芸術は、無縁もいいところの分野だもんな。当然ながら、俺も美術館なんて場所が似合わないのは自覚してるし。


「今、旧カンバラ展をやっているとかで。嫁さん所縁の地でもあるし、折角だから」

「そうだったんだ。なるほどな〜。そう言えば、リッテルは元々カンバラ出身だって嫁さんも言ってたけど……ってお前達、何してるんだ。そんなに見つめたら、失礼だろう?」

「あ……リッテルさんなんだよね。そっちのお姉さん……」

「以前と雰囲気が違うと言うか……あ、すみません。お久しぶりです」

「お久しぶり。エルノアちゃんにギノ君も元気でしたか?」

「うん! 元気よ? それにしても……わぁ〜! リッテルさん、お姫様みたい! 綺麗〜!」

「ウフフ、ありがとう。エルノアちゃんも今日のピンクのワンピース、とっても似合っているわ」

「本当⁉︎」


 女の子同士で親しげにしている一方で、ウコバクとケット・シー達が俺をじっと見つめてくる。……いや、そんなに見つめないでくれるかな。


「あぅ、マモン様……いつもと格好が違いますでヤンす……」

「えぇ、なんと言うか……」

「とっても……」

「いつにも増して、とっても子供っぽいか? いいよ、分かってる。……俺、ハッキリ自覚したんだよ……。見た目が若すぎて、威厳がない事に……」

「い、いいえ……そこまで、申している訳では」

「あぁい! とってもフレッシュでヤンす! お頭も同じような格好ですし、問題ないでヤンす!」

「そうですぜ! 特に帽子が若々しい……って、あっ!」


 フレッシュに若々しい……本来なら、褒め言葉のはずのそれすら、虚しく通り過ぎていく。俺……どうして、チビっ子達に慰められてるんだろう……?


「あぁ、なるほど。角は意外と目立つからな。カーヴェラじゃ精霊落ちは珍しくないけど、隠しておくに越した事ないだろうし……何より、こなれた感じがしていいと思うよ。うん、とても似合ってる」

「そうか? 俺としては帽子が1番、違和感があるんだけど……」

「私は帽子も含めて、とても気に入っています。なんだろう……ちょっと年が近づいた気がして」

「年が近づいた?」

「だって、私とあなたでは10倍くらいの年の差があるのですし。見た目くらいこちらに合わせてもらえないと、隣を歩くことさえできないわ」


 普段の服装も、そこまで年の隔たりはなかったように思うが。そんな風に言われると、そんなものかと納得してしまう。服装なんかでリッテルが引け目を感じているなんて、思いもしなかった。


「そう、か……まぁ、そういう事だから。悪いけど、話はまた今度」

「そうですね。これ以上、邪魔しちゃ悪いでしょうし……ほら、エルも行くよ? ルノ君のお祝い探すんでしょ?」

「あ、そうそう! そうよね! 私、ちゃんと選ぶんだもん!」

「おぅ、話は遊びに来た時にでも聞かせてもらおうかな。それじゃ、ごゆっくり。……ほれほれ、お前達も行くぞ」

「あい!」

「マモン様、それではまた!」


 彼らは彼らで用事があるんだろう、ハーヴェンとしっかり者らしいギノ君が気を回して、その場を切り上げる。そんな彼らの足元でピョコピョコと跳ねて、最後まで手を振っているチビっ子達に手を振り返しながら、嬉しそうにしているリッテルにつられて……俺も手を振ってみると、これまた嬉しそうに一頻り手を振って、ウコバク達がハーヴェンに付いていくが。……その様子に、俄かにグレムリン達の事を思い出して、今度は急に不安になる。


「あいつら、ちゃんと留守番してるかな……。お土産を買って帰るから、って言っては来たけど。大丈夫かな」

「大丈夫よ。みんな、いい子にしていると思うわ。お土産はお菓子がいいかしら?」

「そうだな……まぁ、この街なら、お土産もちゃんと見つかるだろ」


 俺が何気なく呟くと、きちんと小さく返事をして楽しそうに少し先を歩き出すリッテル。エルノアちゃんに褒められたからという訳ではないだろうが、きっと久しぶりにそれらしい姿になって……彼女はようやく、何かを取り戻したように見える。……それを奪っていたのは間違いなく、俺なんだろうけど。それでも、こうして彼女に笑ってもらえるのなら。……人間に混じって我慢するくらいの事は出来そうだ。

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