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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第10章】同じ空の下なのに
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10−3 どうにもこうにもみんな見た目が若くて

 立派なハコはあっても、中身はまだまだスカスカ。それは稼働前だから、当然ではあるのだが。……準備も色々と足りていない気がする。

 もちろん、沢山の子供達を助けられるのはいい事だ。しかし、相手がきちんと感情も意思もある以上……ただ、無作為に詰め込めばいいというわけでは、決してない。それでなくても、ここにやってくる予定の子供達は、普通以上のケアが必要な子供達ばかりだろう。……スタッフはこの人数で、大丈夫なんだろうか。


「ところで、さ。プランシーは何人くらいの面倒を見るつもりなんだ? 設備はあるかもしれないが、この広さだと明らかに、大人の方が足りない気がするが……」

「そうですね。子供達の数に関しては、あまり決めてはいませんが……人手が足りない場合は適宜、募集しようと思っています。実は先ほど、ザフィール殿ともその話をしていたのですよ」

「えぇ。神界から追加の人員配備も可能でしょうけど、どうにもこうにもみんな見た目が若くて……私達みたいに、生前時点で20歳を超えている子は数える程しかいないもんですから。子供達の世話をするのに中身は大人でも、外見が子供だと、ちょっとね」


 うん、だろうな。天使様達は、外観も感性もフレッシュすぎるもんな。子供達のお世話をするとなると、外観も中身も大人な方が絶対にいい。


「なので……こちらでスタッフを募集しましょう、ということになりました。資金は心配するなとルシフェル様にも言われていますし、何より、私達は現代の事情に疎い部分もありますから。現地募集した方が理に適っているでしょう」

「こちらのお時間で、明後日あたりから孤児院自体は稼働可能ですが……私達は魔力補給の関係上、どうしても夜間は向こうに帰らなければなりません。そう言う意味でも、こちらで協力してくださる方を探した方がいいと思いますよ」


 ザフィールとネデルのコンビは、中身も安定のお姉様で安心するが。この感覚が新鮮に感じるのだから、いかに天使の皆様がぶっ飛んでいるかも理解させられて、妙にやるせない。


「本日はこの後、ザフィール殿とネデル殿は神界に帰られるとのことでしたので、私はアーニャさんとメイヤとで、お役所に相談に行く予定です。実を申せば昨日もお邪魔したのですが、パトリシアさんがとても良くしてくださるので、心置きなく相談できます。この街は、お役所の対応にはかなり恵まれていると言えそうです」


 パトリシアさんか。プランシーの口からその名前を聞いた瞬間に、人好きのする雰囲気の彼女の面影を思い出す。確かに、あの様子なら例え窓口が違っていても、きちんとフォローしてくれるだろうな。


「そうだな。そういう事なら、俺が心配する必要はなさそうか。まぁ、それ抜きでも何かあったら言ってくれよな。それなりに顔を出すつもりではいるが、流石に毎日来るわけにはいかないから」

「そうですね。何かあれば、相談させていただきます。特に……私自身の記憶に関しては何か分かったら、すぐにご報告致します」


 そうして、最後はいつも通りの朗らかな表情を見せるプランシー。ルシエルがプランシーの様子を殊の外気にかけていたが、しっかり自覚しているのを見る限り……今の所はあまり気にしなくてもいいだろうか。


「それで……最後にそのメイヤの事だけど」

「そうですね。ギノは知っての通り……以前、一緒に孤児院で暮らしていたのだけど……。ほら、メイヤ。覚えているかい? ギノだよ。分かるかな?」


 最初から最後まで、不安そうな顔をしていたメイヤだったが。ギノを紹介されて、どことなく何かに気づいた顔をしたと思うと……プランシーに向かってコクコクと頷く。……彼女もギノを覚えていたようだ。


「やっぱり、この子があのメイヤなんですね……。と、いう事は……」

「ギノと同じように、彼らの実験台にされたみたいでね。元々なかったはずの腕があるのを見ても、そこからバンシーという精霊とくっつけられてしまったようなんだ。だけど、こうして再会できたのだから、これからは一緒に暮らせるようになるし、傷に関してはザフィール殿もいてくれるし……大丈夫だよ、メイヤ。姿こそ変わってしまっていても、ちゃんと生き延びたんだ。これからは、辛い思いはしなくて済むはずだから。今日はアーニャお姉ちゃんと一緒に、パトリシアさんに会いに行こうね」


 プランシーが言い含めるようにメイヤに話しかけると、彼女ももう1度しっかりと頷いて見せる。まだ喋る事はできないみたいだが、それだけ意思表示ができれば問題ないのだろうし、何よりも、アーニャもどことなく心得ているようにも見える。最初は大丈夫なのかと心配してしまったが、意外とこの組み合わせも悪くないのかもしれない。


「でしたら、僕もメイヤに会いにこちらに遊びに来ます。……もしかしたら他の子も生きているかもしれないと思うと、ちょっと元気が出るというか。みんなも辛い思いをしているんだろうとは思いますけど……それでも、他のみんなにもいつか会えればいいなと思います」

「そうだね。きっと……みんな、生きている。そう思えるだけでも、頑張れる気がするよ」

「はい!」


 姿形は違えど、もしかしたら生きているかもしれない。目の前に横たわる現実がいかに残酷なものでも、命さえあれば……生きてさえいれば。この孤児院が微かな希望を掬う意義も持つのであれば、これ以上に有意義なこともないだろう。


「さて、と。それじゃ、俺達はルノ君のお祝いを探しに行こうな〜。あぁ、そうそう。……実はさ、ゲルニカの所も無事、出産が済んでな。男の子だという話だった。そのうち、プランシーも会ってやってくれると嬉しいよ」

「それはそれは。いやぁ、めでたいですね。そうですか、男の子でしたか。ホッホッホ。でしたらば是非、私も折を見てご挨拶に伺いましょう。ゲルニカ様にもよろしくお伝えください」

「うん。それじゃまた来るから、よろしくな。……お姉さん方も頼みます」

「勿論です、お任せください。また是非、遊びに来てくださいね」

「みんな、またね〜! ザフィおばちゃん、いつでも待ってるわ」

「ま、ちゃんと仕事はしてやるわよ。だから、余計な心配はしなくていいから」


 最後は全員の穏やかな微笑みに見送られつつ、子供達を促して孤児院を後にする。改めて門を見やれば、看板がキナ臭い病院名ではなく“ルシー・オーファニッジ”に変更されていて……それを見た瞬間、本当にいよいよ稼働なんだと実感が湧いてくる。また差し入れができるようになるなんて、思いもしなかったけど。それが俺の料理人生活の原点でもあるわけだし。懐かしい以上に、とにかく嬉しい。


「ほれ、それじゃ、買い物に行くぞ。お祝い、何がいいかな?」

「お洋服はどう?」

「あぁ、それもいいかもしれないが。洋服はサイズと、奥さんの好みが分からないとな……」

「そっか……確かにルノ、小っちゃかったな……。どの位のサイズか私、分からないかも……」

「でしたら、おもちゃはどうでしょうか?」

「なるほど、おもちゃか。候補に入れておこうかな。どんなおもちゃがいいんだろうなぁ……」


 そんな事を言いながら、いつものレッド・アベニューを目指す。とりあえず……いつぞやの雑貨屋に寄れば、おばちゃんにアドバイスもお願いできるし、バッチリなものが見つかるだろうか。


「それじゃ、まずはいつもの雑貨屋に行くぞ。で……その後、本屋とカフェにも寄ろうな」

「あい! 流石、お頭でヤンす! 分かってるでヤンす!」

「あ、あの……俺もケーキ頼んでいいでしょうか?」


 あ、そっか。ダウジャはおやつ抜きの刑期中だったっけ。さて、どうしようかな?


「ダメよ、ダウジャ。あなたは今、おやつ抜きのお仕置き中なのですから。先日のマモン様への失礼を忘れたの? ケーキはなしです!」

「ゔ……。そうですよね……」

「あはは。姫様的にNGじゃ、仕方ないか。……そういう事で、ダウジャはお茶だけで」

「……クゥ〜! 1週間がこんなに長いなんて、思いもしませんでした……」


 1週間の重みを噛み締めつつ、更に萎れるダウジャ。これだけお灸を据えれば……今後は彼のちょっとした軽はずみも減るだろうか。

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