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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第9章】物語の続きは腕の中で
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9−45 理想には到底届きやしない

「ちょっと、いう事を聞きなさいよ! さっさと命令通り、呪いを吐き出しちゃいなさいよ!」


 虫除けで病院に配置していた幽霊……試作品66号は私のいう事を聞くどころか、何故かお爺ちゃんを見つめながら、泣くばかり。いくらバンシーとの結合だからって、泣きすぎでしょうが⁉︎


「いくら喚こうと、無駄ですよ。あなたは本当の意味で、精霊を扱うという事を理解されていない。命がある者には必ず、意思があります。分からないのですか? この子はあなたのいうことは聞きたくないと、申しているのです。その意思を無視して、上から命令するだけでは……いずれ、傲慢さに足を掬われる事でしょう。魂の悲鳴をおざなりにしているあなたに、本当の意味で従う者は唯の1人とて居ますまい」

「う、うるさいわねッ! 悪魔が偉そーに、何を言っちゃってくれてんのよ! 闇堕ちしたような軟弱者に、そんな事言われる筋合いはないんだけど⁉︎」

「まさか、こんなところでティデルに再会するなんて。しかも、そんなに翼を黒くして……。何て、愚かな事でしょう……」

「お前なんかに、愚か者呼ばわりされたくないわね! 私は私のやり方で、正しい事をしようとしてるだけだし! ま、ラミュエルの腰巾着ごときには、私の崇高な目的は理解できないんでしょうけど?」


 ちょっと強気にお爺ちゃんとネデルに応じてみるけど、こちらが蔑まれている気がして、とにかくイライラする。大体、なんで目の前のお爺ちゃんはこんなに冷静なのよ⁉︎ 憤怒の悪魔って、怒りっぽいんじゃなかったっけ?


「……何れにしても、この子は私の方で預かりましょう。こちらとて、荒事にするつもりはありません。わざわざ子供を盾にするくらいなのです。きっと、あなたにはそこまでの実力はないのでしょう? さぁ、この場からお引き取りください。そして……2度とこのような小さな子供を泣かせる真似はしないと、誓いなさい!」


 目の前のお爺ちゃんが咆哮すると、凄まじい魔力の高ぶりに意図せず慄く。確かに怒っているらしい瞳がどこか……昔に大人に怒られた時の記憶を思い出させるようで、とにかく言いようのない恐怖を感じる。


「グ……! さっきから黙って聞いていれば、調子に乗りやがって……! こうなったら……!」

「そこまでよ、ティデル」

「……⁉︎」


 お爺ちゃんが生意気な事を吐かすもんだから、恐怖を振り切る意味でも力を見せつけてやろうと、臨戦態勢に入るけど。……今度は背後から、聞き覚えのある声の邪魔が入る。ったく、本当に何なのよ⁉


「……邪魔しないでよ。こいつらを甚振って、回収するつもりだったのに」

「あの方からの命令よ。お前1人では、この人数の相手は無理だわ。それに……幽霊騒ぎもそろそろ限界だし、一旦退きなさい」

「はぁッ⁉ ちょっと何を言ってるのよ、ダッチェル⁉︎ 折角、こんなに粒ぞろいの材料が揃ってるのに!」

「お前、バカなの?」

「……今、何て……?」

「バカなのか、と聞いたのよ」

「あぁ⁉︎ 何言ってんだ、この臆病モンが! この程度の人数で尻込みしてんじゃねぇぞ⁉︎ こんなチャンスを目の前にして、みすみす逃そうってのかよ⁉︎ てめーの方がよっぽど、バカだろうがッ⁉︎」

「……全くお下品な言葉遣いをして。とにかく撤退しますよ。皆さま、お騒がせしてすみませんね。侘びと言っては何ですが……この病院とそちらの試作品66号は差し上げますわ。フフ、せいぜい有効活用してください」

「おい! ちょっと待て……! 何を勝手に……」

「……黙れ、痴れ者が」

「……!」


 ダッチェルに上から押さえつけられるような眼差しで睨みつけられて、言葉が出ない。どうして……こうも私は肝心な時に反抗できないんだろう。


「状況をよくご覧なさい。上級天使と中級天使、そして魔神が2人。その上で、応戦中のヴァリアントマナ2体はそれぞれ、瀕死の状態。……どこをどう見ても、お前の負けじゃない。……いい加減にしなさいな」

「魔神が2人……?」


 そこまで言われて、見張りで置いていたはずの試作品72号の反応がない事に今更、気付く。それなりに強いと思っていた私の自信作が壊されてる? ……嘘、でしょ?


「あの72号の反応が……ない?」

「さっき、例の英雄の手で処分されたのよ。そして……直にここにもやってくる。そうなったら……分かるわね?」

「クソッ……分かったわよ。えぇ、分かったわ! 今回は退いてあげる」


 こんな風に撤退なんて、格好悪いにも程があるじゃない。それに……結局、リヴィエルを甚振れなかったし。超、ムカつく!


「……あなた達はなぜ、この様な事をするのです? 数多の命を弄んで……一体、何を為そうというのです⁉︎」

「ここで悪魔ごときに答える必要はないわ。ただ……私達は目的に必要な命を、ゼロから生み出すつもりなの。今はその手段を確立するために、試行錯誤しているだけに過ぎません。そのうち分かるはずよ。……どんなに綺麗事を並べたって、理想には到底届きやしないって事。どんなに正義を振りかざしたところで、現実を変えることなんてできないって事。……次こそは、理解し合えるといいのですけど。ティデル、とにかく撤収よ。そうそう、ヴァリアントマナだけは手持ちに戻しておきなさい。あの方が、あなたに更にオモチャをくれるって言ってたわ。土台はちゃんと残しておかないとね?」

「ほ、本当?」

「えぇ。だから……さっさと帰るわよ」


 新しい材料を貰える。更なる改良ができる。そして……新しい力を手に入れられる。とても楽しくて……どうして、こんなにもワクワクするんだろう! そっか、あの方は私に期待してるんだ。それで新しい材料をくれるなんて……何て、お優しいんだろう! リヴィエルを甚振れなかったのは残念だけど、代わりにアヴィエルを虐めればいいだろうし……そういう事なら、仕方ないな。


「次に会った時は覚えてなさいよ。きっちり捕獲して……全員まとめて、材料にしてやるんだから!」

「ティデル……あなた、本当にどうしてしまったの? そんな姿を見たら、ルシエル様がどれ程までに悲しむか……!」

「大丈夫よ。師匠は正しいことは、きちんと認めてくれるもの。最後に私が正しいって、褒めてくれるはずだもの!」


 ネデルが分かった風な事を口にするのに、これまた腹が立つけど。この後は楽しい実験タイムが待ってるし……今はとにかく帰ろうっと。あぁ、次はどんなパーツをくっつけて……どこを改良しようかな?


 そんな事を考えながら、ダッチェルがさも偉そうに構築したポータルの向こうに飛び込む。この位、私だってできるのに。いちいち何かを見せつけられる様な気がして、本当に頭にきちゃう。でも私はダッチェルと違って、あの方の期待の星だし……そのうち、こいつも材料にしてやろう。だから、今回は許してやろうっと。あぁ、私は何て寛大で心が広いんだろう。

 そんな私を師匠はきっと、いつか褒めてくれるに違いない。きっと……いつか崇めてくれるに違いない。

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