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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第9章】物語の続きは腕の中で
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9−42 ジェントル系かワイルド系か

 インキュバス相手の練習試合を制し、改めてマモンに向き直るが。マモンもきちんと要点は抑えていると見えて、しっかりとその場を纏めてくる。しかし、さっきの試合はなくてもよかったよな……?


「とにかく、リッテルはこっちで預かる。仕事に関しても、可能な範囲で声は掛けてやるから。あ、そうだ。……ジェイド、そういうことだから……」

「了解っす。アスモデウス様に面白い話があるって、それとなくばら撒いときます。マモン様の所にリッテル様が帰ってきて、そんでもって……天使ちゃん達に優しくしてもらえるチャンス到来みたいな噂を流せば、みんな食いつくっすよ」

「うん……その辺は程々に頼むよ」


 きっと、散々噂話に苦労させられたんだろう。逆にアスモデウスを利用する算段を整えたところで、マモンがしっかりジェイドに釘を刺している。それにしても……。


「なぁ、マモン。その様子だと……もしかして、レイピアとかも使えたりする?」

「あ? 一応、使えはするけど……ただ、レイピアはちゃんと使おうとすると難しい武器だし、何よりも様式美を重要視したりするから。無駄に気取った感じがして、好きじゃないんだよな」

「そっか。それじゃ仕方ないか……」

「どうしたよ? まさかお前、レイピアなんて使うの?」

「いや、俺じゃなくて。ほれ、こっちに来た時に竜族の男の子がいただろ? あの子、レイピアを持ってたりはするんだけど……何分にも学者肌で、武器をあまり活用できていないみたいで。ちょっと体を動かす事も覚えて欲しいんだけど、俺自身はコキュートスクリーヴァ以外を振るったことないし……」

「あぁ、そういう事。だったらそのうち、こっちに連れてこいよ。触り程度だったら、教えてやれると思うし。ただ……あの子にやる気があれば、だけど。俺はやる気のない奴に教えるのは、ゴメンだからな」


 やる気のない奴に教える気はない、か。元々群れるのが嫌いなマモンが教えてくれるというだけ、ありがたいと思うが……切り捨て方が潔すぎて、不安になる。いざ教えてもらうという段になったら、手取り足取りなんて優しいことはしてくれないだろうな。


「そっか。ギノは魔法ばっかりだものね……。折角、武器を貰ったのに使いこなせないんじゃ、勿体ないよな……」

「そうなんだよ。しかも、人間界は魔力が薄いだろ? いざという時に魔法だけじゃなくて、武器も使えるようにしておかないと、不測の事態に対応できなくなっても困るし」


 ギノの様子を普段から気にかけているだけあって、嫁さんもしっかり彼の傾向を把握しているらしい。俺も例の植物図鑑以来、輪をかけてインドア派に傾倒しつつあるギノの様子が少々気がかりだ。もちろん、無理やり「外で遊んでこーい!」なんてことはしなくてもいいけど。ギノは家に籠ると、どうも考えすぎてしまう傾向があるというか。変に悩みすぎて、身動きができなくなっている時があるから、外で遊ぶことも覚えて欲しいのが本音だったりする。


「……悪い。そろそろ、本当に時間切れだ。随分な人数が集まったみたいだし、ちょっとこれ以上は構ってやれそうにない」

「えぇ、大丈夫です。こちらの要件はお伝えできましたし、後の詳細はリッテルからお話しします。特に……リッテル、例の事、ちゃんと説明しておいてね」

「……心得ております。ルシエル様も情報の準備をお願いします」

「了解。数日に1度はこちらにも帰ってくるのだろうし、その時までに準備しておくから。それ以外にも、何か不測の事態があったら、すぐに知らせて。困ったことがあったり、必要なものがあれば、可能な限りバックアップをします。特に協力を仰ぐ上で必要物品があったりしたら、すぐに用意するから」

「はい! 了解しました。……色々とありがとうございました」


 最後に天使同士の話が纏まったところで深々と礼をするリッテルと、その横で一緒にきちんと頭を下げるマモン。そうして更に……彼らの真似をするように、最初は怯えていた小悪魔達もペコリと頭を下げるのが、とても可愛い。


「それじゃ、俺達は帰るか。あ、そうそう。もし良ければ、その子達も連れてこっちにも遊びに来いよ。お茶とお菓子はいつでも用意してあるから」

「そうだな……今後は人間界に遊びに行くのも、悪くないかもな」

「あ、この間の赤いお菓子、美味しかったです!」

「うん、僕初めて食べました!」

「ありがとうです!」

「色もプリティでしたし、アチシにぴったりでしゅ!」

「自分にピッタリとか、おこがましー事言ってんなよ? ……ハンスはいちいち、主張が激しいんだから……」


 しっかりプラリン・ルージュを貰ったらしい小悪魔達がピョコピョコと跳ねているのが、うちのモフモフ達の姿に重なって、不意に彼らが懐かしくなる。それは嫁さんも一緒らしく、郷愁ついでに背後で悪魔達の物色に余念がない天使様御一行を連行しようと、声を荒げて帰りを急かし始めた。


「皆さん、そろそろ戻りますので準備をしてください」

「えぇ〜? ルシエル、もうちょっといいじゃーん」

「これ以上はマモンも迷惑だと言っていますし、今日はこの辺で帰ります! リッテルの方で悪魔の皆さんに関しては情報収拾をしてもらいますから。交流はまた後日、改めてすれば良いでしょう⁉︎」

「ルシエル様のケチ……」

「私達も素敵な悪魔の旦那様が欲しいですよ〜」

「いいから、今日は撤収‼︎ このまま置いていかれたいんですかッ⁉︎」


 結局……妙に脅しが入ったルシエルに怒られて、渋々帰り支度をする皆さんだけど。彼女達のユルユルさに呆れた様子のマモンが、俺に当然の疑問を投げてくる。


「……あの、さ。あの調子で……本当に色々と大丈夫なのか?」

「ゴメン、俺も大丈夫じゃないと思う」

「そう、だよな。天使ちゃん達がハンス以上に浮ついていると思わなかったよ……。ルシエルちゃんもだけど、お前も相当に苦労しそうだな」

「あ、分かってくれる? 分かっちゃう?」

「あぁ、なんとなくな。結婚って、そういう所も一蓮托生だろ? 嫁が色々と巻き込まれやすいポジションにいれば、無関係ではいられないんだろうし。その辺、俺はあまり心配しなくても大丈夫かな……」

「まぁ、そんな事ないわよ? 調和部門は、最近復活したばかりですもの。今はルシエル様と私しかいないけど……今後は人員も増えるでしょうし、お仕事でこちらにやってくる天使も出てくると思うの。だから、その時はあなたもしっかり巻き込むつもりですから、よろしくね」

「それ、笑顔で言う事じゃねーだろ……」

「あら、そう?」


 マモンもキッチリ巻き込まれることが確定したところで、皆さんを連れてルシエルがこちらに戻ってくる。集まってきた悪魔達を散々物色したついでの浮つき加減が妙に気になるが、その続きなのか……ミシェルがまたも、トンチンカンな事を言い出した。


「あ! 心配しなくても、ボクはジェントル系ハーヴェン様派だから!」

「ジェントル系……? 何、それ⁇ というか、俺は何の心配をしないといけないんだろう……」

「あれ、ルシエルから何も聞いてないの? 今、神界では旦那様の好みのタイプで派閥が出来上がってて。ジェントル系かワイルド系かで……みんなどっちがいいか、超真剣に悩んでいるんだよ? で、ハーヴェン様ファンクラブのメンバーが大幅に減っちゃって。……全く。旦那様にするなら、料理上手で優しい悪魔に限るじゃん。みんな、分かってないんだから〜」

「ファンクラブ……? 料理上手で優しい……悪魔⁇」


 その言葉に今更ながら、色々な意味で頭痛と目眩がする。

 悪魔が料理上手で優しいとか、普通はあり得ないだろ。大体、超真剣にって……神界の皆さんは、他に考える事ないのかな。それに、俺がジェントルって事は、ワイルドは当然……。

 俺が嫌な予感をさせながら、グルグルと思いを巡らせていると。これまた不機嫌そうにルシエルが隣から補足をしてくれる。


「……因みに、ワイルド系はマモンの方を指すらしい。……神界はどっちのタイプが好みかで、妙に二分されていてな。余暇の時間は皆様方で、そんな話で盛り上がっているんだよ。ファンクラブはともかく……ハーヴェンは肉球も含めて、私のだもん」

「そ、そうだったんだ……」

「あぅぅ。因みに、私もジェントル系ハーヴェン様派ですよ〜」


 あぁ、そいつはどうも……。


「私はワイルド系マモン様派です〜! 旦那様にするなら、俺に付いて来いって感じじゃないと!」

「私も強引に攻められたいタイプです! あ、そうそう。マモン様! ちょっと、手のひら見せて欲しいんですけどッ!」

「強引に、って……。俺、そんな風にリッテルに接した事ないけど……? それで、俺の掌と何の関係が? とりあえず……見せればいいのか?」


 マディエルが話に乗っかってきたところで、別の天使が興奮気味にマモンに詰め寄る。その勢いに、流石の真祖様も理由を飲み込む間も無く、少し戸惑いながらも右手を差し出すけど……。


「あぁ〜! これがたくさん頑張った人の手ですね! 何て、固くて逞しいんでしょう……!」

「えぇ? どれどれ? ……うわッ、本当に固いね、これ。しかも妙に分厚いし!」

「この手で背中とかを撫でられたら……確かに、ゾクゾクしちゃいそう……!」

「あ? ……なに、それ……?」


 勝手な事を言いながら、マモンの右手1つを3人の天使達が囲んで観察しているけど……間違いない。会話自体は例の小説に書かれていた内容に沿ったものだろう。確か、マメだらけだから何とか……って感じのクダリだったと思う。


「リッテル、妙な事になってるみたいだけど……本当に何があったんだ?」

「ごめんなさい。その辺も後できちんと説明します……」

「あ、あぁ。しかし……もの凄い嫌な予感がするんだけど、気のせいか?」

「……多分、気のせいじゃないわ……」

「……」


 帰り際の最後の最後まで、お熱が冷めない天使達の暴走を呆れるしかない、俺達悪魔だったけど。彼女達の軌道修正が必要な気がするのは……思い過ごしじゃないと思う。

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