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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第1章】傷心天使と氷の悪魔
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1−34 自分を見直すのは、1人じゃ難しい

「人間界と竜界の時間の進みはほとんど変わりませんから、今頃は向こうも夜でしょう」


 ゲルニカの言葉通り、家に帰る頃にはあたりは暗くなっていた。昼間の「揉め事」で愛しの我が家の塀がちょっと崩れているが……家自体は大丈夫らしい。あぁ、無事で何よりだぜ。マイ・スイートホーム。


「竜神様の翼で送迎とは、贅沢なことだな?」

「そうだな。しかし……これはどう報告すれば、良いのだろう……!」

「何がだ?」

「精霊帳に大騒ぎされそうなデータが登録されてしまった……。こんなものを登録したら、また変な注目を集めてしまう……‼︎」

「うん……? どれどれ?」


 そう言われて、ルシエルが見つめている精霊帳のページを見やる。そこには、さっきまで俺達を頭に乗せていた漆黒のドラゴンが描かれているが……。


【バハムート、魔力レベル15。竜族、炎属性。ハイエレメントとして闇属性を持つ。竜族のエレメントマスター。攻撃魔法・補助魔法と回復魔法の行使可能】


「魔力レベルって……最高は10って言ってなかったか?」

「私もその認識だったのだが……改めて契約をしたことで、正確な魔力レベルを測定できたらしい。……その結果が、これだ。サーチ鏡では規格外とされていたが、魔力レベルを拡張するほどとは思っていなかった……!」


 攻撃魔法に補助魔法、そして回復魔法……と。伊達に魔法の指南書を書いていないということか。なるほど。これを登録したら、確かに目立つな。


「まだ登録台に載せていないから、登録者の項目は空欄だが。間違いなく、ゲルニカは新種だろう。……これはどう頑張っても、中級天使の私の手に余る……‼︎」


 ……って。そんなことで悩んでいるのか、ルシエルさんは。相変わらず、難儀なヤツだな。


「別にいいじゃねぇか。ゲルニカも言ってた通り、こいつは最終手段なんだ。ありがたく受け取っておけばいいし、お前は精霊を見栄のために使ったりする奴でもない。そんなことで騒ぐ奴は放っておけばいいだろ。……大事なのは周りがどうのじゃなくて、お前とゲルニカとの契約の在り方なんじゃない?」

「……‼︎」

「大体、お前はいつも自分を過小評価し過ぎだっつの。……お前は自分が思っている以上に凄い奴だって、俺は知ってるよ。それだけじゃ……足りないか?」


 俺の言葉に、ルシエルが豆鉄砲を食らったように驚いた表情をしているが……しばらくそのお顔でフリーズしていたかと思うと、今度はさも寂しそうに呟く。


「……ハミュエル様がいなくなってから、私にそんな事を言ってくれる奴は1人もいなかったよ。だから、私は周りに極力無関心になる事で、自分を守ってきたのかもしれない。……本当は知らなければいけないこと、触れなければいけないことから逃げてきたんだ。もうそろそろ、自分の事も見つめ直す時期なのかもな……」

「そのために俺がいるんだろ?」

「お前が?」

「そ。自分を見直すのは、1人じゃ難しいこともあるだろ?」


 あぁ、なるほど……とルシエルはいつになく、素直に応じてくれるけど。出会った頃に比べれば、こいつはかなりの進歩だ。多分、ゲルニカとのやり取りで過去の鬱積を吐き出したせいもあるだろう。随分、しおらしいじゃないの。うん……これなら、今夜はいけそうだな。


「……さて、今日は疲れたし、そろそろ風呂にでも入るか」


 そう言いつつ……努めて自然に彼女を抱き上げるが、すぐに抗議の声が上がる。あぁ、やっぱり抵抗はするのね。


「おい、ハーヴェン‼︎ どこに連れて行くつもりだ⁉︎」

「もっちろん、お風呂♪」

「私は後でいい! お前だけ先に入ればいいだろう⁉︎」

「そんな寂しいこと言うなよ。エルノアが帰ってくるまでは2人きりなんだから、仲良くしようぜ?」

「いや、降ろせって‼︎」

「い〜や」


 ……ふ〜、やっぱり風呂はいい。今日は色々と大変な1日だったが、こうして暖かい湯に身を預ければ、汚れも疲れも流れ落ちていく。


「足を伸ばすな。……狭い」


 上機嫌の俺を尻目に、バスタブの端で膝を抱え座っているツレの背中が文句を言う。結局、先に入っているから合図をするまで入ってくるなと……最初は締め出しを食らったわけだが。それでも、ちゃんと待っていてくれるのだから、いじらしい。そんな一悶着があったもんだから、こうして一緒に湯に身を沈めていると……無性に触れ合いたくなる。


「おい! くっつくな‼︎ 暑苦しい!」

「今日は俺、かなり頑張ったつもりなんだけど。なぁ、頑張った愛しの精霊にご褒美をくれよ、マスター?」


 暑苦しいと言われようが、お構いなしに後ろから彼女を抱きしめると、背中越しで抗議の視線を寄こすルシエル。それでも……ちょっとモジモジしながら体を離そうとしないところを見るに、多分、これは押しても大丈夫なやつだろう。


「ご褒美って……というか、どさくさに紛れて変なところを触るな」

「どうして?」

「……変な気分になるだろう」


 風呂のせいだけではないと思われる色に頬を染めながら、彼女が小さく呟く。冷徹で消極的な普段の態度とは釣り合わない、幼さを残す姿。今は瞳が少しとろんとして、綺麗なブルーがゆらゆらと揺れている。そうして、彼女の少しシットリと柔らかな金髪に頬を埋め……もう一度、心から懇願してみる。


「なぁ、ご褒美をくれよ。俺の愛しいマスター」


***

 ようやくいつも通りの朝を迎え、自分の横で眠っているハーヴェンを起こさないように、そっとベッドから抜け出す。そうして、きちんと用意されていたらしいテーブルの上のメモをさらって、今朝も神界に赴くが。とにかく……竜界に足を踏み入れた事、そしてゲルニカと契約したことを報告しなければ。

 ハーヴェンに言われたことも思い出して、自分を鼓舞しては。意を決して、記憶台に自分の精霊帳を安置する。

 ……そうだ。もう……誰が何を言おうと、誰がどう騒ごうと、関係ない。


「ルシエル、昨日は大丈夫だった? 無事なの⁉︎」


 報告書を出し、登録台がゲルニカの情報を咀嚼したところで、ラミュエル様が駆け寄ってきた。呼び出しではなく、あちらから出向いてくるということは……何かあったのだろうか?


「いえ、私は無事ですが……」

「そう、良かったわ……!」

「もしかして、アヴィエル様と戦闘になってしまった事について……ご心配をおかけしていたのでしょうか? でしたら、問題ございません。確かに危ない状況でしたが、バハムートに助けてもらいました」

「バハムート……?」


 あぁ、そうか。彼のデータはさっき登録したばかりだ。ラミュエル様は私が登録した内容を、ご存知ないのだろう。


「エルノア……ハイヴィーヴルはこのバハムートの娘だったようでして。それで……あの子を助けた返礼に、契約を結んでいただきました」


 思い切って、自分の精霊帳をラミュエル様に見せる。そうして、登録者に改めて私の名前が記載されているそのページを見るや否や、ラミュエル様のバラ色の頬が更に紅潮した。


「凄いわ、ルシエル! こんなデータ、初めて見たわ……‼︎」

「しかしながら、この契約は私の実力ではなく、あくまで成り行きなのですが……。とにかく、彼のおかげで私もハーヴェンも、そしてエルノアも無事でした。しかし……」

「どうしたの?」


 言葉を詰まらせる私の様子に、怪訝そうに首を傾げるラミュエル様。


「……以前ご相談していたユグドノヤドリギは、アヴィエル様によって魔力分解をされてしまいまして。……最後まで守ってやることができませんでした。……申し訳ございません」

「そうだったの。……その事もあるのでしょうね。オーディエルがあなたに話があるから、連れてきてほしいと……呼ばれているの。私と一緒に来てくれるかしら?」

「……何でも、オーディエル様はハーヴェンの粛清を命じたそうですね。一体……どういう事なのでしょうか?」


 思い出しただけで、腹のあたりが熱くなる。確かにあいつは悪魔だが、人間界で何1つ悪いことはしていない。種族を理由に討伐なんて……まるで、かつてのシェルデンと同じではないか。


「ごめんなさいね、ルシエル。実はどうやら、行き違い……命令不履行があったみたいなの」

「……? どういう事ですか?」

「とにかく、オーディエルのところに一緒に来てちょうだい」


 命令不履行……? 排除部隊内で、何か揉め事でもあったのだろうか。予想外の急展開に、頭がいよいよ付いていけないのだが。今は排除の大天使にお目通りを頂くのが、先決……なのだろうか?

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