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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第8章】悪魔の概念
319/1100

8−40 久しぶりだな、チンチクリン

「た、大変です〜、ラミュエル様ぁ!」

「あら? どうしたの、ティデル。そんなに慌てて……」


 ラミュエルとハーヴェン様の差し入れを頂きながら、話に花を咲かせていると。慌てた様子でティデルが部屋に入って来る。今日も緊急事態みたいだけど……。それにしてもこの子、随分と落ち着きがない気がしないでもないし、こんな調子でお仕事は大丈夫なのかなぁ……?


「あの! えぇと……」

「ティデル、落ち着いて。えぇとじゃ、分からないよ?」

「あっ、ハイ……また大物さんと思われる魔力反応が、カーヴェラに出まして……」

「大物って……マモンの事?」

「た、多分……」


 ティデルがオドオドと、歯切れの悪い様子でそんな事を報告してくるけど。多分って、どういう事?


「あのね、ティデル。マモンの魔力は前回のデータもあるし、捕捉済みでしょ? それがどうして、“多分”になるの?」

「魔力反応はピッタリと一致するんですけど。侵入者ではなくて、札付きとして表示されていまして……」

「札付き? ということは……」

「それって、契約済みってことかしら……? だとすると……」


 つまり、今のマモンは誰かと契約済の精霊として出現しているということ? じゃぁ、彼の契約の相手は……?


「分かったわ。私も行きます。マモン様とは、お話もしないといけないでしょうし」

「あ、ボクも行くよ。……面白そうだし」

「もぅ、ミシェルったら。悪趣味な事を言わないの。万が一も考えて、来てくれるのは嬉しいけど……」

「あぁ〜、そういうこと言う? 大体、ラミュエルだってマモンに興味津々なんでしょ〜? だってイケメンだよ、イケメン〜。ボク、マモンにもう1度、会いたい」

「そ、それはそうなのだけど……。と、とにかく! ティデル、案内してちょうだい」

「は、はいっ!」


 それにしても……今更、マモンも何の用事で人間界に出て来たんだろう。

 そんな事を考えながら、神界門を飛び出して3人でティデルの言う「出現ポイント」に向かう。オレンジ色の空から見る大都市・カーヴェラはどこか賑やかな中に、1日の終わりを予感させる寂しさを漂わせていて。夕日のオレンジ色と妙に同じ色の屋根に沿って視線を泳がせれば、程なくしていつかの時計台が見えてくる。あぁ、なるほど。彼は出現場所に、また時計台を選んだのか。


「……久しぶりだな、チンチクリン」

「チンチクリンはないでしょ、チンチクリンは……」

「まぁ、それはどうでもいいや。ほら……リッテル」

「はい……」


 折角の再会なのに、マモンが随分な挨拶をしてきたと思ったら、彼の背後からボク自身は初めましてな天使がこちらに歩み出て来る。まさか、別の天使までいるとは思いもしなかったけど。今の呼び名からしても、彼女は……。


「リッテル……あなた、無事なの?」

「はい……お陰さまで……」

「そう……良かった。本当に良かったわ……!」


 リッテルの無事を確認して、ラミュエルが涙声で彼女を迎え入れる。これから彼女には罰を与えなければいけないのだろうけど、ここで水を差す必要はないだろう。その辺はティデルもちゃんと学習したみたいで、彼女達の再会に口を挟むつもりもないみたいだ。


「……リッテルがあんたらの言う覚悟ができたって事だったから、見送りに来たんだけど。えぇと……」

「あなたがマモン様?」

「そうだけど? で、あんたがラミュエルとやらか?」

「えぇ、そうです。……お話は何となく、聞いています。リッテルが魔界ではお世話になったようで……ありがとうございました」

「別に。礼を言われるようなことは、してない。俺もなんだかんだで楽しかったし……。あぁ、そうだ。リッテル、こいつを連れてけ。話はきちんと着けてあるから、お前の言うことも聞くだろう」


 そんな事を言いつつ、マモンはいつか見たことのある白い鞘を呼び出すと……柄に何かの包みを添えて、リッテルに寄越す。これは、確か……。


「是光ちゃん……。いいの? こんなに貴重な子を預かって……」

「そいつはお前が気に入ったんだと。確かに魔界じゃ、あまり是光の活躍の場はないし。お前が持っている方が、有効活用できるだろ」

「……はい。……ありがとう、あなた」

「うん。どんなに時間がかかっても、いつまでも待ってるから。……だから、必ず帰ってこい」

「えぇ……行ってきます。そして……必ずあなたの元に帰れるように一生懸命、自分と向き合ってきます」


 そんなやり取りをして、マモンが穏やかな笑顔を見せてるけど。……今、なんて? リッテル、なんて言った? あなた⁇ ……それ、どういう事?


「それじゃぁ……その。リッテルを……妻をよろしくお願いします」


 ボクが混乱しているのを他所に、マモンはマモンで、もんの凄くしおらしい様子でラミュエルに頭を下げている。でも……え? 妻? 今、リッテルの事を妻って言った⁇ え……えっ⁇ これまた、どういう事⁉︎


「……そう。そういう事だったのね……! まぁ、なんて素敵なんでしょう……! えぇ、えぇ。大丈夫です。元はと言えば、私がリッテルを図らずとも追い詰めたのが、いけなかったのですし。……どうか、頭を上げてください。罰の内容はこれから審査の上、決めますが……あなたの思いも加味して、精査するよう私の方でも計らいましょう。それに、これからお力を借りることもあるかもしれないし……。こちらこそ、よろしくお願いいたします……」


 こっちはこっちでフワフワしつつも、しっかりと頭を下げて謝辞を述べるラミュエル。そんな様子で、互いに話をきちんと進めているけど。ボクとしては、どうしてこうなったのかが、とにかく気になる。これは……帰ったら根掘り葉掘り聞くしかないな、うん。


「それじゃ、俺はそろそろ帰るよ。グレムリン共が待ってるし。……郷愁を誘い、生まれし今際の巣へと誘わん。我が身の楔を引き戻せ……ヨルムゲート……っと」


 最後はいつもの不貞腐れた様子に戻りつつ、寂しげな様子で魔界に帰っていくマモン。一方で、彼の背中をどこか名残惜しそうに見つめながら……涙を流しているリッテル。


「さて、ボク達も神界に帰るよ。リッテル、とにかく……よく戻ってきたね。逃げなかっただけでも、十分に偉いと思うよ」

「はい……。そう言えば、ミシェル様。このベル……」

「あぁ、いいよ。それはそのまま、持っていなって。ボクには新しいのがあるし。何より、マモンの戦利品だし」

「……ありがとうございます」


 そうして、まだ涙の乾かないリッテルを促し、神界へのポータルをみんなで潜るけど。……彼らを必要以上に引き離してしまった気がして、何だか遣る瀬ないなぁ……。

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