1−28 もしかして絶体絶命
「全く……数を揃えりゃ、いいってもんじゃねぇだろうに……」
「行け! ドライアード!」
「駆逐しろ‼︎ メタルゴーレム!」
こちらに向かってくるのは、明らかに烏合の衆の格下揃いだが……今日は生憎と、強制送還する余裕がない。可哀想だが、こちらも負けてやるわけにもいかないし。ちょっぴり、痛い思いをしてもらうしかなさそうだ。
「ルシエル! 援護を頼む!」
「分かっている! 天翔ける風を集め、汝の衣とせん……疾走せよ! エアロブースター! 我は望む、堅牢なる地母神の庇護を賜わらんことを……ディバインウォール‼︎ そして、七色の光を集め汝に輝ける知恵の宝冠を与えん……セブンスセンス!」
そうしていとも容易く発動されたルシエルの補助魔法が、俺に更なる力を与える。彼女の補助魔法をありがたく受け取ると、向かってくる精霊達をコキュートスクリーヴァでなぎ倒し、尾を振るうたびに精霊の氷漬けを量産し……最後の大物・魔獣族のギガントグリフォンの翼をぶった斬り、下から突き上げ、宙に浮かせたたところで流石に奴らも彼我の差を理解したらしい。明らかにさっきよりも動揺しているのが伝わってくるので、気分がいい。
「アヴィエル様……あれ、本当に中級天使ですか?」
「な、何を怯んでいるのです⁉︎」
無理もない。呼び出した精霊が悉く逃げ出したのだ。精霊は呼び出された先で傷ついても、元の世界に戻ればある程度は回復はするものの……痛みがない訳ではないし、契約主への信念がなければ死ぬまで戦う道理もない。そのため信頼関係が希薄な契約は、いざという時に役に立たないことが多いらしい。
しかしながら……精霊が瀕死になる前に送還させるのが、契約主の最低限の役目だと思うが。あいつらには、そんな理屈は通用しないだろう。やれやれ、本当に嫌になる。
「……で、どうするんだ? 言っとくが、俺とツレのコンビネーションは最強だぞ?」
「いちいち、ツレとか言うな」
そんな風に余裕綽々と、2人でイチャついて見せるものの……俺達の熱々っぷりにさえ、アヴィエルは嫌味な態度を崩さない。何か企んでいるらしいのが透けて見えるのが、これまた滑稽に見えるのだが……気のせいだろうか。
「フン。粋がってられるのも、今のうちです。リヴィエル! さぁ、存分に我らの新兵器を振るのです!」
「ハッ!」
その命令に俄かに高揚する、天使ども。そして、ルシエルが咄嗟に何かに気づいたらしい。滑稽とか思っていた俺にしてみれば……彼女の慌てようが、尋常じゃないんだが。えっと……一体、何がそんなに不味いんでしょうか?
「あれは……いかん! ハーヴェン! すぐに下がるんだ!」
「え?」
「早くッ! エルノアのところに!」
「……‼︎」
見れば、眩い光が小柄な天使の手元に集まっている。一方で、ルシエルはそれに備えているのだろう……俺が気づく間もなく、相当の魔法を展開するべく無我夢中で呪文を唱えていた。
「生ある者全てを救わん、我は望む! 命ある者全ての守護者とならんことを! ハイネストプリズムウォール、トリプルキャスト‼︎」
「行きます! ラディウス砲、発射!」
天使の言葉と同時に、幾千の光の束がこちらに向かってくる。ルシエルの屈強かつ、広範囲の防御魔法は強か光線を受け止めるが……完全に防ぎきれていない。流れ弾を相棒で受け止めつつ、エルノアを守るものの。……なんて、凄まじい攻撃だろう。
そうして、全ての光が消える頃……ようやく立っているらしいルシエルの元に駆け寄る。彼女の魔力の減り方からしても、さっきの防御魔法はかなり上位の光魔法のはずだ。それをトリプルキャストで発動とか……随分、無理をする。
「ルシエル! 大丈夫か⁉︎」
「……あぁ、大丈夫だ。エルノアは?」
「うん、大丈夫! 待ってて、今……手当をするからっ……‼︎」
どうやら、泣いている場合ではないと思い知ったのだろう。ルシエルに回復魔法を展開する小さな手は、震えも克服しているようだった。
「……流石ですね。これの重厚な攻撃を無傷ではないとは言え、ここまで防ぐとは」
攻撃を放った小柄な天使が素直に感心したように呟く横で……アヴィエルはもはや天使とは思えないほどの残忍な笑みを浮かべて、こちらを見下ろしていた。その表情は……ある意味、悪魔のそれよりも悍ましい。
「クククク、いい気味ですね。……さて、ハイヴィーヴル、こっちに来なさい! その悪魔を殺されたくなかったら、私の精霊として契約しなさい!」
「絶対にイヤ!」
「……アヴィエル様、よろしいですか?」
「何ですか、リヴィエル?」
今の今まで、断固拒否するエルノアの姿勢に思うところがあったらしい。リヴィエルとやらが、困惑した様子でアヴィエルに問う。
「今回の目的はあの魔神の討伐、でしたよね?」
「そうですが?」
「……竜族との契約のお話は、お伺いしていませんが」
「確かに、オーディエル様の命令は悪魔の討伐です。ですが、悪魔を引き込んだあの恥さらしに、罰を与えるのは必要だと思いませんか?」
「……罰、ですか? しかし、大天使でもない私達が他の天使に罰を与えるのは、如何なものかと?」
「いずれ私は大天使になるのですから、権限を前倒しして使っても問題ありません! 未来の大天使の権限を最大限に利用し、私はあいつから大切なものを剥奪する事にしました。魔神も、竜族も根こそぎ。そうそう、この際です。すぐに私の物になるはずのロンギヌスも……先んじて、貰っておきましょうか」
「お言葉ですが、私にはただの私怨にしか聞こえません。……先ほどから様子を見ていれば、ルシエル殿とあの悪魔のシンクロ率は異常です。サーチ鏡で確認できる範囲で……平均値を大幅に上回る130%を叩き出しているのですから、彼がルシエル殿に精霊として服従している証拠でもあるでしょう。……実際、彼は人間界で悪さもしていないと聞きますし、粛清自体を考え直すべきなのでは? しかも、ロンギヌスは聖槍と呼ばれる神具です。武器の方が持ち主を選ぶとも言われていますし、無理やり取り上げたところで……意味はないと思います」
「うるさいですね! あいつに扱えるのです‼︎ 私が扱えないはずないでしょうッ⁉︎」
相変わらず、無茶苦茶な奴だな……とは言え、俺も油断していたのは事実だ。
アヴィエルは大したことないのかもしれないが、あのリヴィエルはかなり厄介な奴のようだ。ルシエルの傷自体は比較的浅いが……さっきの防御魔法で、肝心の魔力をほとんど持って行かれていやがる。これ、もしかして絶体絶命ってヤツだったりする……のか?




