表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第5章】何気ない日常の中に
182/1100

5−30 鳥ちゃんのご夫婦

「いらっしゃいませ〜」

「うむ! 頼もぅ〜!」

「姫殿下、道場破りではないのですから、その挨拶は少々ズレているかと……」

「うぬ? そうなのか?」


 姫殿下を仕方なしに諫めながら待っていると、古家具の裏側から小太りの淑女が出てくる。どうやら、彼女が3軒目の店主らしい。


「何かお探しで?」

「この店に昨日、水色の髪の男と金髪の娘の組み合わせの客は来なかったか?」

「水色に金髪……あぁ、確かにお越しになりました。鳥ちゃんのご夫婦ですわ」

「と、鳥ちゃん⁇」

「えぇ。とても可愛らしい奥様のために、旦那様が彼女のコレクションケースを探しておいででして。聞けば、奥様は小鳥がとてもお好きなのだそうですよ。そして、小鳥達が落としていった羽を集めているのだそうです」

「あの女が小鳥好きとは……自分の羽では満足できぬのか? ……まぁ良い。して、何を買っていったのだ?」

「え、あぁ……コレクションケースをお買い上げいただきましたが……。失礼ですが、あなた様方はどちら様でしょうか? 昨日のご夫婦のお知り合いですか?」

「あぁ、申し訳ございません。私達はそのご夫婦の結婚祝いを探しておりまして……」

「エ、エドワルド⁉︎」


 咄嗟にエドワルドが作り話をしたものだから、姫殿下は驚いた声を出したものの。確かに、ここは彼の話に乗っかった方が賢明だと判断したようだ。1つ咳払いをすると、彼に話を合わせて店主に質問を続ける。


「うむ、そうなのだ。彼らは、妾の知り合いでな。先日、急に婚礼の便りを寄越したものだから、祝いの品をと思ったのだが……とは言え、どんなものを贈れば良いのか見当もつかなくての。そもそも、住まいも知らせてこなんだ。どうすれば良いのか、考えあぐねていたのだ」

(ほぅ……世間知らずの姫殿下にしては、上出来な言い訳だな……。きちんと、聞きたい事も抑えている。お見事です)


 姫様の説明に、いよいよ嬉しそうな表情を見せて。彼らの思惑を露とも知らず、相当のお人好しらしい店主が感動したように、更に色々と教えてくれる。


「まぁまぁ、そうでしたの。なんて、素敵な事でしょう。……お住まいまでは存じませんが、奥様が持っていた鳥の図鑑は、この通りのマイヤー書店でお買い求めいただいたものだと思いますよ。この辺りで専門的な書物を取り扱う店は、あそこしかありませんわ。もしかしたら、そちらの店主が存じているかも。……とは言え、あのご夫婦が喜びそうなものがこの店にあるかしら……あぁ、そうだ。でしたら、こちらはいかがでしょう?」


 そう言いながら……店主が右手にあったアンティークらしい食器棚の中から、何かの人形らしきものを取り出す。


「これは……?」

「英雄ハール・ローヴェンを象った陶磁器の人形でございます。ただ、残念なことに……非常に古いもののため、彼の最大の特徴でもある三つ編みが折れてしまっていて……。仕方なく、この状態で色を塗り直して修復しております。でも、これでしたらちょうど髪の色といい、髪型といい。旦那様にソックリですわ。昨日の仲睦まじさから考えるに、少なくとも奥様の方は喜んでくれると思いますよ」

(……⁉︎)


 店主の言う通り、三つ編みが取れた英雄の姿はハーヴェンにソックリだ。その人形の出で立ちに、エドワルドの違和感はいよいよ混迷を極め始める。


(今まで悪魔の姿にばかり、気を取られていたが……。ここまでの一致は、ただの偶然ではない気がする……)

「おぉ! 確かに! エドワルド、これを買って帰るぞ! 店主、これを包んでくれぬか?」

「買い上げありがとうございます。少々、お待ちくださいね。贈り物用にお包みしますわ」

「うむ! 綺麗にリボンを添えてくれ!」


 エドワルドの違和感が深まっているのを知ってか知らずか、ジルヴェッタは目の前の人形を気に入ったらしい。話を合わせて、贈り物用に包むよう店主にお願いしているが……様子から察するに、自分用にするつもりだろう。


「店主、因みにそちらは幾らかの?」

「はい、銅貨8枚になります」

「エドワルド! 支払いを頼むぞ」

「ハッ」


 言われるままに支払いを済ませ、代わりに受け取った品物を従者に手渡す。その上で……姫殿下のご機嫌を損ねないためにも、しっかりと厳重に持ち帰るように言い渡す。


「ありがとうございました〜」


 最後まで感じの良い店主の挨拶を背に、次の目的地を確認するジルヴェッタとエドワルド。同じ通りにあるらしいその店は、専門的な書物を扱う本屋らしい。


「次は書店、ですね。確か……マイヤー書店と言いましたか」

「ふむ。そうじゃな。最後に折角だから、そちらにも寄るとしようかの。……何か分かれば良いのだが」

「えぇ、そうですね……」


 やる気に満ちた姫殿下に生返事をしつつ、エドワルドの脳裏は新しい疑問に支配されつつあった。そう……あまりに似過ぎているのだ。ハーヴェンが見せる「2つの姿」は、絵本の勇者と悪魔のそれぞれの姿に、非情なまでに酷似している。


(……ますます、分からなくなってしまった。言われてみれば、ハーヴェン様の普段のお姿こそ……絵本にソックリではないか。本当に……どういう事なのだ?)


 偶然の一致にしては、あまりに不可解。今度は勇者の面影の方に照準を合わせて、ハーヴェンの姿を重ねては……1人で混乱の深みに嵌っていくエドワルド。正体を掴まれかけては、するりと逃げていく。そんな勇者の仕打ちはある意味で、悪魔の意地悪以外の何物でもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ