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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第4章】新生活と買い物と
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4−21 労働の喜びでヤンす

「ね、地図ってどんなものなの?」


 カンバラの駅から乗った列車に揺られながら、エルが尋ねてくる。コンタローはそんなエルの膝の上で丸くなって、穏やかに寝息を立てていて……こうしていると、コンタローは本当に子犬みたいに見えて、とても悪魔とは思えない。


「あ、地図っていうのはね、国や町がどの辺にあって、どの方角に進めばたどり着けるとか、そういうことを知りたいときに見るものなんだよ」

「そうなんだ。う〜んと、父さまのところにあった領地図みたいなもの?」


 そう言われて、父さまの書斎に貼ってあった魔力分布図を思い出す。確か、あれは……誰がどのあたりの魔力を監視するかを示していた地図だったと思う。父さまはそれを領地図なんて言ったことはなかったけど、母さまは若干縄張り意識が強い部分があって……そう呼んでいたことを思い出していた。きっとエルはそんなことは考えもせずに、その呼び方で覚えてしまっているだけに過ぎないんだろうけど、何となく僕は領地図、という呼び方は好きになれない気がする。


「うん、まぁ、あれに近いんじゃないかな。どこに何があるかを書いてあるのには、違いないし」

「そっか。その地図があれば……カーヴェラ以外の大きな町が、どの辺にあるのかも分かるってこと?」

「そうだね。興味がある場所があったら……ハーヴェンさんにお連れていってもらうのも、いいかもしれないね」

「うん!」


 そんなことを話していると、カーヴェラにあっという間に到着してしまう。カンバラ国境跡郊外の次がカーヴェラなのだから、無理もないけど……ちょっと物足りない気分になる。


「子供3人でお願いします」

「それじゃぁ、運賃は銅貨3枚ですよ」

「……えっと、これでお願いします」

「はい、確かに。ご利用ありがとうございました」

「あ、そうだ。グランティアズ行きの列車の時間を教えて欲しいんです。この後は……どのくらいの時間になりますか?」

「えぇと……この駅にグランティアズ行きの列車が停まるのは……11時24分発、と……13時16分発かな? その後は4時間くらいないから、気をつけて」

「ありがとうございます」


 13時くらい、かぁ。場合によっては1駅だし歩いてもいいのかもしれないけれど、できるだけ列車を使った方が安全だろうし、その辺りは街で買い物を済ませてから考えよう。


「坊ちゃんは流石でヤンすね」

「うん? どうして?」

「おいらだったら、帰りの時間なんて考えないでヤンす。現に、お嬢様は先に行っちゃってます……」

「え? えっ⁉︎」


 コンタローに言われて、エルの姿を確認する。見れば……彼女は既に駅前の露店に捕まっていて、お婆さんによく分からないお守りみたいなのを勧められているみたいだった。


「あ、エル! ちょっと待って! 地図を買う方が先だから!」


 そう言いながら、皮袋から銅貨を出しそうになっているエルを既の所で止める。


「え〜? でも、これ、こんなに綺麗なんだよ? 私の部屋に飾りたい〜」

「うん、綺麗なのは分かるけど……この間も、ハーヴェンさんにちょっと怒られたばかりでしょ? とにかく、お使いを先に済ませないとダメだよ」


 きっと、僕がエルを止めたのが気に入らなかったんだろう。若干不機嫌になっているお婆さんに、エルが持っていたお守りを返す。というか……子供が作ったみたいなビーズを繋げただけのモビールが銅貨5枚なんて、絶対に高いと思う。


「お嬢様、買い物が楽しいのは分かるでヤンすけど、前にもお頭が言ってたでヤンしょ? 必要なものと、欲しいものは違うんでヤンすよ? 今のは絶対に、必要なものではないでヤンす。お守りならお頭にお願いして、ベルゼブブ様に作ってもらった方が見た目はともかく、実用的にはいいでヤンす」

「う、うん……でもキラキラしてとっても綺麗だったし……あれがあれば、早起きできそうだなと思って……」


 キラキラして綺麗なのと、早起きできそうなのは、あまり関係ないと思う……。


「そういうことなら、明日から起こしに行ってあげるよ。僕は朝ちゃんと起きる習慣もついているし……そうだ。今度は一緒に3階の掃除もしよう?」

「え? ギノ、3階の掃除しているの?」

「うん。コンタローと僕で毎朝、廊下とお風呂の掃除をしているよ」

「あい! おいらは毎朝窓を磨いているでやんす」

「そうなんだ……私、知らなかった……。てっきり、掃除はハーヴェンがやっていると思ってた……」


 エルがちょっとしょんぼりしながら答える。もしかして……仲間外れにされたと思っているのかな? だとしたら、悪いことしちゃったかな……。


「うん! 分かった! 明日からギノ、私も起こして! それで、お掃除する!」

「そうだね。明日から頑張ろう? それにね、朝お掃除すると……とってもお腹が空くんだよ。そうすると、朝ごはんがいつも以上に美味しいんだ」

「そうなの?」

「あい! お頭のお料理が、いつも以上に美味しくなるでヤンす。労働の喜びでヤンす」

「労働の……喜び?」


 労働の喜び、なんてちょこっと大げさなことを言って胸を張るコンタローに、労働という言葉に今ひとつ反応できない様子のエル。心なしか……コンタローの薄茶色の麻呂眉が凛々しく見える。とはいえ、コンタローの言葉もあながち見当違いなわけでもない、と僕は思う。

 実は……お掃除のご褒美に、銅貨1枚のお小遣いを貰っていたりするんだけど、今は内緒にしておいた方がいいかもしれない。もちろん、コンタローもその辺は心得ているみたいで。それ以上の事を言うつもりはないみたいだ。

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