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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第4章】新生活と買い物と
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4−13 自分が当事者じゃなければ、大抵は愉快

 慣れたくもない、親玉の屋敷の廊下を淡々と進むが。容赦無く襲いかかってくる目眩になんとか抗いながら、黄色と紫の床をつい睨み返してしまう。どうしてこうも、この屋敷は人を威嚇してくる色合いをしているのだろう。


「ベルゼブブ、いるか〜?」

「あ、ハーヴェン、おっかえり〜。もしかして、今日も相談事?」

「ま、そんなところかな。とりあえずボンボンショコラ作ってきたから、後で食えよ」

「ワォ! なに、今日もお菓子作ってきてくれたの?」


 チョコレートの誘惑に前のめりになって、カウチから落ちそうになるベルゼブブ。そんな彼の前にある、例の如くに気色の悪いローテーブルに2箱、貢物を並べてみる。


「因みに1箱は子分達に、だから。独り占めするんじゃないぞ?」

「はいはい、分かっているよ〜。まぁ、とりあえず……1箱は食べていいんだよね?」


 そう言いながら、2個を一気に頬張っているベルゼブブ。いや、違う味を2個頬張ってどうするよ。


「おぉ〜、相変わらず美味しいね〜! これ……もしかして、全部違う味だったりする?」

「それは先に聞け。一応、それぞれ趣向を凝らして作ってあるんだから、もっと味わって食えよ……。ま、いいや。それでな、今日はサタンの所に行きたいのと……ルシファーの面前に天使様御一行をご案内するには、どうすればいいか、相談しにきたんだけど」

「サタンの所……例の新入り君のことかな?」

「うん。その後、どんな感じか聞いてるか?」

「あぁ、ハーヴェンが言ってた名前をサタンに伝えたよ。どうやら、ビンゴだったみたいだね〜。その子、妙な反応を示し始めているらしい。もうひと押しで、何とか落ち着くところまで行くんじゃない?」

「……そうか。俺が会えば、ちょっとは落ち着くかな? 彼とは人間界ではそれなりに付き合っていたし。今の姿だと微妙かもだけど……人間の方の姿だったら、何か思い出してくれるかもしれないだろ?」

「そうだよね〜。特にハーヴェンは聞いている限り、危害を加えたわけでもないし。……緩やかに思い出すかもしれないね。そういうことなら、僕も一緒に行こうかな? 道すがら、天使様御一行の話も聞くよ」

「あぁ、そうしてくれるか? 何だか……ちゃっかり、お前も巻き込んでて悪いな」

「ん〜? 別にいいよ? 僕、いっつも暇だし。ちょっと遠巻きに見学できる厄介ゴトがあった方が面白いでしょ? 自分が当事者じゃなければ、大抵は愉快だし」

「……素直に感謝した俺がバカだったよ」


 溶岩の川沿いに北上し、サタンの居城を目指す。ここから距離自体は結構あるが、行路に乱気流のポイントもないし、飛んでしまえばそんなに時間はかからないだろう。


「で、天使様御一行って? ……どうしたの?」

「あ、あぁ。ほら、例の素材の話なんだけど、ベルゼブブがルシファーにも相談してくれるかもしれない、って伝えたんだけどさ。何せルシファーは天使達の間では超有名人だろ? ……向こうさんで問題になっていることを、色々聞きたいらしい」

「ふ〜ん。まぁ、ルシファー本人はちょっぴり揉める程度で大丈夫だと思うけど……リヴァイアタンはどんな反応を示すかなぁ? そればっかりは……僕も保証はできないかもね? ハーヴェンのエスコートがあれば、僕の領内をウロつかれるのは別に構わないけど」

「だよなぁ。俺もどちらかと言うと……リヴァイアタンの領内を通るにはどうすればいいかな、なんて思ってるんだよ。あそこはお膝元が近いだけあって、魔力の乱気流が激しいから……上空を飛ぶわけにもいかないし……」

「う〜ん。だったら、伸しちゃえばいいんじゃない? 大悪魔を名乗ってはいるけど、リヴァイアタン、弱いし。ハーヴェンであれば、簡単に勝てちゃうでしょ」

「確かに、あいつは弱いかもしれないが……それ、アリなの?」

「別にいいと思うよ? そんなの、負けた方が悪いよ。弱い方が悪いの。何たって、僕らは悪魔なんだから。誰かの邪魔をして……負けた方が圧倒的に悪い」

「なんだろう……嫁さんも同意しそうな気がするぞ」

「ルシエルちゃん、凶暴みたいだもんね〜。でも、そんなお嫁さんを組み敷くのが……最高にイイんでしょ?」

「……まぁ、ルシエルが凶暴なのは認めるが……」


 そんなことを話しながら、しばらく飛んでいると……溶岩の中に浮かぶ、漆黒の城が見えてくる。天空には大量のガーゴイル。いかにも悪魔の居城といった風情のサタンの住まいを見ると、ここが魔界なのだとつくづく思い知らされる気がする。


「相変わらず、地味な城だよね〜。センスないな〜」

「いや、サタンもお前にだけは言われたくないと思うぞ」

「えぇ〜、そうなの?」


 自分の壊滅的なセンスを棚に上げて、人様の城のセンスにケチをつけるベルゼブブ。しかし彼の奇抜な出で立ちは、周囲を飛び回っているガーゴイルを一発で黙らせる威容を放っていた。


「これはこれは、ベルゼブブ様。それと……確かエルダーウコバク様、でしたよね? 本日は……いかがしました?」


 上空で静かに大騒ぎするガーゴイルの様子に驚いて出てきたらしい。ハゲワシの頭にクジャクの尾を持った悪魔が丁寧な様子で出迎えてくれる。こいつは確か……。


「アドラメレクか。……すまない、急に押しかけて」

「ご〜メンねぇ。今日はハーヴェン……エルダーウコバクが新入りの様子を見たいって言っててね。どうやら、人間界で仲良くしていた相手らしいんだ。どう? 様子見させてもらえそうかな?」

「かしこまりました。とにかく中にどうぞ。すぐに、主人に請け負って参ります」


 そう言われて、通された城内の……シックなことシックなこと。さっきまで頭を悩ませていた色彩感覚が、浄化される気分だ。


「う〜ん。やっぱ地味だなぁ。ね、ハーヴェン。この辺りの絨毯……黄色にした方がいいと思わない?」

「俺はこのままでいいと思うぞ」

「そう?」


 黒い床に折角、落ち着いた臙脂色の絨毯が敷いてあるのに。ここに黄色は、絶対にやめた方がいいと思う。


「なに! エルダーウコバクが来ているだと⁉︎」

「サタン様、落ち着いて。とにかく、お客様にご挨拶を……」


 そんなことを考えていると、さっきのアドラメレクに連れられて……廊下の向こうから、地響きと一緒に大柄な悪魔がこちらにやって来るのが見える。


「ねぇ、サッタ〜ン。僕、来ちゃった」

「ベルゼブブか。相変わらず、気色悪い挨拶だな。……で、エルダーウコバクまで連れて、何をしに来た?」


 轟轟と燃え続ける炎を纏った黒い角に、真っ赤な肌。偉丈夫というのは、こういうことを言うのだろう。どこもかしこも筋肉隆々の体躯は、大きな漆黒の翼も相まって、大悪魔にふさわしい様相と威圧感を放っている。


「急にやって来てすまない。例の新入りの様子を見たいと思って」

「あれは渡さんぞ! 理性を振り切るほどの怒りで、暴れまわっているのだ。我が配下として、これ以上ない逸材だ! ベルゼブブごときに渡すものか!」

「いや、そうじゃなくて……」


 しかし返答も流石、憤怒の大悪魔。……人の話を一向に聞こうとしない。


「え〜? 僕は新入りには興味ないよ? 何たって、ウチのハーヴェンは強い上にお菓子作りも別格だもの。別に今更、新入りなんてい〜らない★」 


 一方で……その怒りに油を注ぐようなことを、わざわざ言う暴食の大悪魔。


「何だと! 天使に誘惑されて配下に降った腑抜け如きに、あれが負けるはず、なかろう⁉︎」


 案の定、頭の中も炎上したらしい憤怒の大悪魔。何だろう、話が変な方向に転がっていくんだが。しかし……天使に誘惑された、ってどこから出た情報なんだろうか……?


「いや、だから、そうじゃなくてだな……」

「そこまで言うのであれば、会わせてやる! それで、エルダーウコバクの方が強いということが分かれば……素直に譲ってやろうじゃないか⁉︎」

「サタン様、これはそういうご相談ではないと思いますよ。まずは、エルダーウコバク様のお話を……」

「うるさいぞ! とにかく、どっちが強いかを徹底的に確認する!」

「いけませんッ! きちんと、話を聞いてからにして下さい! ほら、ベルゼブブ様も事と次第のご説明を!」


 先ほどから慌てた様子で、隣にいるアドラメレクがベルゼブブにも水を向けつつ、ご主人を諫めようとしてくれているが。それすらも聞き流し、更に角の炎を滾らせて興奮し始めるサタン。……ダメだ、こりゃ。


「そういう事なら、ハーヴェン、ガンバ! 僕は新入りはいらないけど、どっちが強いかは興味あるかも」

「はい? ベルゼブブ様は、それでいいのですか⁉︎」

「うん、別に構わな〜い」

「……なんで、こうなるかな……」


 結局、ベルゼブブまで愉快そうに話に乗っかり始めて……俺はプランシーと思われる悪魔と対峙する羽目になるらしい。プランシーがサタン配下である以上、他に会う方法もないみたいだし……仕方ないか。


「それでは、対戦の準備をするぞ! 呼ぶまで、しばらく待っていろ!」

「はい? すぐに案内してもらえないの?」

「折角だ! こうなれば大々的に白黒ハッキリ着ける!」

「……へ?」


 大々的に白黒……ハッキリ着ける? そもそも何1つ、グレーにすらなっていないと思うんだけど。

 きっと、俺と同じようにこの状況を呆れているんだろう。隣に佇むアドラメレクが、妙にジットリした眼差しでサタンを見つめている。この蔑むような眼差しは……多分、失望している……ってヤツだよな……。配下にさえも、こんな顔をさせるなんて。サタンは色んな意味で、大丈夫なんだろうか?

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