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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−40 引率のお兄さん

 しばらく平野を進んだ後、小川が流れている森にたどり着く。出発してから、大体30分くらい。ちょっと疲れたらしいエルが休憩したいと言い出したので、川のほとりで休むことになった。森の中だから、ちょこっと瘴気が濃いめだけれど……昼間という事もあって、そこまで苦しいほどじゃない。


「ハーヴェン、チョコちょうだい。うんとね……オレンジのが食べたいの!」

「お、そうか? それじゃ、コンタロー。ちょっと……次元袋貸して?」

「あい!」


 ハーヴェンさんに言われて、ポシェットの上蓋をカパッと開けるコンタロー。ハーヴェンさんはいかにも手慣れた様子で、ポシェットから目当てのチョコの箱を取り出す。そうして、開かれた四方が20センチくらいの箱の中には……綺麗に並んだチョコレートが詰まっていた。


「わぁ〜、すっごく綺麗〜!」

「そか? で、エルノアのリクエストは……オランジェットだったな。ほれ、この列だよ」

「うん。それじゃ、いただきま〜す」


 早速、細長い形のチョコレートを口に放り込むエル。その瞬間、目をキラキラさせて「おいしい〜」と頬を抑えている。きっと、彼女の様子に触発されたんだろう。続いて、コンタローも1個食べたいと言い出した。


「コンタローは1個目、どれにするんだ?」

「あ、あぅぅ。これだけあると迷うでヤンす……う〜ん。それじゃ……キイチゴのやつ、欲しいでヤンす」

「フランボワーズはこの列だぞ。ほれ、頭に赤いのが乗っているやつな?」

「あい!」


 恭しく両手でチョコレートを受け取ると、嬉しそうに頬張るコンタロー。「はぅぅ」としか言わないから、具体的な感想は今ひとつ分からないけど……尻尾の振り方が激しいところを見るに、とてもおいしいのだろう。満足そうにうっとりしているのが、なんとなく分かる。


「あぁ……もう1個食べたいな〜。でも、後の方がいいかな……」

「どっちでもいいぞ? まぁ、でもこのペースだとあと2時間くらいはかかると思うから、その辺は考えとけよ?」

「そうなの? ……それじゃぁ、今は我慢しようかな」

「ルシエルとギノは大丈夫か?」

「私はまだ大丈夫だ。まだ……1個目の候補を決めあぐねている」


 ルシエルさんはどうやら、真剣に食べる順番を考えているらしい。確かにさっきの説明だけでも、どれもきっと美味しいに違いないし……僕だって、どれから食べようか悩んでいる。


「そ、そうか……。ギノは?」

「はい、僕もまだ大丈夫です」

「そか。それじゃ……目の毒みたいだし、一旦こいつはしまっておこうか。コンタロー、頼むよ」


 そう言われて、元気よく返事すると……コンタローはポシェットの蓋を開けて、受け取った箱を中に放り込む。


「またご用があったら、言って欲しいでヤンす」

「あぁ。……ん? ところで、ルシエル……どうしたよ?」


 ハーヴェンさんが箱をしまったところで、何かを不思議そうに見ているルシエルさんに気づいて、声をかける。見れば、ルシエルさんは川の中を覗いているようだった。


「川の水は意外と綺麗なんだな。瘴気は濃い目なのに、川が毒に侵されている様子もないし……魚の姿も見える」

「そう言や、そうだな。水は瘴気との親和性が高いから、真っ先に侵されるはずなんだが……う〜ん。だとすると、ここが森だからかもなぁ」

「どういうことだ?」

「水よりも瘴気との親和性が高い素材が、ここにはあるってことさ」

「……木か?」

「樹木は光合成で酸素を作り出し、空気を浄化すると言われるが……その性質のせいで、瘴気を取り込みやすいんだろう。それでも、こうして枯れずにいるんだから……植物っていうのは、凄いよな。……こんなに幹まで真っ黒なのに、きちんと生きているんだから」


 そんな風にハーヴェンさんが呟くと、ルシエルさんはどこか寂しそうな顔で……近くにあった木の幹を眺めている。


「こうして自分の足で歩くと、色んなことが見えてくるな。……今まで長い間生きてきたのに、そんなことにも気づかなかったなんて。もっと……早く人間界を歩いてみるべきだったかな……」

「ま、早い遅い、はあんまり気にしなくていいんじゃないか? 大事なのは、きちんと気づけたことだと、俺は思うぞ?」

「そう、だよな」

「……それじゃ、そろそろ行こうか? もう太陽が真上に来るみたいだから、もうちょいペースを上げないと夕方までに新居に着かないかもな……。このままだと、エンドサークルをトーチカ代わりに、野宿になるかもしれないぞ? そうなったら当然、風呂なし、夕飯も抜きだ」


 野宿。お風呂なし、お夕飯抜き。ハーヴェンさんの何気ない言葉に、ピリッとした危機感を感じる。そしてそれは……僕だけではないらしい。ルシエルさんもエルも、彼の言葉に一大事と、そそくさと歩き出した。なんだか、2人のコミカルな様子がちょっと、おかしくて。僕が少し嬉しそうにしているのに、気づいたらしい。ハーヴェンさんが妙にしてやったりの顔で、ウィンクして見せる。なるほど……引率のお兄さんは、ペースのコントロールも上手みたいだ。

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