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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【おまけ】天使と悪魔の後日譚
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Ep-9 何よ、そのシケたおツラは!

「フハハ! ほらほら、どうした、泥棒! この麗しい私を傷つけるのが、そんなに怖いか!」

「……いや、そういう訳じゃないけど。そもそも俺、泥棒じゃねーし……」


 どうやら、ハーヴェンは上手くやっている……みたいだな。魔禍の対処を任せてみれば、何やら平和な感じで「握手会」に興じている神父様を横目に……俺の方はそろそろ目の前の退屈かつ、ムカつく状況に飽きてきた。


(大体さー……こいつの自信って、本当にどこから沸いてくるんだろう?)


 自分で麗しいと言っちゃえるその感性、俺にはよう分からん。しかも……。


「さぁさぁ、リッテル! 私の腕の中に、カモンなのです!」


 いつの間にか、人様の嫁さんを堂々と呼び捨てにしているし。……本当に呆れて物も言えないよ、お前さんには。


「絶対、イヤ! 死んでもお断りよ!」

「ふっ……強がっていられるのも、今のうちです! 仕方ありません……こうなったら、私の本当の力をお見せしましょう!」

「……あ?」


 なんだ、なんだ? 何やら奥の手があるらしい、ペラルゴさんが妙に聞いたことのある呪文を唱え始めたが……。


(そう言や、ペラルゴさんは魔法能力が開花していたんだっけ? でも、それにしちゃぁ……この魔法は……)


 多分、天使様には効かないタイプの魔法な気がするが。……大丈夫かな。色んな意味で。


「妖艶なる眼差し、汝の心を捉えて離さじ……我は求む、汝の心を! チャーミングアイ!」


 あっ、やっぱり。いつかの時にハンスが「うふ〜ん」とか言いながら、練習していた初級魔法じゃないか。……どこで勉強したのかは、知らないけど。ペラルゴが魔法能力を獲得したって前情報に、間違いはなかったみたいだな。しかし、しっかりと発動できたのは褒めてやりたい所だが。……天使様達って、状態異常への耐性はガッツリあったよーな。精神的に相当参っていない限り、この程度の魔法は効果がないと思うけど……。


「あなた……」

「あ? どうした、リッテル」

「ちょっと、あちらに行ってくるわ」

「え……?」


 ま、まさか! リッテル、引っ掛かっちまったのか? あんな低級魔法に? ペラルゴ如きの魔法に?


「ちょ、ちょっと待て! リッテル、目を覚ませって!」

「フハハハハ! いいですよ、実にいい! 遂にリッテルが私のモノに……! そして、ついでにそっちの天使もいらっしゃい。あなたが持っているパネルを、私に寄越すのです!」

「はぁ⁉︎ お、おい、ペラルゴ! 大天使相手に、何をふざけたことを……」

「それもそうですね。私もそちらに向かいましょうか」

「ホワッツ⁉︎ ルシエルちゃんまで、どうしたよ⁉︎ いやいやいや、待てって! 2人とも、待って!」


 俺が慌てに慌てても、2人は静々と従順に歩みを進めていく。片や術者のペラルゴはと言うと。……これまたムカつく感じで、鼻の下をビヨヨーンと伸ばしているじゃないか。その表情に、更に神経を掻き乱される気分になるが……。


(いや、落ち着け……落ち着け、俺。そもそも、さっきの詠唱時間だと効力は短いだろうに。……継続構築もなかったみたいだしな)


 ……そうだよ。第一、チャーミングアイで一時的に相手を誘惑したところで、効果は一瞬。……ペラルゴさんが望むような「あんな事やこんな事」に及ぶ前に、効果が切れちまう気がするけれど。


「うふふふふふ……!」

「おぉ! いつ見ても、美しい! それでこそ、我が妻にふさわ……ホゲッ⁉︎」


 ……あ? 今……変な悲鳴が上がった気がするけど。あれれ?


「あら? そう言うあなたは本ッ当〜に、情けない顔をされているのね? 何よ、そのシケたおツラは!」

「は、は……?」


 リッテルの麗しい脚線美から放たれる、脳天直撃の踵落とし。彼女渾身の一撃が、いよいよペラルゴさんが収まっていた球体にピシッとヒビを入れている。……あっ、そういう事。


(……何だ。この様子だと……最初から引っ掛かっていなかったみたいだな)


 心配して損したぜ……じゃなくて! いや、それはそれで、ちょっと待って! 勢い余って、ペラルゴさんを虐めちゃダメだろーが!


「リッテルの言う通りだな。貴様のようなブサイクに、我らが簡単に靡くとでも?」

「ブ、ブサイクだと⁉︎ この私が⁉︎ って、やめなさい、あなた達! 私は恐れ多い……ホゲェッ⁉︎」

「リッテルにルシエルちゃんも、ストップ、ストップ! それ以上は可哀想だから、やめとけって!」


 リッテルの踵落としの後に降りかかるは、ルシエルちゃん必殺の左ストレート。今度はミシミシッと派手な音をさせながら、ペラルゴさんが丸裸にされているが……。それだけじゃ物足りないのか、2人の麗しの天使様はツカツカとペラルゴさんに歩み寄っては、尚もお口の攻撃を緩めようとしない。


「まぁ、ご自覚、なかったの? でしたら、美的センスから見直した方がいいんじゃなくて? どこをどう見ても、ブサイクじゃないの」

「そ、そんな……!」

「ほら、鏡を用意してやろうか? 改めて、自分のブサイク加減を確認した方がいいだろう」

「ブサイク、ブサイクって……あなた達! いい加減にしなさい!」


 うん、それには俺も同感。そんなに面と向かって、人様をブサイク呼ばわりするもんじゃないな。


(何と、羨ましい……! 我も、あんな風に罵って欲しいものよのぉ)

「頼む、十六夜はちょいと黙ってて」


 手元で興奮に震えている十六夜はさておき、嫁さん達の勢いでプルプル震えているペラルゴに視線を戻せば。とりあえずは精霊化はそこまで進んでいないみたいで、肌の色がちょいとおかしい以外はまだまだ、人の形を保っている。しかも非情な現実を前に、妄想からも醒められた模様。とりあえず、この先の尋問も嫁さん達に任せるか。手が出そうなら、俺が止めればいいだけの話だし。


「こ、これが私……!」

「あぁ、そうだ。これがどう頑張っても、お前だぞ」


 俺が静観を決め込んでいる間にも、ルシエルちゃんの精神攻撃は止まっていない。わざわざ大きめの鏡を用意しては、ホレホレとペラルゴに向けている。まぁ、ブサイクとまでは言わないが。ペラルゴのお顔がいまひとつ、パッとしないのは間違いない。これなら流石に高慢ちきなペラルゴも、これで少しは大人しく……


「素晴らしい! やはり、私はとても美しい存在なのです! このブルーの肌……まるで、サファイアのようだ!」


 ……ならなかった。ちっとも大人しくなりゃしねー。ペラルゴさんは鏡を見つめながら惚れ惚れしたとばかりに、頬を染めていらっしゃる。……ペラルゴさんの自己肯定力、最強っぽい。


「……何がどうなって、そうなるんだ……?」

「えぇ……ここまで来ると、逆に怖いわ。……そういう事。ペラルゴさん……本当に美的センスがズレていたのね」


 リッテルにルシエルちゃんも、そこまで言ってやるなし。とは言え……このペラルゴには何を言っても、無駄だと思うけど。


「何をおっしゃる! 私の審美眼は最高なのですよ! ですから、リッテル! 是非に私とッ……⁉︎」

「だから、お断りって言っているでしょ!」


 自分では美しいらしい見た目を武器に、尚も言いよるペラルゴ。しかし、あまりにしつこい彼の左頬に、嫁さんのビンタが炸裂する。……この光景、どっかで見たな。デジャヴかな?


「はーい、リッテルにルシエルちゃんも、一旦落ち着こうか? 今はこいつを痛めつけることよりも、何をやっていたのかを聞き出す方が先だ。だから……」

「ご心配には及びませんよ、マモン様。……拷問は天使の得意分野ですから」

「へっ?」


 拷問……? まさか、ルシエルちゃん……最初からペラルゴを拷問にかけるつもりだったのか……?


「それでなくても、こいつは元から、魔界にも堕ちてくるような罪人ですし。拷問ついでに粛清するのも一興かと」

「いや、どんな悪人相手でも、何もそこまでする事ないんじゃ……」

「おや、マモン様はこんな奴の肩を持つのですか? 私達の決定に逆らってまで?」

「いっ、いえ。ナンデモアリマセン……(ルシエルちゃん、こっわ)」


 そうしてこれ以上は耐えられぬとばかりに、ルシエルちゃんがキッと睨みつけると。またまた涙目に戻って、ガタガタと震え始めるペラルゴ。そんな中……魔禍との握手会を終えたハーヴェンが、いそいそと俺の隣に戻ってくる。


「……お疲れ、ハーヴェン」

「あ、あぁ……お疲れ。えぇと……」

「……ここから先は天使様方に任せるしかないだろ。……拷問は得意分野なんだと」

「そ、そうか……。ペラルゴさんも、可哀想に……」


 お喋りで口も軽いペラルゴさんの事だから、拷問される前にアッサリと白状しそうなもんだけど。ルシエルちゃんはそのままペラルゴさんを断罪する気満々だし、リッテルも満足げに頷いているし。ストレートに命を散らす羽目になりそうだが……そんな彼女達の無慈悲な決定に、俺が口を挟めそうな空気はない。


「あぃ……やっぱり、天使様は怖いでヤンす……」

「そうだな、コンタロー。……特に、ルシエルを怒らせるのは全力で避けような」

「そうするです。……おいら、拷問はイヤでヤンす」


 それには俺も全力で同意です。とにかく天使を怒らせると、人生お先真っ暗なことがよ〜く分かった。……ホント、嫁さん達には逆らわないに限るな。


(それはそうと……)


 ……ホーテンさんには、甥っ子さんは天使様の手に落ちたと伝えるしかないか……。残念な報告になりそうだが、ホーテンさんも最初からペラルゴを見限っていたようだし。……それなりに落胆するかも知れないが、割り切ってもくれる気がする。

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