表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【おまけ】天使と悪魔の後日譚
1088/1100

Ep−4 折角ですから、予告状を出してみましょう!

「……って、事があって……」

「そうだったんだ……そいつは、マモンも大変だったな……」

「うん……とっても、大変だった……!」


 えぇ〜……今、俺はルシエルちゃんのお屋敷にお邪魔しています。そんでもって、何故かハーヴェンに慰めてもらっています。

 ホーテンさんにお伝えしていた「アーチェッタに詳しい奴」……は他でもない、ハーヴェンの事なんだけど。マルディーンさんのお店に様子を見に行ったついでに、合流した流れでそのままお屋敷にお招きいただいて。涙ながらに事情をお話しすれば……同情と同時に協力も申し出てくれるから、別の涙が溢れちまいそうだ。


「しかし、あの様子だと……ハーヴェンも大忙しだったみたいだな? サインとか、強請られたりして……」

「あぁ……。皆さんがフレンドリーなのはいい事だし、ミカエリスさんの小説も即完売だったのは、良かったんだけど。俺の方は握手とサインに大忙しで、肝心の中身はまだ確認できていないんだよな……」

「それはそれは、ご苦労様でござんした……」


 因みに……嫁さんとクソガキ共はハーヴェンさん家の面々と馴染みに馴染んで、世間話に花を咲かせている。リッテルはルシエルちゃんと結託して、何やら不穏な空気を醸し出しているし。クソガキ共はモフモフ同士でつるんでは、デザートをうまうまとやりつつ、幸せそうにしていやがるし。誰も俺とハーヴェンが深刻な話をしている事に、気付きゃしねー。……どうなってんだよ、ホント。


「しかし……本当にやるのか? 絵を盗むなんて、それこそ怪盗紳士さながらじゃないか」

「いや、絵を手に入れるのはついでだ、ついで。俺自身は絵を盗もうなんて、思っちゃいねーよ。……リッテルを満足させるために、それらしい事をするだけで。……基本的には商談を持ちかけるつもりだよ」

「ハハ……そっか、そっか。いかにも大商人のグリード様らしいな」

「……そいつはどうも」


 怪盗紳士じゃなくて、大商人認定されているだけまだマシか……。こうなってくると、俺の理解者はハーヴェンだけな気がしてきた。天使の嫁さんによる苦労も分かち合えちゃうのは、冗談抜きでありがたい。


「それはさておき……司教かぁ。また、随分と大出世したんだな、そのぺラルゴさんっていうのは」

「あっ、そうか……ハーヴェンはリンドヘイムの元信者だったっけ。司教がどんなもんか、知ってるんだ?」

「うん、知ってる。よーく知ってるさ」


 司教にもあんまりいい思い出はないけれど……なんて複雑な顔をしながら、ハーヴェンが続けてくれるところによると。やはり、「司教」というのは相当に偉い奴らしい。その抜擢が「大出世」なのは、大袈裟な話でもないっぽい。


「司教って言うのは、教皇以下の職位ではトップの階級でな。本来であれば表舞台に立たない教皇の代わりに、各教区の宗教拠点の運営や、司祭・助祭の任命権、果てはお布施の使い道……あっ、いや。経費出納なんかの最終決定権を持つ存在でさ。魔界流に言うと、教皇はヨルムツリー、大悪魔が司教……そんでもって、ナンバー2や上級悪魔は司祭、って感じかな? ……細かい所は、微妙に違う気がするが。基本的にリンドヘイムも縦割り組織だからな。教皇の中身が長らくウリエルさんだったのを考えると、人間が登れる範囲では最高位の職位だろう」

「ほぉ〜……人間の基準だと、俺達レベルの地位なんだ?」

「そんなもんだな」


 しかし、乾いた口ぶりの割には、ハーヴェンには相当に気になることがあるらしい。いつになく険しい顔をしては、眉間に皺を寄せているんだが。


「……なんか、妙だな」

「えっ? 何が? 別に、たまたま司教とやらのポストに空きがあったからじゃないの? そんでもって、魔法が使えるようになったぺラルゴをとりあえず据えただけだろーさ。霊樹が復活したんだから、あり得ない話じゃないだろ」

「魔法に関しては、マモンの言う通りだろうな。だけど、何となくだが……完璧に部外者だったペラルゴさんを司教に迎え入れる時点で、教会側は相当に焦っている気がする。その上で、俺が一番気にしているのは、リンドヘイムには昔から天使様が一枚噛んでいた点でな。……転移装置が現代でも使えていたことを見ても、向こうには天使様絡みの魔力遺産が現役で残っていると見ていい。そんな中で、魔法を獲得した奴が出たなんてなったら……向こうの奴がどんな事をしでかすか……」

「あっ、そういう事……。つまりは、何か? この場合、ペラルゴが司教として悪さしている事よりも、生贄目的で利用されているかも知れないのが、ヤバいって事でオーケイ?」

「うん、それで合ってる。それでなくても、実際にアーチェッタ自体にはそこまで深い調査も入っていない。……嫁さん側も白い台座があった部屋は相当に調べたみたいだが、結局はあれだって転移魔法でボーラに移動しているしな。だから……据え置かれたアーチェッタ聖堂自体は調べ尽くしていないのが、現状だ」


 言われてみれば、確かに。タルルトのお墓参りには2回も駆り出されたし、グランティアズ城とやらも相当人数で調査に出かけたりもしたが。なるほど。リンドヘイムの総本山には、まだ天使ちゃん達の魔の手は届いていなかったか。


「だからこそ、挑発して相手を焦らせれば、根こそぎ引きずり出せるかも知れない」

「うん? ルシエル……それって、どういう事?」


 どうやら、途中から話を聞いていたらしい。いつの間にか、ルシエルちゃんが妙にしたり顔でハーヴェンの横に立っているが。……なんだろう。天使様のお口には似つかわしくないワードがあった気がするが……。


「ルシエル、挑発って……一体、何をする気なんだ?」

「さっき、リッテルと話をしていたのだが。マモン様は絵を盗みに入られる予定とか」

「いやいやいや、ちょっと待って! 俺にはそんな予定はございません! ただ、平和的に絵を譲ってほしーなー……なんて、思ってて……」


 しっかり、ルシエルちゃんまで怪盗方面で誤解してるなし! 何を根回ししてくれてんだ、リッテルは!


「そうでしたか? まぁ……それはいいとして」


 よくない、よくない、よくない! 何1つ、ちっともよくありません!


「折角ですから、予告状を出してみましょう! もちろん、神界側もしっかりとバックアップしますから、ご心配なく!」

「……既に心配しかありません……」

「アハハハ……マモン、頑張れ〜」


 おい、コラ。ハーヴェンもこの期に及んで、他人事を装うなし。無責任にエールを送ってくるな。


「もちろん、ハーヴェンにも活躍の場を用意したから、安心して!」


 しかし、ルシエルちゃん(多分、発案は嫁さん)プレゼンツの悪巧みには続きがあるようで。ハーヴェンもしっかり巻き込むつもりと見えて、あからさまに変な事を言い出したんだが。


「いや、俺は活躍の場はいらないんだけど……。それ、安心というよりは、不安しかないぞ……?」

「何を、腑抜けたことを言ってるんだ! ここはビシッと、伝説のエクソシストとして敏腕を奮うべきだろう!」

「はっ……はいぃぃぃ⁉︎」

「こうなったら、とことんリンドヘイム聖教をぶっ潰してやる! それはもう、再起不能なまでに! 完膚なきまでにッ‼︎」


 ……ルシエルちゃんって、本当に凶暴だよなー。気に入らない相手には、冗談抜きで容赦ないし。それでなくても、ペラルゴさんには彼女もいい印象がないんだろう。まとめて成敗してやると、今からフーフー息を荒げていらっしゃる。


(……えーと。ハーヴェン。もう色々と諦めて、一緒に頑張りますか……)

(あぁ……そう、だな。……こうなると、嫁さんの勢いはノンストップだし……)

(だよなぁ。……ここは1つ、俺達はご要望通りに活躍すると見せかけて……)

(うん、分かってる。天使様達が暴走しないように、それとなくリンドヘイムの皆さんを守る……だろ?)

(ご名答。今回はそっち方面で、俺達は結託しますか……)

(……うん、そうだな。ここは俺達が頑張るしかなさそうだ)


 見れば、ルシエルちゃんはリッテルと一緒に「旦那様大活躍計画」なる、訳の分からない標語を掲げては、大盛り上がりしている。しかも、彼女達の足元ではハーヴェンさん家のモフモフと、ウチのクソガキ共も勢揃いしては一緒にはしゃいでいるし。……主役が計画に乗り遅れているのを、誰1人気遣いやしねー。


(あぁぁぁ……俺の平和は一体、どこにあるんだろう……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ