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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−82 強硬手段も上等

「本当に……本当に、お前は想定外の塊なのだな? まさか……私のベースを言い当てるとは」


 クツクツとやや不愉快な笑いで肩を揺らしながら、ヴェグタムルがこちらをギロリと睨む。その言い分からするに、彼をイコールでヴァルプスだとするのは正答ではないようだが。少なくとも、有効な回答であることは間違いなさそうだ。

 そして……やけに滑らかな表情に僅かな焦りと強がりの色を認めては、もう少しで本懐を遂げられそうだと、私は殊の外冷静に胸算していた。そうだ、この感じは……どこか見慣れた、焦りの顔だ。ヴァルプスもローレライへ行きたいと駄々をこねていた時に、こんな顔をしていた気がする。


「想定外で悪かったな。では……予想外ついでに、そろそろ決着を着けさせてもらおうか? ……そこを退け」

「死んでも、嫌だと申したら?」

「無論、押し通すまでのこと。いや、寧ろ……いっそのこと、後腐れなく死んでもらおうか?」

「ふん……どこまでも傲慢な事を……」


 強硬手段も上等と、ロンギヌスに手を添え直して構える。加えて、(非常に不本意だが)凶悪らしい睨みも忘れない。


「まぁ、いい。何れにしても……そろそろ潮時のようだ。はぁ……それにしても、まさか調和の大天使がここまでの跳ねっ返りだとは思ってもいなかった。こちらのデータベースでは、大天使の中でも見込みあり……となっていたのだがな」

「こちらのデータベース……?」

「……気にするな。それこそ、世迷言だ」


 ヴェグタムルは先程から、引っかかる物言いをする。ベースがヴァルプスだと明言された時点で、彼の参照先はおそらく、彼女が収集したデータなのだろうが……。


(今はそんな事を深追いしている場合じゃないか。……フン。ようやく、明け渡す気になったか)


 私が老人のディテールに思いを巡らせている間に、さっきまで抵抗していたのが嘘のように、アッサリと彼が腰を浮かせている。そうされて、やや警戒しつつも玉座の側に降りてみれば。黒金の座面には、確かにそれらしい穴が空いているが……。


(なんだろうな? 違和感があると言うか、キナ臭いと言うか……)


 チリチリと時折、内部で何かが爆ぜる音をさせながら、「接続先」の向こうには僅かな電流が走っているのが見受けられる。相手が機械仕掛けの霊樹であるならば、魔力が電流の形態を取っているのは、なんら不思議ではないけれど。だが……当のロンギヌスの反応が微弱と言うか、妙に消極的と言うか。先程まで道筋を示していたはずの光が「別の場所」を示しては、接続先は「ここじゃない」と言っている。


「……どうした? ロンギヌスを接続すれば、プログラムは完成するのだろう?」

「……いや、“ここは”やめておこう」

「何故だ? さっきはあんなにも、プログラムの完成に固執していたではないか?」

「そうだな。確かに、それは私の1つの目的でもあった。……ヴァルシラから託された正常化プログラムを打ち込み、ローレライを浄化させること。大天使の使命であり、ロンギヌスを預かっている者の責務でもある」

「なら、早くせんか。……私も、とうにあきら……」

「いや? あなたは諦めてなんか、いないのだろう? ……私をここで始末した後は、残りの4%を持ち出して、どこかに根付くつもりだったか?」

「なっ……?」


 ……図星、か。おそらく彼はこの窮状で、玉座側をトラップに仕立てることを思いついたのだ。明らかに攻撃の気配を示している電圧はきっと、ロンギヌスを差し込んだ瞬間に私に襲いかかるだろう。


「玉座に攻撃魔法を仕込んで開け渡せば、私がまんまと引っ掛かると思ったのだろう? ……残念だったな。確かに、私だけだったら引っ掛かっていたかも知れない。だが……やはり、神具は優秀だ。持ち主の危機感もしっかりとカバーしてくれるのだから。現に……ほら。ロンギヌスは接続先はあなただと、言っているぞ?」

「……!」


 ロンギヌスの矛先を玉座からすぐ隣に立っている老人へと向け直し、抵抗する間も与えずに……一思いに、心臓を一突き。その瞬間、ロンギヌスの先端から手元に至るまで、軽やかにキュリキュリと小気味よい稼働音が響き始めた。


「な、ば、馬鹿……な……! この私が……捉えられる、だと……? なぜ、神界の神具如きに……そこまでの干渉が許されるのだ……?」

「それこそ、傲慢の極みなのだろうけれど。ロンギヌスのはマナの女神……つまり、ローレライを始めとする霊樹全てのルーツが生み出した武器だ。元を辿れば、霊樹相手に効力を発揮するのは、何も不思議じゃない。それに……我ら天使が精霊と契約をし、精霊の力を引き出すことができるという特権は、そもそも霊樹が全て神界生まれだと言うことに起因する。……そんなことを、知らぬあなたでもあるまい?」

「……そう……そう、だったな。それに……あぁ。やはり、あいつなんかの魔力を受け取るべきではなかったのだ。……本当に、足元を……見るような真似をしおってから……に……。それがあったせいで、後をつけられて……」

「あいつの魔力……?」

「いや、特に深い……意味はない。それこそ、ただの言い訳だ。……気にするな。それに、潮時なのは……紛れもない現実。……仕方ない。……ここは大人しく、“諦めて”やろう……!」

「それこそ、どう言う意味……ッ⁉︎」


 残り4%。その僅かな命令さえ走らせれば、ローレライは真に開放される……とまでは、いかないにしても。ローレライを基軸とするグラディウスの暴走は止められるだろうし、不必要に魔力を掻き乱される事もなくなる。だが、あとほんの1歩と言う所で……ヴェグタムルは強制的に逃亡することを選んだらしい。自らザクリと首を落とすと、体側がブラリと脱力する。


「また会おう……は、言うべきではないか。ふむ……まぁ、いい。あらかた作業は済んだようだし、ここは撤退するに限るな」

「……機神族のしぶとさは、本当に驚嘆に値するな。まさか、首だけで稼働できるとは」

「いや? そうでもないぞ。……これはあくまで緊急離脱でしかない。我らとて、本来は魔力を担保する心臓部がなければ、稼働できないものだ」


 その割には、首だけで流暢に言葉を紡いでいるんだが。しかも、作業って何の事だ? こいつはまだ……何かを企んでいるのか?


「あぁ、そうそう……お前は見事に私のベースを言い当てはしたが、本当の正体には辿り着けていない。無論、これから死せる大天使と、答え合わせをするつもりもないがな」

「そんなもの、もう必要ない。お前が誰であろうと……ここで叩き潰すのみだ! ロンギヌスッ!」


 あいつをここで逃がせば、全てが水泡に帰す。ロンギヌスもそれが分かっていると見えて、すぐさまライトニングスターを展開するが……。


「嘘、だろう。まさか……逃げられてしまった……のか?」


 そんな。ここまできて、私は仕損じてしまったのか?

 これから死せる大天使……その言葉を再現しましょうとばかりに、気づけば老人もローレライも、綺麗さっぱり跡形もなくなくなっていて。辺りは最初に落ちた時と同じ、不安な虹彩の空間に逆戻りしていた。そして、何より……。


「……ロンギヌスの反応も無くなっている……か」


 それは要するに、同じ時空間にターゲットのヴェグタムルがいないことを示している。原理は不明だが、ヴェグタムルは何らかの転移魔法を使って、鮮やかにこの場を脱出したのだろう。……都合が悪い存在だけを、置き去りにして。


「とにかく、出口……出口を探さなければ……!」


 何か、使えるものはないか? どこかに、それらしい場所はないか?

 そうしてキョロキョロと周囲を見渡すと、少し離れた場所に僅かに趣の異なる光が輝いているのが見えた。どこまでも清らかで、どこか優しい温もりを示す、懐かしい乳白色。そのか弱い輝きに縋るように、光の元へ走ってみれば……光の中にはぼんやりと、僅かな亀裂が見える。もしかして、この感じは……。


「この魔力……間違いない。ファルシオンの恩寵の光だ。しかし……なぜ、こんな所にファルシオンの残滓があるんだ?」


 しかしながら、こんな所で首を傾げていても仕方がない。この空間では異質でありながらも、私にとってはどこまでも懐かしい輝きが示してくれた道標を使わない手はないだろう。何せ、ファルシオンの光が守っていたのは……あちらの世界との繋がりを示す、「魔力の風穴」なのだから。


「ハーヴェン、待ってて。すぐに帰るから……!」


 ヴェグタムルの行方を追うのは、今となっては絶望的だ。であれば、すぐさま帰還して策を練らなければ。

 そうして、善は急げとガサゴソ取り出したるは……ハーヴェンが作ってくれた、サンクチュアリピース。いつでもどこでも、行き先は旦那の特注品だ。それらしい穴さえあれば、きっとハーヴェンの元へ連れて行ってくれるに違いない。それでなくても、この鍵は竜界からデュプリケイトガイアの空間さえも繋げた実績がある。2人の間を隔てるのが、例え異空間であろうとも。その乖離さえも無視できてしまう、ちょっぴり愛が重ための逸品なのだ。


(そうだ、きっと大丈夫。これさえあれば、どんな時だって……ハーヴェンの所に帰れる。その時は……全身全霊で受け止めてくれよ? ハーヴェン)

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