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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−81 及第点ギリギリの大天使

 どこの誰かは、未だに存じませんが。神様だろうと、使者だろうと……誰が相手だろうと、邪魔はさせない。私は絶対に帰るんだ。ハーヴェンが待っている、穏やかな世界に。


「帰るべき世界……だと? 残念だが、この世界に迷い込んだからには、お前に帰り道は用意されておらぬよ。何せ……それこそ、この空間は私のプログラムの中なのだ。入口はあっても、出口はない」


 しかしながら、意外と絶望的な事を言ってくれるな、あの老人は。しかし……入口はあっても、出口はない、か。どこかで聞いたフレーズだが……。


(あぁ、そうだ。確か、ハミュエル様が囚われていた空間もそんな場所だったような……)


 だとすると……ここはデュプリケイトガイアで出来上がった「専用空間」に近しいのかもしれない。だが、デュプリケイトガイアは紛れもなく、ドラゴンプリエステスの固有魔法だ。竜女帝以外の者が固有魔法……ましてや、ローレライを再現できる程の精度で、そんな魔法を行使できるとも思えない。


(それに、今……プログラムの中、と言ったか?)


 そう言うこと、か。まだまだ、憶測の域を出ないが。おそらく私が迷い込んでしまったのは、ロンギヌスに託されていたプログラムが作り上げた仮想世界なのだろう。そうなると、彼の言う「出口はない」がまずまず信憑性を帯びてくる。

 ……ローレライの正常化プログラムは打ち込むことを前提としているのであって、結果の排出までもが含まれているかは未知数だ。インポートはできても、エクスポートはできない……きっと、彼はそう言いたいのだろう。だが、その程度で私が諦めると思ったら、それこそ甘い。


「出口がないと言うのなら、探せばいいのだし……この空間を壊してでも、出口を作ればいいだけのこと! 私は何が何でも、元の世界に帰る! 美味しいデザートを作ってくれる、旦那の所に……!」

「デザートに、だ、旦那……? お前、まさか……そんな事のために、ローレライを崩そうと言うのか⁉︎」

「そうだ……あぁ、そうだとも。さっきも言った通り、私にとってそれが最優先事項なものでな。生憎と……自分を犠牲にしてまで、世界を救おうだなんて高尚な考えは持ち合わせていない!」


 「ローレライを崩す」。その言い方からしても、やはり帰還のキーはローレライの崩落にあるらしい。であれば、すべきことはもう見えている。……自分自身のために、ローレライを壊す。ただ、それだけだ。

 きっとかつての私なら、世界平和のために自己犠牲をアッサリと選んでいたに違いない。しかし……非常に残念でありながら、素敵なことに、今の私は悪魔に「魅入られている」。胃袋をガッツリ掴まれている上に、孤独さえもシッカリと穴埋めされた後なのだ。出口がない程度の悪条件で、ハーヴェンとの日常を手放せるものか。


「……ロンギヌスはとんだ阿呆を、持ち主に選んだものだ。まぁ、いい。……そういう事なら、お前を一思いに潰してくれる!」


 失礼にも、私を阿呆呼ばわりしながら老人が再度の攻撃を仕掛けてくる。しかし不思議なもので、さっきはあんなにも攻撃を防ぐのに苦労していたと言うのに。ロンギヌスはいつにも増して私の手に馴染んでは、軽やかに熾烈な弾幕攻撃を打ち落としてみせる。


「ロンギヌスはどうやら、そんな阿呆に最大限の力を貸してくれるつもりのようだぞ?」


 わざとらしく老人に皮肉っぽく返し、ありったけの威嚇を込めて「キッ!」と 睨んでみる。上級悪魔さえもたじろがせた私の睨みでも、それなりに図太い老人は怯みもしないが。それでも……やや悔しそうにこちらを睨み返してくるのを見るに、それなりに効果はあるようだ。

 困ったことに、私の魔力はまだまだ回復できていない。だが、いつになく「やる気に溢れている」ロンギヌスは私の魔力を消費する事なく、ライトニングスターを放ち始めた。普通であれば、持ち主の魔力が足りなければ自動発動の魔法は発動しないのだが。今のロンギヌスは別枠の魔力を使って、力添えをしてくれている。そして、そんな別枠の魔力の出どころは……。


(これはきっと、ミカエルが託してくれた力なのだろう。そうともなれば、ますます負ける訳にはいかない……!)


 輝くロンギヌスの勢いに任せ、一気呵成とばかりに攻撃を仕掛ける。そもそもロンギヌスは「槍」であり、歴とした武器だ。魔法を打ち出すだけが能じゃないし、寧ろ直接攻撃こそが基本性能。それでなくても……「彼女」に頼りっぱなしでは、それこそ調和の大天使の名が廃る。


「今度はこちらから、行かせてもらう! サッサと“そこ”をどいてもらおうか!」

「そこ……だと?」

「あぁ、あなたが腰を落ち着けている、その玉座の事だよ。今までの傾向からして、ロンギヌスの接続先は根本に隠されているのだろうし」

「……!」


 彼が腰を浮かせなかったのは、余裕を見せつけているだけなのだろうとも、思っていたが。ローレライの玉座を空っぽにできない理由があったとする方が、今の状況では自然だろう。防御一徹にしても、攻撃一貫にしても。「動かない」というのは、何かと不利だ。攻撃のポイントを絞られてしまうし、避ければ済むかも知れない攻撃に対して、いちいち防御魔法を展開しなければならなくなる。しかも……先程から様子を見ていても、かのヴェグタムルたる老人は「攻撃しかしてきていない」。この事からしても、あの老人を「ローレライ所縁の誰か」とするには、少々無理がある気がする。……そうだな。ここは少し、探りを入れてみるか。


「それにしても、あなたは本当に“ローレライ”の縁者なのか?」

「……それは、どういう意味だ?」

「ローレライの本分は守護、本来は防御を得意とする霊樹だったはずなんだ。それなのに、なんだ? その情けない体たらくは。この程度の攻撃を防ぐこともできないなんて」


 私は万全の状態で戦いに臨めていない。グラディウスが浮き上がってからというもの、休憩らしい休憩も挟まず、連戦続きだったのだ。はっきり言って、今の私は非常に弱い。大天使を名乗れる水準も魔力も、維持できているとは到底、言い難い。

 しかし、そんな及第点ギリギリの大天使を相手に、あの老人はどうだろう? 全力を出せすらしない私の攻撃でさえも、マトモに受けては体制をグラリと崩している。もし、彼がローレライの縁者だとするならば。……守護を本分とするはずの霊樹にあって、この程度の攻撃を凌げないはずがない。


「お前……おそらく、ローレライの使者のフリをしているが、中身はグラディウスの使者なのではないか? ローレライや機神王・ブリュンヒルドに近しい存在だったら、幾千の盾で全ての攻撃を受け切っただろう……いや、違うな。もし、彼らだったのなら……私の邪魔などせず、自らが作り出したプログラムを完遂させることを優先させるはず。プログラムの完遂はブリュンヒルドの悲願でもあったからな」


 私の指摘についぞ、押し黙るヴェグタムル。この様子からするに……私の予想は大方、合っていそうだ。彼……いいや、違う。「彼女」こそがプログラムの残り4%を分離して持ち出した張本人であり、本当であれば機神族の王として君臨するはずだった、次世代の守護女神。そうか、そういう事……だったんだな。


「老人を装った程度で、正体を隠したつもりか? 生憎と……精霊のデータをきちんと把握し、より良い関係性を築けるように促すのが、調和の天使の仕事なものでな。その長でもある私が、“重要人物”の素行を把握していないとでも思ったか? ……調和の大天使を舐めるなよ、ヴァルプス!」

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