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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−80 腹ペコ天使様、別世界でもご健在

「絶対に、帰る……旦那の所に……!」

「お……?」


 嫁さんの防衛をマモン様夫妻とネッドにお願いし。俺はひたすら、彼女の手を握りしめていた。きっと、ネッドに傷を癒してもらった影響もあるのだろう、さっきまではちょっと冷たかった彼女の手にきちんと熱が戻り始めている。しかも……そんなルシエルから、これまた捨て置けない譫言が飛び出したじゃないの。


(帰る……か。だとすれば、ルシエルは……)


 俺達がいる世界線と、別の場所でもがいているんだ。だけど、次に続く言葉に心配と同時に安心してしまう。……ルシエルさんはやっぱり、どこに行ってもルシエルさんだった。


「デザート……デザートが待っている……ハーヴェンの所に、帰る……!」

「ハハ……そうか、そうか。ルシエルは俺の所に帰ってきてくれるつもりなんだな?」


 それにつけても、頑張る原動力がデザートだなんて。それはそれで、シェフとしては喜ばしいことではあるんだが。なんか、こう……もうちょい天使様っぽい、格好いい理由はないんだろうか。腹ペコ天使様、別世界でもご健在……で片付けていいもんだろうか、コレ。


(それにしても、こうも袋叩きだと……却って、残酷だよなぁ……)


 諸事情(主に魔力不足)もあり、俺はこうして一線を退いているが。戦場を見れば見るほど一方的な局面に、グランディアが天井を壊してしまったのは、失策だったのではなかろうかと思う。


(きっと、それも見越してセフィロトは天井にも根を張り巡らせていたのだろうけど……)


 今までこちら側が彼女を直接叩けなかったのは、グラディウスの牙城による密閉性があったからだ。もちろん複雑に絡んだ思惑やら、人物相関やらで、一思いに侵攻できない理由もあったのだけど。有り体に言えば、グラディウス攻略がここまで長引いたのは、彼女が吐き出す魔力を上手くやり過ごすことができなかったから……に尽きる。決して、こちら側の戦力不足が原因じゃない。

 もちろん、グランディア自身が吐き出している魔力は「嫌な感じ」がムンムンしたまんまだし、迂闊に近づくのが危険なのは変わっていない。しかし……やっぱりお空の下だと、空気のクリアさは格段に違うと言うもので。垣根も弊害も崩れた壊城に、もはや防衛機能は残っていない。いくら、グランディアがグラディウスの力を集結し、パワーアップしたとしても。……女神様2名+各界大物揃いのメンバーが相手では、戦力差も歴然だ。


「ここは一気に畳みかけるぞ! シルヴィアもよいな!」

「はい、もちろんです! クシヒメ様も、もう……それでいいとおっしゃっています」

「……そうか。ならば、アレを最後の犠牲と定めようぞ。これ以上の諍いは妾とて、懲り懲りだ」


 ゴラニアの主神・マナと、新米女神・シルヴィア。女神としても「玄人」なマナさんの魔法は洗練されていて、狂いも迷いもない。そして……意外や、意外。つい数日前までは人間だったはずのシルヴィアも、負けていない。華麗に魔法を使いこなしては、きっちりとマナさんに呼吸を合わせて連携魔法を放ってみせる。だけど、彼女の魔法にはもちろん、かの妖精さんのアシストがバッチリ付いているようで……。


「私に力を貸してください……クシヒメ様!」


 シルヴィアが懇願するように指輪に合図を送ると、彼女の手先にはこれまた見事な白銀の球体が浮かび上がる。1つ……また、1つ。煌々と輝くそれは、明らかに光属性の攻撃魔法みたいだが……。


「行きますッ! 穢れた大地を浄化せん、全ての罪を滅ぼさん! 我は偉大なる審判者なり……全てを光に還せ、アポカリプス!」


 ……えっ? シルヴィア……今、アポカリプスって言った?


(うぉぉぉぉ⁉︎)


 あっ、うん。あれは紛れもなく、アポカリプスだ。まだまだ使い慣れているとは言えないみたいだけど、ちゃんと発動できただけでも凄いと思うし……何より、威力は結構あるっぽい。せっかく修復されかけていたグランディアさんの胴体が、遠慮なしに削られていく。


「ヴッ……グゥ……! お、おのれ……!」

「おぉ、シルヴィアもやりよるな。どれ……では、妾も遠慮なく行かせてもらうとするか! 穢れた大地を浄化せん、全ての罪を滅ぼさん……我は偉大なる審判者なり! 全てを光に還せッ! アポカリプス……トリプルキャスト!」


 すみません、女神様達。いくらなんでも、それはやり過ぎです。グランディアさん、体勢すら立て直せていないんだが。


「グギャァァァァ⁉︎ ちょ、ちょっと……マテ!」

「ほぅ……まだ、息があるか。……見た目に違わず、しぶといな」

「オマエタチには、テゴコロというモノはないのか⁉︎」

「ないな。手加減なんぞ、ハナから頭にない。あるのは、全力で貴様を叩き潰すことだけだ」


 不気味な断末魔の後に続くのは、グランディアのちょっとした命乞い。文字通り虫の息でゼェゼェと首を大きく揺らしているが、当然ながらマナさんの答えは否。容赦なく塞がりかけてすらいない生傷に、更に大鎌での斬撃を浴びせていくが……。


(……ハーヴェン、ちょっといいか?)

(あっ、マモン、お帰り。俺に何の用かな……は愚問だよな。……大丈夫。俺も怖いよ、あれ)

(あぁ……そっか。やっぱ、ハーヴェンも怖いよな)

(うん。キッチリ、怖いぞ)

(しかし……あの控えめなシルヴィアが、なぁ。まぁ、その辺はもう考えなくていいか……)


 小休憩……という訳ではないのだろうけど。本体が苛烈な攻撃にさらされたとあっては、グランディアさんの「魔の手」はルシエルにちょっかいを出す余裕もない。お役目完了……とまではいかないにしても、やや顔を引きつらせたマモンが、スゴスゴとやってくる。いずれにしてもこの調子なら、嫁さんの身柄だけは安全圏に入れたと考えていいだろうか。


(だけど……肝心のルシエルは、目覚める様子がないんだよな……)


 腹が減ったら、帰ってこい……なんて、気軽に言える場所を彷徨っているのなら、いいのだけど。「向こう側」でトラブルに巻き込まれているのか、先程からルシエルはゼェゼェと息を荒げている。


(頑張れ……頑張れ、ルシエル。ちゃんと帰って来れたら……好きなもの、なんでも作ってあげちゃうから。だから……)


 お願いだ、無事に帰ってきてくれ。もしグランディアを倒せて、世界が平和になったとしても。ルシエルがいなかったら、意味がないんだよ。

 何故かいつも腹ペコで、呆れる程に欲張りで。だけど、誰よりも俺の料理を美味しそうに食べてくれて、とっても可愛い顔で笑ってくれて。そんなルシエルがいなくなったら……俺は誰に「美味しい」って言ってもらえばいいんだ?

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