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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−77 生き残るための魔力

 まさか、アーニャが新しい女神様⁉︎ ……なんて、混乱するのもソコソコに。アーニャの他にも「護衛」と思しき上級天使……ネッドが付いているのを見ても、アーニャが女神というのは早とちりっぽい。


(だよなぁ……アーニャが女神様なワケ、ないよなぁ……)


 でも……いかにもなタイミングだったし。ちょっと有り得るかもだなんて、思ってしまったぞ。

 そうして、俺を混乱させたアーニャとネッドに守られて静々とやって来たのは、金髪碧眼の「ある意味で」オーソドックスな色味の女神様。だけど、その面影には有り余る既視感がある訳で……。


「遅くなってすみません、マナの女神様。それで……まさか、あの醜い化け物が私の半魂だったりしますか?」

「あぁ、生憎とな。しかし、その口調からするに……お前、シルヴィアの方か? そうか。……無事に女神の魂が馴染んだようだな?」

「はい、お陰様で……この通りです」


 ……そういう事、らしい。目の前の女神様は、ピキちゃんの魂を搭載していたはずのシルヴィアその人の様子。ベースもきっちりシルヴィアの性格を踏襲しているのか……ピキちゃん特有の食ってかかるような態度もなければ、ちょっぴり横柄だった言葉も出てこない。


「と……今は、そんな事を申している場合では有りませんね。“彼女”を鎮めなければ。ネッドさんにアーニャさんも力を貸していただけますか?」

「もちろん、構わないわよ。ここらでいっちょ、化け物退治と洒落込みましょ?」

「当然ですわ。私もそのつもりで、お供しているのですから。ですが、それよりも先に……」


 頼もしい返事をすると同時に、こちらの状況も正確に判断してくれたのだろう。ネッドが俺の背後で蹲っているルシエルの元へ駆け寄ると、すぐさま回復魔法をかけてくれる。だけど、当然ながら……ルシエルは目覚めない。


「ハーヴェン様。ルシエル様のこの状況は、まさか……」

「俺も詳しくは分からないんだが……どうやらルシエルはロンギヌスに呼ばれて、別の場所にトリップしているっぽいんだ。シンクロもきちんと繋がっているから、死んでいるわけはないんだけど……ちょっと心配な状況でな」

「そう、でしたか……」

「うん。しかも、ついでに白状しておくと。……今、ルシエルの魔力はギリギリでさ。そんでもって、俺は魔力をルシエルの分まで温存しておかないといけなくて。……実は派手に暴れられないんだよ」


 さっきから俺が自前の冷気や武器で凌いでいたのは、何も魔法を使うのが面倒だからだった訳じゃない。ここで俺も思いっきり魔法を使ったら、ルシエルが生き残るための魔力を確保できなくなるかもしれないからだ。

 精霊も、天使も、悪魔も。魔力が枯渇し、補給できない状態が続くと、人生終了……つまり、死んでしまうことになる。今の俺はルシエルと魔力の器を合算している関係上、彼女の魔力状況を細かく把握できるのと同時に、彼女がとっくに限界を迎えているのも理解していた。……ルシエルの律儀な性格は相変わらずらしく、勝手にボーダーを越えて俺の魔力を使うなんてことはしなかったけれど。俺としては勝手に魔力を持っていくくらい構わないし、寧ろ水臭いとさえ思ってしまう。全く……デザートはちょっぴり意地汚く欲張るクセに。こういう部分こそを、もっと欲張って欲しいんだけどな。


「そ? だったら、私とシルヴィアとで代わりに大暴れするわ。ネッドはルシエル達の護衛を頼むわよ」

「えぇ、承知しました。とは言え……」

「ま……あの様子だと、私達だけで頑張らなくても良さそうかしら?」


 アーニャがクイと、顎を示す先を見やれば。天井が崩れ、お目見えした夜空に浮かぶのは、ゾロリと勢揃いした精霊や真祖の皆様達。グルリと一周、グランディアを囲むように円陣を作っては……彼女を睨みつけている。


(こいつは、凄いな。これ以上の揃い踏みは後にも先にも……ないかも)


 天井さえなければ、グラディウスの「悪い魔力」が籠ることもない……という事なのだろう。先程、グランディアは「居城を傷つけたくない」なんて手加減の言い訳をしていたみたいだが。ここまで押し気味だったら、意外とあっさり決着も着きそう……


(って、おぉ? なんだか、嫌な感じだぞ……?)


 攻撃を受けて、大人しくなったとばかり思っていたが。グランディアはどうやら、自身の修復に神経を注いでいたらしい。火球を被弾してこさえていた火傷さえも、みるみるうちに塞いで見せると、動体着陸していた傷口からはこれまたウニョウニョと腕を象った根っこを生やしている。

 しかし……ゔっ。どうして、こうもあの女神様は気色悪さを次から次へとバージョンアップしてくるんだろう。黄土色の体液を垂れ流したままの体に、蠢く白い根っこをチロチロと動かされたら……気色悪いを通り越して、吐き気が込み上げてくる。しかも、ムクムクとその場で巨大化し始めたじゃないの。


「ニクい……ニクいニクい、ニクいニクいニクい……ニクい‼︎ スベテ……このヨのナニもかもが、ニクい!」

「とうとう、壊れてしまった……か。おそらく、この肥大化はグラディウスとやらの魔力を全て集結した結果だろう。だが……よく分からないのだが、あっちのクシヒメには別の記憶も混じっているようでな。……先程から、記憶が混濁しているようなのだ」

「そうなのですね……。いずれにしても、とても悲しい事です」

「……悲しい、か。ふむ、そうかも知れんの。……誰の記憶であれ、あやつはこの世界を丸ごと憎んでおる。そして、この世界で我らと一緒に生きていこう等と、甘い考えも持ち合わせておらぬらしい」


 マナさんの諦めにも似た呟きをきちんと証明しましょうとばかりに、グランディアは咆哮を上げ続けては、変化も止まらない。どこからかワラワラと集まってくるラディウス天使達を吸収しては、グングンとさらに大きくなっていく。しかも……。


「あっ、やめろ……やめろって! ルシエルはお前の餌じゃないぞ!」


 ロンギヌスを握りしめたまま、動けないルシエルを目掛けて白い根っこがウニョンウニョンと腕を伸ばしてくる。あまりの気味の悪さに、逃げ出してしまいたくなるが……ここは耐えろ、俺。耐えて、ルシエルを守り切らなければ。


「ハーヴェン様、大丈夫ですか⁉︎」

「大丈夫……と言いたいところだけど、あんまり大丈夫じゃないかも。……手数が多すぎて、伐採が間に合わないんだ……!」

「でしたらば……紅蓮の炎を留め、吹き荒さん! 天を染め、焼き尽くせ……フレアバースト、トリプルキャスト!


 ネッドがすぐさま、炎属性の攻撃魔法を放つものの。上級魔法のトリプルキャストを受けても、根っこの進軍は止まらない。焼き尽くされた先陣さえも蹂躙して、更にウゾウゾとこちらへ迫ってくる。


「魔法で燃やし尽くす……も出来なさそうですね、これ……」

「そうなんだよ。……矢鱈と丈夫なんだよ、この根っこ。専用の武器でしか、有効打を与えられなくて……」


 文字通り、こちらに伸びてくる手数が多すぎて、俺1人での防衛はかなり厳しい。しかも……得物は使い慣れない枝切り鋏ときたもんで。コキュートスクリーヴァの刃が立たない時点で、アリエルの神具を頼るしかないんだが……ズバッと根っこを切断できる訳でもなし、地道にチョキチョキしなければいけないし。冗談抜きで使い勝手は最悪だぞ、コレ……。


「……たぁ〜っく、本当にらしくねーな? 何をチンタラしてるんだか……」

「えっ?」


 孤軍奮闘を余儀なくされている俺の頭上から、今度は聴き慣れた声が降ってくる。その声に反応して振り向く間もなく、俺のすぐ側を強烈な風刃が抜けたかと思えば……片っ端から、ものの見事にスパリと白の進軍が伐採される。あっ……強欲の真祖様はこっちに来てくれたんだ。助かった……かも?

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