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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−75 用途もバッチリ

 気づけば、天井は完全に崩落し、黒光りしていた鋼鉄の向こうから三日月が顔を出している。そう言えば……どのくらいの時間が経過したのか、気にも留めていなかったが。グラディウスが浮上してから3日程経過している事も思い出すものの、その時間が果たして短いのか、長いのかは私には分からない。だが……分からないなりにも、忙しかったことだけはしっかりと覚えている。


(……ようやく……ようやく、だ。今度こそ、ロンギヌスのプログラムを完遂させる……!)


 2号とマナの女神とでグランディアを抑え込んでくれたおかげで、私は無事にプログラムを投下できそうな接続ポートに辿り着いていた。ハーヴェンがバリバリと「田舎女神」が脱ぎ捨てた蛹の殻を破り捨てては、台座を見つけ出すが……その上で、彼が「あっ」と小さく声を上げた。


「どうした、ハーヴェン」

「これ、リンドヘイムの聖書だな……」

「えっ?」


 ハーヴェンが掘り出した台座の側から、1冊の古ぼけた本らしき物を拾い上げる。彼によれば、その本は聖書……要するに、リンドヘイム聖教教徒が必ず持っている教本なのだそうだが。問題はその本が聖書であるかどうかより、持ち主が誰だったか……が問題なのだろう。


「……ハハ。こんな所までお揃いだなんて、本当に気が合うな。プランシーの記憶のカケラも聖書だったなんて。しかも……“お勤め”の記録もしっかり残しているのが、いかにもアイツらしい」

「お勤め?」

「あぁ。……昔と変わっていなければ、リンドヘイムにはそれなりに守らないといけない戒律があってさ。その中に、毎日の“信仰の証”を記録するなんて、項目があったりしたんだけど……っと、今はそんなことを話している場合じゃないか」


 寂しそうにスンスンと鼻を鳴らしながらも……役目を忘れるなと促され、再び台座に向き直る。だが、ハーヴェンがある程度掘削してくれたとは言え、どこをどう見てもロンギヌスを差し込めそうな部分は見当たらない。そうして、彼が切り崩した殻の下に、更に堆く絡み付いた根っこの塊を見つけ出す。……どうやら、「本命」はこの中のようだ。


「ハーヴェン、崩せそう?」

「いや……なんだろうな。ここだけ違う素材なのか、コキュートスクリーヴァの刃も立たないみたいだ」


 しかし、流石に元々はグランディアの前身・クシヒメが立て篭もっていたポイントという事もあって、台座そのものは頑丈な素材で出来上がっているらしい。ハーヴェン自慢の魔法武器も、悉く刃を弾かれている。見るからにか弱そうな枝のクセに……往生際が悪い上に、随分としぶといな。


(あれ? もしかして……)


 そんなヒョロヒョロの枝相手に、ちょっぴり苛立ちついでに、預かり物の存在も思い出す。対象が「枝」ともなれば、もしかしたらアリエルに託された神具が使えるんじゃ……?


「お? ルシエル、何か気づいたのか?」

「う、うん……。ハーヴェン、よければ……この鋏を使ってみてくれる?」

「これ……アリエルさんの鋏じゃないか。あっ、でも……確かに、いけそうな気がするな。用途もバッチリな気がするし」


 ふっふっふ……と、いつものちょっぴり意地悪っぽい笑いを見せながら。ハーヴェンがチョキチョキと鋏を鳴らしては、構えてみせる。そして、ザクっと「台座」へと刃を滑り込ませれば……さっきまで、あんなにも無駄な抵抗をしていた根っこが、気持ちいい程にシャクシャクと崩れていく。


「ふぅ……こんなもんかな? どうだ、ルシエル。行けそう?」

「うん、ありがとう。これなら、行けそうだ。……それで、ハーヴェン。もう1つ、お願いしたいのだけど……」

「もちろん、分かっているさ。……この鋏はしばらく、俺が預かっておく。プログラムが走り切るまで、俺はこのまま側にいるよ」


 力強い旦那の返事をもらって、私もしっかりと頷く。そうして、ハーヴェンに背後を預けると同時に、台座の奥に隠されていた接続先にいよいよ、向き直る。あぁ、やっとだ。やっと……グラディウスを止められるかも知れない。

 しかし、思い切り突き刺したロンギヌスの鋒から、明らかに抵抗するような違和感が伝わってくる。どうやら、グラディウスはまだまだ諦めていないのだろう……この世界の新しい覇者となる事を。だが、彼女の抵抗も受け流しては更にグイとロンギヌスを差し込み、最後に時計回りに回転させてはカチッと音が鳴るのを確かめる。


(なっ……? 手が離れない……?)


 しかし、ロンギヌスを正常に接続できたのも、束の間。特段、融和しているわけではないというのに、まるで磁石が引き合うように私の手はロンギヌスから離れようとしない。いや……逆か。私が手を引っ込めようとすると、ロンギヌスも一緒に抜けてしまいそうになる、が正しい。


(……これって、つまり……)


 プログラムの完遂まで、きっちり見守ってやらないといけないってことか……? こんな激戦の中で? こんな非常事態の中で?


「ルシエル、どした?」

「今のロンギヌスは随分と、寂しがり屋みたいで。……頑なに、私の手から離れようとしないんだ。全部終わるまで一緒に待っていろ、ということらしい」

「そりゃまた……悪趣味な。可愛げがある以前に、洒落にならないぞ? しかも……」

「……!」


 鋭い視線をすぐさま感じ、ハーヴェンが言葉を濁した理由をまざまざと思い知る。どうやら……2号が囮だった事を見抜かれてしまったらしい。こちらを睨んでいるグランディアの鋭い鉤爪の先には、ズタズタに切り裂かれた2号の小さな体がぶら下がっていた。


「2号……!」

「ほんに……コザカしいマネを……! テンシはどこまでも、ヒキョウでキタナい……!」

「ま……まだ、です。まだ、私は……!」


 虫の息だと言うのに、2号は抵抗を諦めていない様子。その場を離れることができず、ただただ狼狽するだけの私を尻目に……自身のとある機能を起動させたらしい。いかにも魔法道具らしく「カチャン」と音を響かせたと思ったら、突如彼女の身が眩く輝き始める。


「これは……!」

「わ、わ! とにかく、みんな伏せろ!」


 キュイィィンと機械仕掛けの効果音を響かせる2号の様子に、何かを悟ったらしい。ハーヴェンが咄嗟に「伏せ」を指示してくる。そんな彼の判断に反射的に従って、私もロンギヌスにやや抱きつく格好で体を丸めるものの……次の瞬間に轟くのは、派手な爆発音と強烈な閃光。……2号は最後の最後に、目眩し以上にグランディア本体にもダメージを与える事を選択したようだ。


「あぐっ⁉︎」


 だが、彼女の捨て身の攻撃は少々、威力が強すぎたらしい。爆風の煽りを受けて、完全に吹き飛んでしまった天井の破片が容赦無く飛んでくる。ロンギヌスから離れられず、動けない手前……頭を守る余裕もなく、急襲の衝撃をやり過ごす事もできない。


(ゔっ……く、クラクラ……する……)


 運悪く、頭に大きな瓦礫がぶつかって……一瞬、焼けるような痛みを感じたかと思えば、すぐさまジンジンと意識が麻痺していくのがぼんやりと感じられる。そして……私は情けなくも、その場で意識を失いかけていた。

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