表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
1073/1100

22−74 ダミーの翼

「コドモ……コロした……! テンシ、ニクい……!」

「なっ……?」


 グランディアの相手はマナの女神だったはず。だが、その女神様は私こそを睨み、怨嗟の慟哭をあびせてくる。


「一体……何を言っているんだ⁉︎ 私は何も……」


 していない、と言ってみたところで、彼女の「勘違い」は収束する様子もない。「言いがかり」としか思えない譫言を叫びながら、こちらに向かって突進してくる様は……狂気を感じる以上に、既視感にも近い違和感を余すことなく伝えてくる。この感じは、まさか……。


「クッソ! ちゃっかり、こっちに気づくなよ……って、ウワッ⁉︎」

「ハーヴェン、大丈夫か⁉︎」


 彼女の言動について、考える暇も与えてもらえないのか、半ばマナを無視する格好でこちらへの攻撃準備に入るグランディア。おそらく、「天使が憎い」と言っている時点で……目印は私の翼なのだろう。だが、その私を運んでいるハーヴェンも彼女の攻撃対象に含まれるらしく、不意打ちの閃光弾がハーヴェン目掛けて飛んでくる。


「なんの、これしき。それよりも……今のセリフは、明らかにプランシーのモノだと思うんだが……」

「やっぱり、そうだよな……。だけど……」

「うん。あまりに、噛み合わないよな。だって……プランシーはもう、本当の意味で死んじまっているはずなんだから」


 ハーヴェンが器用に、コキュートスクリーヴァでグランディアの攻撃を振り払いつつ、私と同じ疑念事項を口にする。彼も指摘する通り、彼女が口走っている怨嗟は間違いなく、かつてのコンラッドのものだろう。だが、彼自身も知っていたはずなのだ。子供達を殺したのが自分自身であり、その経験が原因で「善意」と「悪意」が分かれていた挙句に……2つの魂が元通りになったことで、完璧に記憶と力とを取り戻した事も。

 その一方で、私が契約していた「善意」側のコンラッドは魔力の変遷が追えなくなった段階で、魂も消失していたと考えられる。彼が私との契約を一方的に解除したと判断しようにも……相手が存命している限りは、精霊帳の記録は残るのだ。

 「カイムグラント」は限りなく固有種であり、コンラッドは悪魔としてのイレギュラー種。その「貴重な固有種」の情報が精霊帳から抹消された時点で、精霊としての絶滅を示唆してもいた。そして……そのことはつまり、私が契約していた側のコンラッドは悪魔として「完全な死」を迎えたと見ていい。


(だからこそ、不可解なんだ。どうして、消失したはずのコンラッドの怨嗟を、グランディアが叫んでいるのか……)


 しかしながら、今は彼女の内部事情を考察している暇はやっぱりない。彼女が大量に吐き出す弾幕に、ハーヴェンが対応してくれているものの……このままでは、接続口までたどり着けるか怪しい以前に、押し負けてしまう。


「させるかッ! さっきから、貴様の相手は妾だと言っておろうに!」

「ジャマするな……シンコウにアタイしない、メガミフゼイが!」

「貴様の信仰なんぞ、こちらとて願い下げだ!」


 ハーヴェンへの追撃を既のところで、マナの女神が阻む。手にした白銀の鎌を振り回し、グランディアの苛烈な弾幕さえも弾き落としているのは、見事と言うより他にないが……だが、状況を見ている限り、我らの主神にも限界はある様子。それでなくても、マナの女神は回復魔法とレイラインとを展開し続けているままなのだ。これ以上の防衛戦は明らかに不利だろう。


(さて……どうしたものか……)


 そもそも……プログラム1つ打ち込むのに、どうしてこんなに苦労をしないといけないんだか……。易々と正常化されたくないのは分かるが、ここまでくるとグラディウスの諦めが悪いと言うよりは、私の運が悪いのだと思わざるを得ない。


「……ルシエル様は翼を引っ込めることはできますか?」


 そんな自身の運の悪さを呪い始めた私に、2号が意外なことを言い出した。モフモフ越しにヒソヒソと声を潜めているのを聞く限り、何かの作戦を思いついたようだが……。


「えっ? もちろん、できるけれど……」

「でしたら、私が囮になります。……貴方様をモデルとして作られていますので、幸いにも私にもダミーの翼が8枚あります。ですので……」

「だ、だけど……!」


 ちょっと、待て。それは要するに、2号は捨て身の覚悟をしてしまった……という事か? 確かに、2号が提示した作戦は明らかなる名案に思えるが。だけど……私には彼女の覚悟を名案だと、褒め称えられる鈍感さはなかった。


「そんな事をしたら、2号が……!」

「いいのですよ、ルシエル様。だって、最初から説明されていたではないですか。……私は使い捨てなのだ、と」

「……!」


 それに……と、2号が優しく微笑みながら言う事には。女神召喚を果たし、ロンギヌスの接続先を割り出せた時点で、彼女は託された使命を立派に遂行できた……と言う事になるらしい。そして最後の散り際も兼ねて、しっかりとお役目を果たさせて欲しいと、尚も作り物とは思えない柔らかな表情で破顔する。


「ちっぽけな魔法道具でしかない私でも、できることがあります。ですから……是非に消耗品の魔法道具らしく、私に有終の美を飾らせてください」


 どうして、こんな時まで冷静なんだろうな、2号は。これのどこに、羽を媒介にした私らしさがあるというのだろう? ……私にはこんなにも潔く、捨て身の覚悟をする格好良さもない。それでも……あぁ。これはしっかりと見送った方がいいのだろう。ここで彼女の案を阻んだところで、共倒れする可能性の方が高いし……それは彼女が望むべく事でもない。


「グス……ッ! わ、分かったよ、2号。だったら……お仕事、お願いできる?」

「えぇ、もちろん! では……行って参ります!」


 彼女がパサリと翼を広げたと同時に、卑怯だと自嘲しつつも……私は涙と一緒に、翼を引っ込める。


「あっ、そうだ。それと……」


 そうして、いよいよハーヴェンから飛び立った2号だったが、何かを言いそびれていたらしい。ちょっぴりはにかんだ様子でこちらに向き直ると……ハーヴェンにもきちんと挨拶をし始めた。


「ふふ……私、ハーヴェン様のモフモフを堪能できて、とっても幸せでした。お2人とご一緒できて、楽しかったですし……思い残す事もありません」

「そっか。そう言ってもらえて、俺も満足だよ。……短い間だったけど、こっちも楽しかった。本当は最後まで一緒に……と言いたいところだけど。ここでお仕事を邪魔するのは、止めといた方がいいんだろうな」


 ハーヴェンが私達の会話に口を挟んでこなかったのは、おそらく2号の意思を汲んでのことだろう。きっと悪魔らしく、2号のお仕事を邪魔する……なんて、意地悪をしたかったのだろうけれど。……今は、彼女の翼に作戦成功の鍵が乗っている以上、余計な口を挟むつもりもないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ