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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−71 グランディア誑し込み作戦(即席)

 1歩、また1歩と……痛みを堪えながら、芋虫女神様へと縋るように歩み寄る。だけど、これはどこまでも演技。静々といかにもな様子で、彼女の塒まで辿り着けば。これまた、いかにもな風情で首を垂れる。そんな一連の動作の合間に「いかにも辛いです」と痛みに顔を歪めて見せるのも、忘れない。そうしてみれば……何かを刺激されるらしい芋虫女神様が、わざとらしく品を作っては甘い言葉をかけてくる。


「ほほ……見れば見る程、良き面構えぞ。そう身構えるでない。もっと近うに寄らんか」

「では、僭越ながら……」


 なーんて、こっちも負けじとお上品ぶっては、じっくりと距離を詰める。まだ……まだだ。この程度の接近では、奪還目標の「お包み」まで届かない。


「しかし……その姿は少し、悪魔らし過ぎる。ここは向こう側の姿に戻ってもらおうか」


 ゔっ……ここにきて、女神様が予想外の事を言い出したぞ。この姿でさえ微妙にリーチが足りないのに……ここで理性側に戻ったら、コキュートスクリーヴァの攻撃範囲からますます外れてしまう。

 本性側の俺の姿がいくら大きいといっても、こちらを威嚇するように上がった彼女の首は、遥か頭上。4メートルの身長+相棒1メートルのリーチがあっても、なかなかに厳しい距離感だ。だから、ここはギリギリまで近寄って……翼で一気に飛び上がるしかないと思っていたのだが。


(どうする? ここで拒否ったら、怪しまれるかも知れない。……かと言って……)


 いつもの姿に戻ったら、計画自体が失敗してしまう。あっちの姿でも羽を出せるとは言え、瞬発力や運動能力が格段に下がる。しかも、今の俺は手負いの状態だ。普段通りに動けないとなると、この姿のままで近づく口実を稼がなければならないが……。


「ハーヴェン、やっぱり私の所に戻って来い!」

「えっ?」

「そっちの女神はハーヴェンのモフモフの良さを分からないような、能無しみたいだからな」

「なっ……この無礼者! 私を能無しなどと……」

「おや、違うのか? あぁ、そうか……そんなに高い所に頭があるから、ハーヴェンの毛並みがよく見えないんだろう。まぁ、そんな事にも気づけないなんて、何れにしても能無しには違いないけれど」


 ……ルシエルさん、ナイス。きっと、俺があれこれと距離感に悩んでいるのを察したのだろう。女神様を思いっ切り挑発すると同時に、「今の姿」のお得感に気づけないなんて……と、わざとらしくやれやれと首を振っている。しかし……ここまでくると、ルシエルの方が役者な気がするぞ。アドリブにもしっかり応える適応力と演技力は、かの怪盗紳士様顔負けかも。


「あぁ、そうそう。ついでに言うと……今、私の元に帰ってくると言ってくれれば、回復魔法を施してやれるぞ? ようやく、魔力が回復したので……近う寄れだなんて言わず、こちらから出向いて、すぐに傷を塞いでやる」


 しかし、ルシエルの魔力はまだまだ、回復していない気がするが……あぁ、これも演技のうちなんだな。ここはとにかく、彼女の話に乗ってしまおう。折角の名演技(大チャンス)はしっかりと活かすに限る。


「あっ、本当? いや〜……実は、傷の痛みが酷くて……。これ以上、動くのが辛いなぁ……なんて、思っていたんだよ。やっぱ、ルシエルの方に帰ろうかな……」

「ちょっと待て! そんなにコロコロと心変わりなど……! この、裏切り者が!」

「いや〜……だって俺、悪魔だし? 心変わりも、鞍替えも、裏切りも……普通だけど?」


 ここぞとばかりに「悪魔らしさ」を演出し、ついでにふふふーんと親玉の真似(無責任風味)もやってみる。でも……一応、心の中で弁明しておくと。俺は常々、嫁さんには忠実なんだよ、これでも。最初から、ルシエルは裏切ってないんだよなぁ。


「……悪魔は欲望に忠実だからな。きちんと要求を満たしてやらないと、簡単に離れていくぞ?」

「し、仕方ない……そういう事なら、これ以上は良い。私が直々に癒してやる故、ありがたく思え!」


 ハハ……それにしても、ルシエルさん、ナイス過ぎる。知れっと悪魔の豆知識を吐きつつも、女神様の接近さえも引き出すなんて。ここまでお膳立てしてもらったら、何が何でもグランディア誑し込み作戦(即席)を成功させないと。


(しかし、この魔力は……もしかして?)


 おちゃらけているように見えて、実は緊張感いっぱいの俺の背後に刺さるのは、ピリッとした刺激を伴う光属性の威圧感。明らかにグランディアのそれとは異なる、この感覚は……なるほど。おそらくだけど、マナさんもそれなりに勘が良い方ではあるらしい。いつもだったら、真っ先に口を挟んでくるだろうに……珍しいまでにダンマリを決め込んでは、牙を研いでいる。


(……あと少し、もう少し……!)


 直々に癒してやる、その言葉に嘘はないらしい。一方の芋虫女神様はゆっくりと塒を解くと、ズリズリと沢山の手を這わせながらこっちにやってくる。しかし……見慣れ始めたとは言え、やっぱり不気味だな。これはどう見ても、ルシエルさんの方が圧勝だろう。嗜好的な意味でも、美意識的な意味でも。


(3……2……1……!)


 まずはよく見せてくれ……とばかりに、俺の顔に張り付く大量の白い手。紛れもないホラーな光景に、神経があらぬ方向へトリップしそうになるのも堪えに、堪え。ズズイと彼女の顔が正面にやってきたところで、相棒……コキュートスクリーヴァのグリップを握りしめる。そして……!


「グルルル……グルァァッ‼︎」

「何っ⁉︎」


勢いよく尻尾を白い根の床に突き刺し、尻尾に体ごと反動を預けて、渾身の一撃を放つ。そうして、「お包み」を支えていた手だけを勢いよく切り落としたが……。


「貴様ッ……! 許さぬ、許さぬぞッ⁉︎」

「グッ……!」


 お包みをなんとか抱え込んだ同時に、グランディアの胴体から放たれた棘が体を貫く。しかも、どこぞの拷問メニューよろしく、全身の急所滅多刺し。だけど……うん、お包みは無事だ。中身の状態は保証できないけど、お包み自体は無傷だ。片や、俺自身はかなり危ない状況だが……とにかく、最低限のお役目は果たせたか……?


「妾の前で、易々と死なせぬぞ! 我は望む、堅牢なる地母神の庇護を賜わらんことを! ディバインウォール、ダブルキャスト! 汝の痛み、苦しみ、全てを食み開放せん! 魂に再び生を宿せ! グランヒーリングに……深き命脈の滾りを呼べ、失いしものを今一度与えん! リフィルリカバー!」


 朦朧として、意識辛々の俺の耳にマナさんの勇猛な魔法発動の声が響く。この温かい感じ、回復魔法かな……うん? いや、違うかも……? これはただの回復魔法じゃない……?


「定められし運命に抗え、定められし絶命を否定せよ! 深淵なる生命に再び、輝きの息吹を目覚めさせん! オーバーキャスト・リビルドライフ!」


(4重の白い魔法陣……⁉︎ こ、これ……もしかして……!)


 ……ゲルニカと最初に出会った時に発動していた魔法な気がする。あの時、あいつは鱗からのストックで魔法を発動していたみたいだから、中身までは知る術さえなかったんだけど。そうか、あいつの魔法……さりげなくオーバーキャストだったんだ。


(ハハ……ここから先は女神様にお任せしようかな……)


 防御魔法込みの拡張式異種多段構築の魔法を発動してきた時点で、彼女はガッチリ守るつもりなんだろう……俺ではなく、セフィロトを。ちゃっかり魔法のおこぼれに預かりつつ、白い魔法陣に体を預ければ。脈々と力が湧いてくる。


(お包みの中身が気になるが……今はちょっと、休ませてもらおう……)


 足元に広がる、丁寧に構築された光魔法。その純白の魔法には、マナさんの強烈な意志が見え隠れしているような気がして。この様子だと……俺はしばらく、「参戦」じゃなくて「観戦」になりそうだ。

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