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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−64 女神・マナを召喚します

 ここはグラディウスの最奥・神様の玉座。罵詈雑言も混じり始めた、「兄妹喧嘩」(ハーヴェン的にはそうなるらしい)がヒートアップしていたのにこれ幸いと、任務を全うしようと考えるが……。


(さて、どうしたものか)


 揺れが断続的に発生していたため……足場を確保するのにも、苦労していたが。そう言えば、先程からその揺れも収まっているような。そうして、目的地である「セフィロトの臍」なる場所を目指そうとも……その上にアリエルが鎮座しているため、「コッソリ任務遂行」は不可能に近い。

 一方で、神様がとうとう痺れを切らしたのか……いつの間にか、不気味なだけだった部屋が戦場と化している。床と言う床から飛び出すのは、鋭利で眩い白枝の槍。しかしながら、槍のターゲットに私と2号は含まれていない。かの攻撃対象は……どこまでも、ラディエルだけらしい。


(神様とやらは、戦闘の何たるかを知らないみたいだな……)


 ラディエルを執拗なまでに追い回し、彼女を狙い続けることが、いかにこの場で悪手であるかを神様は理解できていない。ターゲットが決まっているともなれば、こちら側としては防衛も容易い上に、他の部分にも気を回す余裕ができる。しかも、ラディエルの守り手はハーヴェン……相当上位の悪魔だ。相変わらず防御魔法は使えないようだが、彼には使い慣れた魔法武器・コキュートスクリーヴァと、類稀な戦闘スキルが揃っている。実際に、ハーヴェンはまだまだ余裕な様子で、傷1つ負っていない。


(しかし、ここまで「無視」されると……却って、不穏だな)


 もちろん、状況としては好都合なのだが。攻撃の手を緩めるつもりは毛頭ないのか、段々と激しさが増しているのも、色んな意味で気がかりだ。


(とは言え、こちらも手立てがない……。このままでは、ロンギヌスを打ち込む機会さえ、狙えないかも……)


 アリエルは動けないとは言え、目や耳は使えるようだし、先程から口を挟む事を許されていないだけで……いざアクションを起こした時には、私達の存在を知らせるくらいのことはできるだろう。だが、彼女がそれすらもしようとしないのは……おそらく、アリエルも気が気ではないのだ。目の前で繰り広げられている、神様・セフィロトとラディエルの兄妹喧嘩の行方が。


「……ルシエル様。ここで1つ、提案があるのですが」

「提案? 2号、何かいい案でもあるの?」

「はい。実はベルゼブブ様が私にとある機能を搭載してくれていまして。……今の私は、ポータルのアンカーとしての機能も発揮できるのです」

「アンカーとして……機能する? だけど……」


 それができたからと言って、どうするつもりなのだろう? まさか、作り主のベルゼブブをここに呼び出すつもりなのだろうか?


「先程、準備が整ったと合図がありました。つきましては、私自身をポータルとして……今から、女神・マナを召喚します」

「はい……?」


 しかして、2号の口から飛び出したのは予想斜め上どころか、微塵も予想だにしない相手の名前だった。女神・マナって。それ、我々の主神のこと……だよな?


(しかし、この状況であの化石女神を呼ばれても、役に立つとは思えないんだが……)


 呼び出した側から、おやつを強請られたりしないだろうか? 今はおやつ、持っていないんだが……。

 そんな風に、おやつを集ってくる普段の幼い女神を思い出しては、ややゲンナリしている私をよそに……搭載されていたアンカー機能を発揮し始める2号。……本当に大丈夫なんだろうか?


「……ほぅ、これはまた……妙な事になっておるな?」


 そうして難なく2号が呼び出したのは、これまた私の予想から思いっきり斜め上を行く姿の女神だった。……この姿はおそらく、十六夜丸の話にもあった龍神さえもが「得てしがな」と渇望した女神そのもの。様子からしても、マナは不完全な幼女状態ではなく、完成された成人状態での降臨を選んだのだろう。


(いよいよ、マナの女神も本気を出した……という事か? しかし、この空気感は……まさか⁉︎)


 異常なまでに膨張した、光属性の魔力。清らかでありながら、どこか排他的でひりつく威圧感は……間違いない。マナツリーの宮殿を満たしている、神界の魔力そのものだ。

 かつてのマナは太古の女神・クシヒメはおろか、ヨルムンガルドさえも圧倒する実力を備えた、最強の女神でもある。そして、霊樹そのものの生みの親でもあるため……完成された女神であれば、グラディウスの鎮静化にも一定の介入が許されそうだ。


「女神様。呼び出して早々、誠に申し訳ございませんが……ロンギヌスの持つプログラムの打ち込みが難航しております。そこで……」

「よいよい、分かっておる。ある程度の状況は、妾とて把握しておるつもりじゃ。それに……妾も、そろそろツケを払う時が来たのであろう。ここは妾こそが責任を取らねばならぬ。道筋を示すくらいはしてやろうぞ」


 2号の断片的な説明に対しても、非常に頼もしいことをおっしゃる女神様。しかして、私は彼女の言葉の意味を想像しては、なるほどと嘆息せずにはいられない。そして……感じられる魔力の空気からしても、彼女は紛れもなく女神の本体。そんなご本尊でしかない女神を前に、これは相当の事態だろうと覚悟する。


(責任……か。普段の様子からは想像もできないが……マナも後悔していたんだな。まさか、本体が降臨する程だなんて)


 要するに、マナの女神はアリエルの処遇を知って「本体で」出張ってきたのだろう。作り出した側から自らの手で切り離した挙句、アリエルが天使として舞い戻っても……マナの女神は彼女に目をかける事はなかった。その無関心さが故に、アリエルをここまで追い詰めてしまったとあらば、流石の唯一神も心を痛めずにはいられなかったのかも知れない。


「へぇ、まさか……もう1度会う事になるなんてね。今更、何しに来たのさ。この、薄情女神!」


 だが、私が勝手に納得しようとしている側で……予想外のことを言い出したのは、形すら溶けているグラディウスの神様だった。もう1度会う事になった……だって? それは一体、どういう意味だ?


「この感じ……やはり、そうか。本当に生きておったのだな……。ふふ……そうか、そうか。……生きておったのなら、それでよい」

「はっ? 何を白々しい! お前は僕を捨てたんじゃないか! 僕が醜かったから、僕が出来損ないだったから……なんて、勝手な理由で!」

「……何を申しておる? 妾はお前を捨てたりはしておらぬぞ? 確かに見失い、ついぞ諦めてしもうたが。……お前がいなくなって、どれだけ悲しかったことか。妾は後にも先にも、あんなにも悲しみに暮れた事はないぞ? そのせいで……涙を枯らし、霊樹に先祖返りしてしもうたのだし」


 「始まりの神話」では確かに……マナの女神は我が子を失った悲しみが故に、涙を枯らし、マナツリーへと姿を変えたとされている。そして……いつぞやに垣間見た化石女神の後悔に、根拠はないなりにも、マナの女神の悲嘆は本物だったように私は思う。


「そんなの、嘘に決まっている! だって、僕はアリエルに……」


 拾われて、と言葉を絞り出したところで……神様がようよう、少しばかりそれらしい姿を顕す。白い根が幾重にも重なった不気味な肉塊から飛び出したのは、純白の鱗に覆われた尻尾を持つ少年の半身。しかして、その肌は萌葱色掛かっており、僅かに発光している。その姿に、私は……彼が紛れもなく、マナとヨルムンガルドの実子であることを悟っていた。

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