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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−52 威厳も迫力も木っ端微塵

 どうしよう。この状況、マジでどうしよう。

 視界の隅っこで、悪巧みのニヤニヤ(生贄投下の余韻)が止まらない兄貴とポンコツ悪魔さんを尻目に……俺は何故か、怯えて泣き出しちまった天使ちゃん達を誠心誠意、慰める羽目に陥っている。そして、そんな俺を呆れた眼差しで女神様が見つめているけれど。……多分、情けない悪魔認定されてるんだろうな、この様子だと。


「そんなに怖がらなくても、大丈夫だから! 別にお前さん達が痛い目に遭う訳じゃないし……」

「で、でもぉ!」

「私、あの魔法をどうにかするために、呼ばれたんらよね?」

「だったら、私達も蹴られちゃうの……?」

「いや、そんな事はない! 断じて、そんな事はさせないから!」


 というか……すみません。どうして、俺だけがちびっ子相手にワタワタしているんだ? そっちのママン(ルシファーの事です)もちっとは手伝ってくれよ。ベルゼブブの躾は後でいいからさぁ……。


「あっ、そうだ! お嬢さん方、飴ちゃん食うか?」

「あ、飴……」

「キャンディ、もらえるの?」

「お、おぅ! えっと、確か……」


 仕方ない。こういう時は、モノで釣るに限る。天使ちゃん秘蔵のパネルを取り出し、いわゆるロリポップ(棒付きキャンディね)とやらを人数分呼び出せば。……向こうさんのテクノロジーなのに、飴ちゃんを見た瞬間に泣き止むと同時に、嬉しそうにキャッキャし始めるお子様達だけど。……う〜んと、この子達も大天使階級……なんだよな? パネル、持ってないのか?


「ほれほれ、いい子だから。こいつを食べて、ちょいと落ち着きな」

「うん!」

「悪魔のおにーちゃん、ありがとう!」

「あ、あぁ……」


 悪魔のお兄ちゃん……ね。ちびっ子達が泣き止んだのに安心しつつも、怯える対象から完璧に外れたっぽい事に、こっそりと落胆する。……俺、本当に何をやっているんだろう。しかも……。


「……妾もキャンディ、欲しいぞ。お兄ちゃん」

「うん……」


 女神様もちゃっかり、俺をお兄ちゃん呼ばわりするなし。飴ちゃんはちゃんと差し上げますから、お兄ちゃんは本当にやめて。


「僕もほしーなー、お兄ちゃん〜!」

「ハイハイ、どうぞ……って! どうしてテメーにもやらなきゃならねーんだよ、このクソ悪魔! 大体、お前がスチャラカやってるから、こっちは苦労してるんだろうが!」


 そもそも、俺はお前のお兄ちゃんじゃねーし! いい加減にしとけよ、このスットコドッコイが。


「えぇ〜? 僕も飴ちゃん、欲しいなぁ。そんじゃなきゃ、ベルちゃん、やる気出ないぃ〜」

「お前はルシファーに頼めよ。それ以前に、お説教は終わったのか?」

「一応ね〜。ここを乗り切ったら、ご褒美くれるって。だから、マモンも前祝いにご褒美、頂戴ッ★」


 前祝いって、何だ? それに、さっきの険悪雰囲気から、何がどうなったらそんな話になるんだ? 第一、ご褒美って……?


(……ここは深く考える必要はないか……。夫婦の事情に首を突っ込む必要もないだろーし……)


 もう、いいや。どうせキャンディは出し放題なんだし、サクッと前祝いとやらを進呈しちまおう。

 そうして、仕方なしにこちらに伸びる手2つにも、ロリポップをそっと乗せるけど……あれ? どうして手のひらが2つも並んでいるんだ? ベルゼブブの奴、欲張って両手を出した……じゃないぞ、これ。


「ルシファーまで、どうしたんだよ……。お前だったら、キャンディも出し放題だろうに……」

「いや、勢いで……な。皆がもらっているのを見たら、羨ましくもなるだろう?」

「そういうものか……?」

「そういうものだな」


 なんだろーなー……この、緊迫感が台無しな感じ。どうしてこいつらは揃いも揃って、こうも能天気でいられるんだか……。


「それで? そろそろ、女神様も本領を発揮してくれるで、オーケイ?」

「ふ、ふぐ……もちろん、大丈夫じゃ。ここから先は……まきゃせておけ」

「う、うん……」


 キャンディをペロペロされながら言われてもな。お子ちゃまな見た目にキャンディが絶妙にマッチしているせいか、威厳も迫力も木っ端微塵なんだが。それはそうと……あっ、もうそろそろ食べ終わりそう?


「それに、どうしても妾がやらねばならぬ理由もあるのでな。……責任くらいはきちんと果たさねばならぬ」

「責任?」

「いや、なに。こちらの話だ。という事で……ウリエル、ガブリエル、ラファエル! いよいよ、お前達の出番だ。この先は手筈通りに頼むぞ」

「は〜い!」

「任せておいて!」


 女神様のおっしゃる「責任」が何なのかは、俺には分からないけれども。少なくとも、女神様は自身を媒介にバルドルの鎖を強化するつもりでいるらしい。ちびっ子天使ちゃん達に合図を送ったと同時に、自らは萌葱色に輝く3本の矢に姿を変じて見せる。


(さ……妾を一本ずつ携え、打ち込んで参れ。妾はマナツリーの受信機として……あの鎖に繁茂して見せようぞ。それに……ふむ。それにつけても、浮気男をここぞとばかりに蹂躙できるのは、何かと気分がいい)

「はいっ、女神様!」

「私達、頑張るの!」

「浮気男に、お仕置きしてくるんだから!」


 おぉ、おぉ、これまた頼もしい限りかな。ウリエルちゃん達のそれぞれの手には、見事な白銀の弓が携えられており、女神様から矢を受け取った途端、使命感もバッチリとばかりに飛び去っていく。


(しかし、今……女神様にガブリエルちゃんが、知れっと恐ろしい事を言っていたような……)


 そうか……神聖なる女神様(そういう事にしておこう)でも、憎たらしい男を踏み躙るのは気分がいいんだな。しかも、お子ちゃま天使のお口からも「お仕置き」のキーワードが出たのを聞いていても、多分……天使様達の辞書に「浮気」の文字はないだろうし、ハメを外した男に対する「容赦」という習性もない模様。

 うん、うん。俺も本格的に気を付けよう。浮気はダメ。絶対。


(それに……今更、リッテル以外とどうこうって気にもならないしなぁ……)


 こんな状況で考えることじゃないけれど。いざ離れ離れになってみると、どうも嫁さんが恋しい。……リッテル、どうしているかな。きちんと、向こうで上手くやっているだろうか。

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