22−50 汚いラブストーリーの登場人物
「そんで? 具体的にはどうする……って、そうか。それはベルゼブブ次第か?」
「うむ。そうなるな。だが……」
「う〜ん……ベルゼブブがあの調子だからなぁ。ま……この際、ベルゼブブは抜きで話を進めてもいいか」
グラディウスを落とすために、女神様が自ら舞い降りたのはいいんだけど。鍵を握るベルゼブブはお嫁さんのお説教真っ只中。それでも、ある程度はルシファーと話を練って来たんだろう。マナの女神(霊樹の化身らしい)はベルゼブブを見限り、兄貴とダンタリオンに向き直る。
「して……お主があの魔法の術者か?」
「そうなりますね」
「ふむ。報告にも上がっておったが……アークデヴィルと言うのは、相当に魔法に長けた悪魔のようだの? ……あのルートエレメントアップをここまでアレンジできるとは」
「ふふ。それ程でもありません……いや。それ程でもありますか、これは。何せ、私は魔界で最も優秀な魔術師ですから!」
「そ、そうか……」
「そんな優秀な私をきちんと認めるとなると……神界の女神様も、なかなかに目利きのようですね? でしたら、この魔法の構成変更に至った着眼点をご説明しても?」
「いや、遠慮しておこう。今はそれよりも、だな……」
「ご遠慮なさらずに! ふふ……この魔法は、この私がッ! 竜言語の固有魔法を解読しッ! そして、明晰な頭脳をもって、作り替えた最高けっさ……フゴッ⁉︎」
自分語り(主に自慢)がタラタラと続く前に、ここらで脳天に一発入れますよ。そうして親玉のお役目とばかりに「スパーン!」と、とっても気持ちいい音を響かせて、相変わらず高すぎるダンタリオンの頭を沈めますが。……こんな所で女神様相手にまでドヤ顔を披露してどうすんだよ、お前は。
「って、何をするのですか、マモン! ここからがいい所なのに!」
「うっせぇよ、このポンコツ悪魔! 緊急事態だってーのに、無駄な自慢話してんじゃねーし! とにかく、今はあの腐れ霊樹を落っことす事を考えろ!」
「うぐ……! でしたらば、マモンが責任を取って話を聞いてくださいね! 後でで構いませんから」
「ハイハイ、俺でよければいくらでもお付き合いしますよ……ったく。とにかく、女神様のお力を借りる事を考えろ。それに……アレを沈めなければ、自慢話もできなくなるぞ」
魔法の事となると、優先順位もバグるダンタリオンだけど。しかしながら、グラディウスを落とさない限りは自慢話も封印されるのが、相当に堪える様子。ブー垂れて渋々と言った風情だが、魔法語り(主成分は自分語り)ができないともなれば、協力するのが賢明だと判断したっぽい。……ようやく、真面目に女神様と話を着けることにしたようだ。
(しかし、さぁ……)
俺に指摘される前に、その程度の事には気づいておけよ……。グラディウスを落とさなきゃ、お先真っ暗だって事くらい。
「して? 妾の魔力を組み込むにはどうすれば良い? 一応申しておくが、今の妾はマナツリーと同じ魔力構成を持たされておる。故に、霊樹への同化であれば割合スムーズにできるとは思うが……はて。あの鎖との同化がスムーズにできるかは怪しいの」
「あ〜……やっぱ、そうなるか。だよなぁ……」
そりゃそうだろうな。あの鎖の原料はバルドル(魔法道具が機神族化したもの)であって、霊樹由来の素材は含まれていなかったはず。それでなくても、目的は霊樹との同化じゃなくて、霊樹を縛り上げて落とす事にある。同化は最初から想定もしていないし、目標でもない。
「そうなると、頼るべきは……うん。兄貴、ちょっといいか? 実は……」
「皆まで言わなくても、僕のするべき事くらい分かりますよ。そちらの女神の魔力と、バルドルとを連結させればいいのでしょう?」
「おぉ! 流石は兄貴。話の通りも早くて助かるな〜」
「それ程でもありませんよ」
ダンタリオンよりは遥かに控え目だが、こちらはこちらでちょっと得意げな顔をするアケーディア。それでも、サクッと作戦を披露してくれるのだから、有難い。とは言え、兄貴にはバルドルを存命させるという目的もあるし。きっと、女神様の申し出は彼にとっても都合がいいんだろう。だけど……問題は他にもあって、だな。
「それはそうと……兄貴、気づいているか? 女神様の魔力なんだが……」
「……マモンも気づきましたか。流石は僕の弟です。やはり、このまますんなり……という訳にはいかないようですので、ひと工夫が必要でしょうね」
「だよなぁ。なにせ、バルドルの大元……ヨルムアイみたいだし」
女神様がご用意してくれた魔力はそれはそれはもう、悪魔の身からすれば眩いばかりにヒリヒリする聖属性に溢れていて。とてもじゃないが、出自がヨルムンガルド産の魔石でもあるバルドルとの相性がいいとは言えない。いや……このままくっつけたら、バルドルの魔力が一気に浄化されてお陀仏まっしぐらになりそうだ。
「そうか……妾の力は、却って遠慮させてしまうのだな……」
「いいえ? お申し出自体は非常にありがたいことなのですよ、女神様。向こうにも神様クラスの使者がいる以上、こちら側にも神様がいた方が、何かと抵抗もできるでしょう。……一応はヨフィのおかげで、バルドルに再生機能を持たせてやれましたが。このままでは振り解かれるばかりで、定着できません。ですので、女神様の魔力と一緒にあなた様の神格を乗せられれば、この上なく好都合なのですが……」
ただ、そのまんまだとバルドルが負けちまいそうなんだよな。クシヒメ様の例からしても、女神様の魔力というのは、特別だってことはよく分かっているつもりだ。相手が精霊だったり、人間だったりした場合……ちょっと介入しただけで、器側の肉体には相当の負荷がかかるものらしい。しかもマナの女神様は、クシヒメさんさえをも降す程の実力者だ。……魔力の量も、性質の強さも、クシヒメさんの比じゃないだろう。
(ん? 待てよ……? だとすると、あいつを緩衝材にぶち込めばいいのか……?)
……忘れるところだったけど。考えたらもう1人、いるじゃん。例の汚いラブストーリーの登場人物が。
「……悪い、兄貴。ちょっと留守を頼めるか」
「それは構いませんが……こんな時に、どこに行こうというのですか、君は」
「と〜っても不本意だけど。……ここらでいっちょ、クソ親父を有効活用しようかな、っと。ほれ、あいつは腐っても自称・魔界の冥王様だし? ド腐れていても、元・龍神様だし? しかも、ヨルムアイを生み出した張本人だ。……女神様ともそれなりに仲良くしていたことを考えても、ツナギに使えるんでないの?」
「あぁ、なるほど。それは一理ありますね。……ククッ。僕としても、その案には賛成ですよ。是非に、薄情なヨルムンガルドを緩衝材に有効活用しましょう」
「ふむ、妾も賛成ぞ。あやつには1度、キツい灸を据えねばならんと思っておったし」
よっし、決まりだな。本人の都合と意思を丸ごと無視して、ヨルムンガルドを緩衝材として血祭りに上げることに決めれば……いつになく、俺自身もワクワクしてきた。
(大体さー、女神様を2人も泣かせておいて、本人はのうのうと生きているだなんて、許せないだろ)
うん。ここは創世神話にまつわるお仕置きを、キッチリ決めさせていただきましょうかね。