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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−46 彼女の事情

 更新された図面を頼りに、グラディウス内部を進む。そして……このまま進むと、2号との合流ポイントに繋がるようだ。まるでパズルを組み合わせるかのように、手元のパネルが示す図面は事あるごとにピタリピタリと、私と2号との経路だけを断片的に繋いでいくが……。この追加情報はどこから捻出されているのだろう。


(前情報によれば……確か、2号はアリエルが生み出した「重要人物」と行動を共にしている。このまま、再会していいものか)


 道筋のフィックス速度に疑問を抱きつつも、敵陣のメンバーも同行しているとなると、戦闘になる事も考えておかねばならないか。かと言って、私の思考パターンを踏襲している2号が同行を選んだとなると……意外と話し合いで和解できる相手なのかもしれない。


(それ以前に、どんな顔をして会えと言うのだろう。……考えたら、私と2号は顔だけはそっくりなんだよな……)


 体型は私の方がちょっとグラマラスだもん。

 ……と、私が再会に向けてアレコレと悩んでいると言うのに。片や、余裕綽々らしいハーヴェンの爽やかスマイルが、ヤケに眩しい。余裕なのはいい事だが、楽観的過ぎるのは考えものだ。


「……どうして、こんな状況でも笑っていられるんだか……」

「お? こういう時こそ、笑ってた方がいいだろ。意識してお口を緩めるだけでも、リラックスできると思うぞ〜」

「いや、別にリラックスする必要は……って、ハーヴェン! お、おい!」

「ほれほれ、ニコッと笑ってくれよ〜。ルシエルは真顔よりも笑顔の方が断然、可愛いぞ〜」

「ひゃ、ひゃからって……」


 無理やり、ほっぺを持ち上げなくてもいいだろうに。な、なんだか……力が抜ける……!


「もぅ! 何をするんだ! おかげで緊張感が抜けただろうが!」

「だから、それでいいんだって。緊張でカチコチになってたら、ここぞという時に失敗するぞ〜?」


 いつもながらにカラカラと楽しそうに笑っては、ハーヴェンは相変わらずの能天気っぷりを発揮している。そんな彼にペースを持っていかれたまま、仕方なしにむくれたフリをして歩みを進めるが。すると……角を曲がった所で、バッタリと既視感しかない顔と鉢合わせする。


「意外と早い再会でしたね」

「そう、だな……それで、えぇと……」

「あぁ、私のことは2号と呼んでくださっていいですよ、ルシエル様」

「う、うん……」


 体こそコンパクトとは言え。顔は紛れもなく、誰よりも見慣れた自分の面影。しかし……やっぱり、胸の断崖絶壁加減がとっても気になる。


(って、今はそんなことを気にしている場合じゃなくて……)


 第一、ハーヴェンだってお胸のサイズは関係ないって言ってくれたじゃないか。この際だから、体型のことは忘れるとして。2号の影から、彼女より更に小さめなメタリックボディの幼児がこちらを伺っているのにも、ようよう気づく。もしかして、この子が……。


「ところで、2号ちゃん。もしかして、そっちのが……」

「はい、ハーヴェン様。……彼女はラディエルと申しまして。報告にも上がっていた通り、グラディウスの女神が作り出した生命体……いいえ。ご息女のようです」

「ご息女……?」


 わざわざ「生命体」を「ご息女」と言い直した2号の思惑の程は、定かではないが。しかしながら、ラディエルと言うらしい幼児の雰囲気からしても……どうも、2号は彼女と接触を図っただけではなく、しっかりと輪を築くことにも成功している様子。ラディエルが私達に向ける眼差しには、明らかに警戒の色が滲み出ているが……一方で、2号を見つめる眼差しには、どこか縋るような光を帯びている気がする。


「あの、後輩ちゃん……」

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ、ラディエル。話は私から通して差し上げます」

「う、うん……」


 後輩ちゃん? 彼女達の関係性がこれまた、今ひとつよく分からないが……魔法道具のそれとは到底思えない、柔和な微笑をラディエルに向けて……まずは進むのが先だと、彼女の歩みを促す。


「……あまり時間がありません。事情と状況は道すがらご説明しますので、ラディエルの後に続いてください」

「分かった。しかし……なるほど。この新しい情報はラディエルから提供があったものだったんだな」

「その通りです。ローレライが切り離された時点で、グラディウスの神は霊樹内の区画整理をしたようで……元の図面から、内部構造が大幅に変更されていました。そんな中……ラディエルにはグラディウスの壁から情報を逐次取得する機能があるそうです。故に……今、私達が進んでいるのは、最新の正しい道筋となります。……きっと、最短距離で目的地まで到達できることでしょう」


 真剣な様子で壁に意識を集中しているらしいラディエル。この様子であれば、彼女にはこちらに敵意はないと見受けられるが……。


(しかし、油断は禁物……だろうか。彼女が示す道筋に、トラップがないとも限らない)


 そもそも、どうして2号はここまでの信頼を出会ったばかりの相手に寄せることができるのだろう。オリジナル側からすれば、2号の判断にはやや疑念を感じるが……。


「……因みに、ラディエルと行動をともにしているのは、利害が一致したからです。あまり大きな声では言えませんが、ラディエルもまた……グラディウスの神様から解放されたいそうでして」

「えっ? それ……どういう事?」


 2号があまりに意外なことを言い出すので、その意味を問えば。さして勿体ぶる事もなく、2号が更にポツリポツリと「彼女の事情」を説明してくれる。それによれば……どうも、ラディエルは自分以上に母親・アリエルを解放したい、ということのようだ。


(思った以上に、厄介な状況みたいだな……)


 「聞いた限りでは」というタダシは付くものの。どう考えても、アリエルの状況はあまりに悪過ぎる。情報源がラディエルのみと、やや偏っているのも否めないが……マモンの見立てやアケーディアの報告を加味しても、ラディエルの証言にはそこまでの曲解はないように思える。

 そして、ラディエル自体はグラディウスの魔力影響を色濃く踏襲していると見えて、マナの女神が生み出した「始まりの天使」よりも(主観を大いに含むが)、生命体として歪に見えてならない。……この事からしても、アリエルの女神としての性能は、グラディウス向きに軌道修正されていると考えていいだろう。


「やっぱり、アリエルさん……マズい状態みたいだな」

「あぁ。……女神というのは、“そういう存在”だからな。マナの女神の変遷を考えても、霊樹の礎にさせられる可能性は極めて高いと思う」

「そ、そうなの……?」


 私達の会話に不安を覚えたのだろう。真剣な表情で壁に手を当て、道標を模索してくれていたラディエルが……今にも泣きそうな顔でこちらを見つめている。金属質の肌に似つかわしくない、驚くほどに瑞々しい苦悶の表情。涙は流せないにしても、彼女がアリエルを心底心配しているのは、イヤでも伝わってくる。


(……彼女のためにも、これはどうにかしなければならない……か)


 さて。どうしたものかな。まさか、こんなところで新たなミッションが発生するなんて、想定外もいいところだ。

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