22−44 それぞれに欲張りな悪魔達
煽てられて、ようやく木に爪を立てる山猫と。
木と見れば、枝を刈りつつ背負い込むロバと。
木であろうとも、試しに食ってやると牙を立てる狼と。
そんな三者三様のアプローチを……木の上から見下ろす虎は、つまらなさそうに欠伸を噛みしめている。
(あぁ……結局、平行線なんだよなぁ……)
と、まぁ。主軸のバルドルを介して、グラディウスに爪やら牙やらを立てようってトコロまでは一致団結しているみたいだが。結局は誰が「美味しいトコロ」を持っていくかで、喧嘩を始めるのだから……それぞれに欲張りな悪魔達の世話は焼ける。
(って、俺も悪魔だったっけ)
いかんいかん。ついつい、忘れちまうんだよな。俺も悪魔だってこと。
「なぁ、3人とも。そろそろ、方向性くらいは決めない? みみっちくマウントを取り合っている場合じゃねーだろうが」
「そういう訳にはいきませんよ、マモン! 魔法の発案者は私ですよ⁉︎ ここはしっかりと、お二方にも概念を理解していただき、私の魔法がいかに素晴らしいかを……」
「そんな講釈は結構ですよ、ダンタリオン。僕もある程度、君の魔法は理解していますし、きちんとバルドルの助けになる魔法道具を考案してきたのです。是非に、ヨフィが遺した聖なる枝を使って正常化をするべきです! マモンはどう思いますか?」
「いいや! そんな魔法道具なんか、作る暇もないでしょーに。ここはサクッと僕の愛しいハニー2号を使った方が早いって! グリちゃんもそう思うでしょ〜ん?」
ちょっと待て。どうしてそこで、一斉に俺に意見を求めてくるんだよ。3人にギラギラと見つめられると、照れちゃうどころか、空恐ろしいんですけど。
(う〜んと……ここはとにかく、3人を平等に扱って、メンツを保ってやればいいのか……?)
自分でも思うんだが……結構な難題だと思うぞ、それ。どうして、俺がそこまでしてやらにゃならんのか、ちっとも分からないけど。そうでもしないと、話もまとまらないし、先に進みもしないし……。ったく、仕方ねーなぁ……もぅ。
「えぇと〜……ここはとりあえず、ダンタリオンの魔法は土台としてしっかり活かしつつ、バルちゃんとルシファー2号の両方をアシストする形でいいんでない? 実際に鎖は2本ある訳だし、できればどっちももう1回グラディウスに巻きついてほしい訳だし」
「ですけど、それ……実際にどうするのですか?」
「まず……ベルゼブブ、さっきルシファー2号に仕込みをしてあるって、言ってたよな?」
「うん、言った」
「その様子だと……どーせ、アンカーは向こうにちゃっかり残してんだろ?」
「なんだ。気づいてたの? もぅ〜……相変わらず、グリちゃんは抜け目がないんだから。そうも色々と見抜かれると、つまらないし、とっても可愛くな〜い!」
「……可愛くなくて、結構」
抜け目がないのは、ベルゼブブの方だと思う。奴がグラディウスがローレライの名残を切り離すことを前提にしてルシファー2号を作っていたのは、少し考えればすぐに知れたこと。脱出前から既に「名残は切り離される」って分かっていたのだし、実際にグラディウスが鎖ごと足(根っこ?)を落としても、こいつは慌てもしなかった。……不穏なくらいに落ち着き払った様子と、普段の悪巧みの速度を考えれば……どうせ、お得意分野の魔法道具に細工をしていた事くらい、アタリが付けられるってもんで。
「とりあえず、だ。まずはルシファー2号のアンカー目掛けて、ダンタリオンの魔法をくっつけるのがいいと思う。だけど、見た限り……ルシファー2号が根っこと一緒に落ちてきている形跡はないもんだから、そこまでの中継はどうしても必要だろう? そこで、兄貴がバルドルを強化した鎖で、アンカー目掛けて鎖を再接続。そんで……ダンタリオンの魔法を完璧にグラディウス相手にくっ付ければ、いいんでない?」
うん、我ながらにナイスアイディア。きっちりそれぞれの有効性に理解を示しながら、得意分野と役割も棲み分けしつつ……グラディウスをきっちり絡め取る算段も示してやれば。流石にうるさい悪魔共も大人しく……
「えぇ〜! それ、結局アケーディアを頼ることになるじゃない! そこはハニー2号だけでも良くない⁉︎」
……ならなかった。ちっとも、大人しくなりゃしねー。
「僕も同感ですね。別に、悪趣味な天使人形と連結なんぞしなくても、バルドルは役目を果たしてくれるでしょうし。こちらはこちらで事を進めます」
「ふん! それは、こっちだって同じだからね!」
「いや、2人とも……だから、落ち着けって」
お前らの仲が悪いのは、分かってる。でも、今回限りでいいから、互いに協力してくれよ。
「大体さー! 僕のハニーのどこが悪趣味なのさ! それに……僕だって、まだハニーと連結できていないんだよ⁉︎ それなのに……誰かに先を越されるなんて! 悔しいにも程があるじゃないの!」
「ベルゼブブ、それはこんな所で言うべきことじゃ……」
待て待て、知れっと怪しいことを言うなよ。タダでさえギリギリを攻めていたルシファー2号が、更によろしくない雰囲気になるだろ。
「……ベルゼブブ様の魔法道具、どうやらかなり如何わしいもののようですね……。そんなの、こちらも願い下げです。穢れた魔法道具と崇高なプルエレメントアウトを連結させるなんて、ご免被ですよ」
「それは誤解だ、ダンタリオン。如何わしいのはベルゼブブだけであって、ルシファー2号はそこまで……」
しかし、言っていてなんだけど……まぁ、ルシファー2号も十分如何わしい部類に入る気がする。クソ親父のお人形プレイよりは、ちょっとはマシってレベル。……ウブなポンコツ悪魔さんの情操教育的にも、十分によろしくない。
「あっ! みんなして、酷い! 今の僕はそこまで悪趣味じゃないでしょーに!」
「いや、だから……今はそんなことを言っている場合じゃなくて……」
「やはり、ここはまず、私の魔法がいかに素晴らしいかを分かっていただく……」
「いいや! サクッとハニー2号にお願いして、繋げればいいだけだし!」
「それは承伏しかねますね。あなたの魔法道具、今回はお呼びではありませんから」
なーんで、こうなるかなぁ……。
やっぱりそれぞれに「活躍の機会(苦笑)」を譲りたくない悪魔達は、ものの見事に鼎立してはガミガミ加減を再燃しやがった。しかも、側から聞いていれば3人の主張が妙に噛み合ってないもんだから、余計にイライラさせられる。
「……ちょっと黙れ、このスットコドッコイ共。お前ら、俺に滅多切りにされてーのか……?」
もう、いいや。ここはサクッと強硬手段に訴えるか。
わざわざドスを利かせた低音ボイスで、十六夜片手に睨んでみれば。ようやくゴクリと唾を飲み込んで、大人しくなるスットコドッコイ共。……ったく。俺がここまでしなくても、いい大人なんだから、きっちり協力しとけ。
「そ、そんなに怒らないでくださいよ、マモン……」
「それでなくても、君はタダでさえ、目つきが悪いんですから……」
「そーそー。睨まれたら、ベルちゃん怖〜い」
「あぁ⁉︎ だったら、トットと役目を果たせや、このクソッタレが! 余計な事言ってると、冗談抜きで叩っ斬るぞ⁉︎」
「は、はいぃぃ!」
「分かりました、分かりましたよ! 今すぐ、取り掛かりますって!」
「……仕方ありませんね。ここは私も協力してあげます」
若干1名、相変わらずの上から目線みたいだが。今度こそキッチリグラディウスさんを引き摺り下ろさなければならないのは、それぞれに理解していると見えて、ようやくまとまった話ができるものの……。
(……若は相変わらず、苦労続きよの。ここまでくると、一種の呪いじゃな)
「……かもな」
結局、俺の苦労人ポジションは変わらないんだな。呪いのスペシャリストな妖刀・十六夜にまで慰められたら。いっその事、この気運は呪いなんだと割り切るしかないのかも知れない。