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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−42 生々しい同類意識

「さて……と。ルシエルに、若造。悪いのだが……お前達には、特別任務を課さねばならないようだ」


 マモンとベルゼブブを見送った後の上空。ルシフェル様はいかにもバツが悪そうに首を振ると……手元のパネルを示して見せる。「これを見てみろ」と言われたので、素直にハーヴェンとパネルを覗き込むと。そこにはいつの間に収集されたのか定かではない、大量かつ貴重な情報が羅列されていた。


「えぇと……うん? この情報源は……あぁ、そういう事。ルシエルちゃん2号、無事に本体に潜入できたんだな。それで……ふむふむ? 向こうで機神族らしき何かに出会った……だって?」


 ……なるほど。ベルゼブブはこんな所にもしっかり、細工を施していたのだな。

 ルシフェル様のパネルには続々と2号が収集したデータが送信されてきており、最新データによれば……グラディウスの中枢は死神の頭頂部に鎮座しているらしい。だが……やはりと言うか、何と言うか。図面を見る限りでも、易々と突破できる場所でもなさそうだ。


「であれば……その機神族を捕まえて、安全なルートを吐かせるのが手っ取り早いと……?」

「……そうなるな。しかし、ルシエル2号の観測結果では、相手はタダの機神族ではなかろうとのことで……彼女の話からするに、アリエルが新たに生み出した魔法生命体の一種のようだ……」


 アリエルが生み出した、魔法生命体。その言葉に、ツッと嫌な汗が背中を伝う錯覚に陥る。そして……恐る恐る、ルシフェル様の顔を盗み見るが。やはり……ルシフェル様は苦虫を噛み潰したような、苦悶の表情を浮かべていた。

 おそらく、彼女もまた気づいているのだろう。女神に生み出された「始まりの天使」の前例からしても、アリエルが作り出した魔法生命体もまた、自分達と同じ手法を用いて作られたものであるということを。そのあからさまに生々しい同類意識は、マナの女神の不手際を知ってしまったルシフェル様にとっては、あまりに重い。


「……何と、愚かなことを……。生み出された側の苦悩は、アリエルとて存じている……いや。私以上に、知り尽くしているだろうに……」


 ……ルシフェル様と同様、マナの女神に作られたはずなのに、生まれてすぐに見捨てられたアリエル。そのアリエルが女神に昇華した挙句、今度はマナが始まりの天使を作り出したのを踏襲するように、新しい生命を誕生させている。そこにマナへの意趣返しないし、復讐心がないかと問われれば。間違いなく、答えは否……アリエルが「ここまでしてしまった」原動力こそがマナの女神との因縁である以上、魔法生命体の生誕は必ずしも喜ばしいものではないと思う。


 そもそも、アケーディアが律儀に報告を上げてきた時点で、アリエルの「今」についても最大限に考慮するべきだったのだ。アケーディアの記録では、彼の強固な拘束魔法を新たに生み出した神具で切り裂いた他、セフィロトと呼ばれている神の使いを果実に戻すまでの地位も備えているとの事だった。この現実からしても、彼女はマナの女神が作り出した神界の始まりを踏襲しつつある。


「折角、貴重な実験台を見つけたのです! 彼らを見かけたら、是非に報告を!」


 ……なんて、やや息の荒い一言まで添えられた彼の報告に誤りがなければ……アリエルは女神の能力でもある「神具」を新たに作り出す技能にも、目覚めたと思っていい。神具はそれこそ、女神の体の一部を媒介にしないと創造できない代物だ。そんな神具を自らの髪の毛で作り出したとなれば……アリエルは女神として完璧に覚醒してしまったのだろう。

 マナの伝説のその後を考えると……アリエルがどうなってしまうのかが、非常に気にかかる。神様が他にいるとは言え、原初のマナの女神はマナツリーの礎になった存在だ。……アリエルの未来も、この筋書きをなぞらなければいいのだが。


「……しかし、さ。そのアリエルさんって、確か……」

「えぇ。主人と一緒にダイダイホオズキを採取している際に……彼女とも遭遇しましたわ。そして多分、ルシエル様2号が遭遇したのは、アリエルが迎えに来ていた精霊じゃないかと……」


 そう言えば、そんな話もあったな。マモン達が別行動をしている時に、グラディウスの精霊らしきものと、その母親……アリエルとの邂逅があった、と聞き及んでいる。確かにディテールも一致しているし、アリエルが母親だとされている時点で、リッテルの言う「精霊」は2号が遭遇した魔法生命体と見て、間違いないだろう。どうやら……2号は想定外の重要参考人と、運よく接触できたみたいだな。


「あ、やっぱり……そうだったんだ? いや、マモンがさっきお嫁さんの同僚が大出世してて、面白くない……なんて、愚痴っててさ。だけど……あいつの見立てだと、どうも単純な出世でもなさそうだし。そのアリエルさん……大丈夫かな」

「……大丈夫ではなさそうです。主人曰く、アリエルの冠から非常に嫌な感じの魔力が漏れていたとかで……多分、もう手遅れだろうと申していました」

「……」


 マモンが何を感じ取って、そんな風に言ったのかは定かではないが。しかし、ベルゼブブならともかく……マモンの普段の様子からしても、見識や申告には嘘はおそらくないだろう。


(彼は、こんな時にふざけるタイプでもないだろうし……見立ての信頼性も十分、と言ったところか。しかし、だとすると……)


 意外と面倒見がいい上に、細かな気配りもそつなくこなす。そんな魔界の真祖をして、手遅れと言わしめるとなると……冗談抜きで、アリエルの「今」は絶望的な状況なのだろう。この場合、マモンの証言こそが嘘であってくれと思わずにはいられないが。いずれにしても……。


「……とにかく、私とハーヴェンの任務はロンギヌスのプログラムを完走させる事、でしょうか」

「あぁ、その通りだ。この様子だと、グラディウスまでは難なく辿り着けそうだが……」

「問題は潜入した後、ですね」

「……だろうな」


 グラディウスだけではなく、彼女が撒き散らした機神族の猛攻も相変わらず止んでいない。だが、ルシフェル様の言う通り、グラディウスまでは呆気なく到着できるだろう。

 何せ、こちら側も総力戦を見越して、精霊達や悪魔達に協力を仰いでいるのだ。竜族を始めとする、各界のトップクラスの精霊達に、真祖も含んだ魔界の上級悪魔達。見れば、上空を鮮やかに舞う竜族達がまるで羽虫を叩き落とすかのように、アッサリと機神族達を薙ぎ倒す姿が目立つ。それに……あぁ、あそこにいるのは、オーディエル様達やサタンじゃないか。神界最強を誇る排除部隊の戦闘軍団と、魔界最強と謳われる憤怒の軍隊ともなれば……降せない相手の方が少ないに違いない。


「そういう事で……ほれ、ルシエル。デバイスの機能を同期するぞ。……暫定処理になるが、ルシエルのデバイスもこちらの性能に合わせておいた方がいいだろう。2号からの情報はリアルタイムで受信できるに越したこともない」

「しかし、一時的とは言え……私のデバイスが天使長仕様になるのですか? 注意することがあれば、あらかじめ教えておいて欲しいのですが」

「ふむ……基本性能は大天使階級のモノとそうは変わりないが……強いて言えば、神界の全システムに対する強制終了権限もあるようだから、天使長メニューには触れぬように頼む。とは言え……まぁ、普通に使う分には問題なかろうし、ルシエルが悪用するとも思えん。私の方は何も心配しておらぬし、大丈夫だろう」

「さ、左様ですか……」


 ルシフェル様、それ……ちっとも大丈夫じゃありません。うっかり変な所を触ったら、大惨事じゃないですか。ルシフェル様はあっけらかんと、非常に恐ろしいことをおっしゃるが……それこそ、嘘であって欲しい。

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