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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−40 神様よりはマシな気がするの

 内部情報として、搭載された地図。そんなありがたい図面が示すダクトを避け、ベルゼブブの魔法道具・ルシエルちゃん2号こと、プログラム経路探査機はまんまと本体への潜入を成功させていた。遠い彼女の背後からはガラガラと何かが崩れ落ちる音が、大袈裟に鳴り響いたきり。……その後にやってくるのは、不気味なまでの静寂しかない。


(こうも静かだと、心細いですね……)


 それでも、ルシエルちゃん2号は違和感に耐えながらも、前へ前へと進む。天使の羽というのは、相当に優秀な魔法道具材料になり得るらしい。たった3枚でも、組み込み方によっては柔軟な判断だけではなく、生命維持に必要な感情までの獲得を可能にするのだから。


(この先に進んだ方がいいのでしょうけれど、嫌な予感がしますね。しかし、私にはジャミングを解除する手段はありません……)


 しかしながら、彼女達にはいわゆる「魂」は搭載されていないし、肉体に紐づく魔力の器がある訳ではない。そのため、魔法の行使は魔法道具としての性能にどこまでも準拠する。つまり……彼女達は魔法を新しく習得はできないし、柔軟な判断はできても、想定外に魔法で対処するという芸当は不可能だ。


(ふむ……あぁ、ここに抜け道があるのですね。そして……)


 魔法を使えないなら使えないなりに、システムが担保する頭脳をフル回転させて。ルシエルちゃん2号は抜け道の経路の先までをなぞり始める。図面を見る限りは幸いにも、「神様の玉座」まで繋がっている経路があるらしい。ダクトの中を通れば、魔法道具でしかない彼女は途端にグラディウスに取り込まれてしまうだろうが……さもありなん。何かと計算高いベルゼブブが、対抗策を仕込んでいないはずもなし。彼女には指輪はないにしても、ちょっとしたお守り代わりの「道しるべ」が繋がれていた。


(よし……まだ、鎖は切れていませんね。そちらの調子はいかがですか? 天使長2号様)

(問題ないぞ、大天使2号。元のアンカーは崩れてしまったが……幸いにも、通信内容は無線で1号のパネルに飛ぶようになっている。収集した情報は逐次送信しているから、お前の努力が無駄になることは断じてないぞ)


 首筋の通信機を撫でながら、頼もしい「同類」の声に耳を傾けつつ。ルシエルちゃん2号は意を決して、玉座へと続く経路を進む。時に匍匐前進になりながら、時に身を捩らせながら……そうして、更に内部へと進んだ所で、不意に少しばかり広めの廊下に出てしまったが……。


(困りましたね……見取り図には、こんな廊下の表記はありません……。だとすると、私が持っている情報は古いということになりますか……おや? あれは……?)


 さてどうしたものかと、悩ましげな視界にポツリと映るのは、ややメタリックな肌を持つ幼児らしき何か。テトテトと頼りなさげな足取りで向こうからやってきたかと思えば……彼女の方も、ルシエルちゃん2号に気づいたらしい。せっかく進めていた足取りを、その場で竦ませるが……。


「あ、あなた……誰?」

「えぇと……私は先程誕生した魔法生命体のようでして……。う〜ん、とは言え、よく分からないのですよね……。なにせ、気づいたらこの状況ですし……」

「そうなの? だとすると……あっ、そっか! グラディウスの魔力に触れて、新しく作られた機神族じゃないかしら! だったら、お友達……いいえ、仲間ね!」


 おそらく、こちら側を味方だと勘違いしたのだろう。アッサリとルシエルちゃん2号を「お友達」だと認めては、目の前の幼児が嬉しそうにはしゃぐ。どうやら、この場は荒事にもならずに済んだようだ。


(それにつけても、咄嗟に誤魔化したのは良いものの。なんだか、後ろめたいですね……)


 もちろん、ルシエルちゃん2号は新しく誕生した機神族ではない。そして……グラディウスの尖兵でもない以上、少なくとも「仲間」ではないだろう。


(とは言え、お友達にはなれるかも知れませんね)


 これ幸いと喜ぶべきか、はたまた不幸と苦笑いするべきか。奇しくも、ルシエルちゃん2号のボディはオリジナルよりも更にコンパクトになっており、外観は目の前の幼児とほぼ変わらない。しかも、お互い無機質な肌に覆われているものだから……同族意識に駆られるのも、無理はないのかも知れない。


「ねぇ、実は……ちょっと手伝って欲しいことがあるの。一緒に来てくれない?」

「お手伝い……ですか? しかし……」

「ちょっとでいいの! 私1人じゃ、難しい内容なの。でね……」

「ですから、まだお手伝いすると言っていな……」

「いいから! こっちに来て!」

「あっ……!」


 名乗りもしない幼児は勝手に話を進めては、やや強引にルシエルちゃん2号に「お手伝い」をさせるつもりらしい。それでも……彼女の話から捨て置けない内容も拾い上げては、このままお手伝いを敢行した方がいいかと思い直すルシエルちゃん2号。それもそのはず、彼女……ようやくラディエルと名乗った……は神様の懐からやってきた、グラディウスの尖兵。ルシエルちゃん2号が知り得ないグラディウスの最新情報も持ち得ていれば、神様の玉座までの「安全なルート」も知っていると見ていい。


(……これはこのまま利用させて頂くのが、賢い選択ですか? しかし……やっぱり、後ろめたいですね……)


 小さな手に、小さな手を引かれ。果たして、ラディエルがどこに行くつもりなのか、ルシエルちゃん2号には分かるはずもない。しかしながら、ポツリポツリと彼女が呟く「事情」にはありありと、彼女を取り巻く歪な箱庭の姿も浮かんでくる。


「……私、ね。マミーを助けたいの。本当は、グラディウスを捕まえている仕掛けが何なのか、調べてこいって言われたんだけど。……でも、もしかしたら……」

「仕掛け人を見つければ、あなたのマミーを助けられるかも知れない、と?」

「ウゥン、そこまでは分からないわ。だけど……力を貸してくれるかも知れない。少なくとも……どんな相手だって、神様よりはマシな気がするの」

「……」


 ルシエルちゃん2号のデータベースには、「グラディウスの神様」に関するデータはない。そのため、神様のディテールに関しては、ラディエルの言い分をそのまま飲み込まざるを得ないのだが。それでも……繋がれた手から伝わってくる焦りは本物のような気がして。一旦はこのまま「情報収集」に同行するのも悪くないと、ルシエルちゃん2号は密かに思い始めていた。

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