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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−36 余計な心配もてんこ盛り

「ターゲットの切り替えも、ちゃっかりやったみたいだね。だけど……そろそろ、限界かなん? ハニー2号、まだ行けそう?」

(私を誰だと思っている! この程度のことを遂行できずして、天使長の2号を名乗ることはできん!)


 ……天使長2号を名乗るって、なかなかにワンダフルなお答えだけれど。だけど、それ以上に気になるのは……嫁さんとベルゼブブの不安そうな表情の方だ。2人して祭壇のパネルを見つめながら、険しい顔をしているが……大丈夫なんだろうか?


「そっか。だったら、もう少し頑張ってくれるかな〜ん?」

「しかし、ベルゼブブ様。……このままで大丈夫なのですか? ここのエラーメッセージは明らかに……」

「あっ、やっぱり……この赤文字はエラーなんだ?」


 うん、大丈夫じゃなかったみたいだな。ルシエルがパネルの赤文字を示して言う事には……どうやら、プログラムの通信経路が所定外のポートに接続され直してしまったらしい。遮断されてしまうよりは遥かにマシなようだが。予定外の場所に打ち込まれた場合、プログラムの完遂も期待できないのだとか。


「ふぅ……あんまり、いい方法じゃないんだけどね。仕方ない。……ハニー、悪いんだけど。さっきの複製魔法、もう1回お願いできる?」

「あ、あぁ……無論、それは構わないが。しかし、何を複製するつもりだ?」

「……2号を複製して欲しいんだよ。頼める?」

「はっ? 2号を複製……だと?」


 ルシファー2号はいわゆる「魔法道具」にカテゴライズされるため、当然ながらマテリアルレプリケイトで複製可能なモノらしい。でも……確かこの魔法って、複製できるのは素材部分のみだったような。魔法道具の効果まではコピーできなかった気がする。


「で、ルシエルちゃん」

「は、はい……承知しました。今度は私の羽が必要なのですね?」

「おぉ! 流石、ハーヴェンのお嫁ちゃん! 話が早くて助かるぅ〜! という事で……羽を3枚くらい、プリーズ!」

「で、ですが……その」


 ちょっと待て。まさか……お前はルシファー人形だけじゃ飽き足らず、嫁さん人形まで拵えるつもりか? そんでもって……俺の可愛いルシエル(お人形)相手に、何をするつもりなんだ……?


「グルルルル……!」

「うんうん、分かっているって。ルシエルちゃんの羽を使う理由は、プログラム解読の知識とロンギヌスの所有情報が必要なだけであって、姿をコピーするためじゃないから。それに、ハニーはともかく……ルシエルちゃん人形を作ったりしたら、今度こそ触覚を引っこ抜かれちゃうかも知れないし。だから……もう、ハーヴェンもそんなにおっかない顔、しないでよ〜」


 おぅ、よく分かっているじゃないか。そんなことをしたら、触覚を引っこ抜くと同時に、料理も2度と作ってやらないからな?


「……ハーヴェンもつくづく、苦労するな。親玉があの調子じゃ、余計な心配もてんこ盛りだし」

「あっ、分かってくれる? そこんトコ、分かってくれちゃう?」

「あぁ、よく分かるぞ。ま、それはそうと……何かあったら、遠慮なく相談しろよな。ヤツの触覚を引っこ抜いて、翼を落とすくらいのことはしてやっから」


 おぉ。やっぱり頼るべきは、自前の親玉じゃなく、デキる真祖様ナリ……と。


「うん、その時はよろしく頼みます」

「任せておけ」

「って! ハーヴェンにマモンも変な事、言わないで! そんな事、絶対にしないからぁ!」


 どうだろうな? ベルゼブブの「絶対」程、信用できないものはないんだけど。

 それはさておき……お仕事にはすぐに取り掛かった方がいいのは、ここにいる全員の総意なワケで。文句を言っている場合ではなかろうと、素直にルシファーが2号様(鎖状態じゃなくて、ローブ姿の方)を複製し、こちらも素直に羽を引っこ抜いて献上するルシエル。彼女達から「材料」を受け取ったベルゼブブは、これまたなんとも言えない笑顔をニチャァと浮かべ、魔法道具錬成に入り始めた。しかし……。


「じゃじゃーん! 完成、完成したよ★ 名付けて、ルシエルちゃ……フゴッ⁉︎」


 ルシエルちゃん2号(仮称)のお披露目前に、ルシファーの鉄拳がベルゼブブの左頬に炸裂する。やっぱり、ベルゼブブの「絶対」は信用ならなかったなぁ……。そんでもって、お仕置きも確定なんだよなぁ……!


「貴様は何をやっているのだ⁉︎ これはどこをどう見ても……」

「ルシエルじゃないか! こんのクソ悪魔……! よくも、俺の可愛い嫁さんを……!」

「ちょ、ちょっと待ってって! ルシエルちゃんに似ているのは、たまたま……というか、羽を使った時点で仕方ないんだよ! 自由意志を搭載しようとすると、どうしても供給源の面影がでしゃばるんだって!」


 あっ、そうなんだ? そういう仕組みなら、仕方ない……のか?

 ルシエルの場合、ルシファーみたいな等身大サイズは免れたみたいだが。どこぞの宗教画に出てきそうな「恋のキューピッド」的なディテール(しっかり薄着姿)がイヤに眩しい。しかも、幼女体型の再現度もひたすら忠実。いくら材料の供給源に姿が引っ張られるからって、ルシエルの地雷を踏みに行かなくてもいいだろうに……。


「……どうして、私はチビサイズなのですか?」

「えっ?」

「嫌味ったらしく、コンパクトに作る意味はないですよね?」

「えぇと……実はルシエルちゃん2号は、神様の玉座向けに改良したものでね。……魔力経路のジャミング部分を掻い潜って、潜入してもらう狙いもあるんだよ。だから、わざわざコンパクトにしてみたの」

「へっ? そ、そうだったのですね……」


 なるほど。面影が似てしまう理由は大概だが……ルシエル2号が小ぶりなのは、潜入任務も見越してのことか。

 確かに、元々ルシファー2号は封印された空間から脱出するために作られた魔法道具であって、ロンギヌスへの支援効果はおまけ(というよりは、ベルゼブブが勝手に仕込んでいた)でしかない。だが、さっきの話だとロンギヌスを打ち込まなければならない場所は、もう1箇所……神様の玉座も含まれると考えられる。きっと、神様の玉座側はすんなりと辿り着ける状況でもないだろう。何せ……今の神様は俺達のいる空間を切り離そうとしている。それはつまり、残された主要部分は魔力経路も一緒に遮断することで、守るつもりでもいるということだ。……易々と俺達を迎え入れてくれるとも思えない。


「早速で悪いんだけど、ルシエルちゃん2号。……ポートが繋がっているうちに、経路を辿ってくれる?」

「承知しました。……では、行って参ります」

「うんうん、頼んだよ。……本当はこんな事、させたくないんだけどね。場所が場所だから、万が一があっても助けに行けないかも知れないし……」

「いいえ、問題ございません。世界の安寧のためならば、多少の無理は仕方がないというもの。この身1つで済むのでしたら、お安い御用です」


 ……どうやら、嫁さん2号は(言い方は悪いが)使い捨てみたいだな。真面目で丁寧な態度はオリジナル譲りのご様子。さも当然と、首元に何かの通信機を取り付けた後は、嫁さん2号が飛び立っていくが……下手にコンパクトになった分、なんだか子供を使っているみたいで気分が非常によろしくない。しかも……。


「さて……と。ここから先はハニー2号に任せて、僕達も撤退するよ」

「な、なんだと? ここに……2号を置き去りにするのか⁉︎」


 あぁ、そうなるんだ。ルシエル2号だけじゃなくて、ルシファー2号も捨て駒にせざるを得ないのか。


「仕方ないでしょ? このままプログラムを走らせていたら、きっと逃げ遅れちゃうよ。それに……」

「……プログラムの進捗率が96%から一向に進みません。残りの4%のプログラム適用は、どこかで再施行しないといけないようです。……ロンギヌスの反応も微弱なため、このまま試行していても、完遂できないものと思われます」


 明らかにやるせないと言いたげな表情で、首を振るルシエル。そうして、アッサリとロンギヌスを手元に戻すと、静々と俺の所に戻ってくる。彼女によれば……プログラムの命令投入はとっくに済んでいるはずなのに、どうしても進捗率が100%までに到達しないらしい。そうなれば、ロンギヌスを挿したままにしておく理由もないそうだ。


「……そう、か。ならば、仕方あるまいな。して、2号。すまないが……」

(無論、最初から承知していたさ。……私はどこまでも、魔法道具でしかない。自我を持ち得ているとは言え、使い捨てて構わぬ存在なのだよ。……お前達の未来の礎になれるのなら、これ以上の本望もあるまいて)

「くっ……! 本当に、すまない……! このルシフェル、お前のことは絶対に忘れないぞ……!」


 悔しそうに涙を飲むルシファーの背を、ベルゼブブがヨシヨシと優しく摩っているけれど。いや、その前にだな。そもそも、お前がこんなにも再現率が高いお人形を作ったのが、いけないんだろうが。原料の都合上仕方ないとは言え……ちゃっかりお嫁さんの好感度も稼いでいるのが、俺としては妙に納得できない。いつもながらに、ベルゼブブはずる賢いマッチポンプを作るのも、お手の物だよなぁ……。

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