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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−34 ツンツン加減は想定外

 ベルゼブブの意味ありげな笑顔が恐ろしい、今日この頃。軽過ぎるノリで何かと軽視(軽蔑とも言う)されがちな親玉ではあるが、これでかなりの実力者でもあるわけで。しかも、悪知恵の稼働率も随一だと、ひっそり思い直していたんだけど……。


「お前の気色悪い顔は見飽きたぞ。勿体ぶらずに、サッサと説明せんか」

「ゔっ……ハニー、さっきから辛辣ぅ! もぉ、そんなにツンツンしなくてもいいでしょうに……」


 デビルスマイルをお嫁さんに「見飽きた(気色悪いと散々な言われよう)」と切り捨てられ、旦那生命もピンチっぽいベルゼブブ。まぁ、ルシファーを伴侶に選んだ時点で、竜族も真っ青の超ハードモードに突入していると思うし。こうなると、さっきまでの得体の知れない恐ろしさも、妙に霞んだ気がするぞ。


「仕方ないなぁ。それにしても……ハニー2号のコスチューム、そんなに気に入らなかったのぉん?」


 いや、勘所はそこじゃなくてな……なんて注釈はいらないか。恐れ多い天使長を前にしても尚、悪趣味を展開できる親玉の図太さは、俺からすれば驚嘆に値する。その1点だけでも十分に恐ろしいな。……色んな意味で。


「ところで、ルシエルちゃん。命令文がどんな風に変化したか、一応答え合わせしよっか?」

「答え合わせ……ですか?」

「うん。何となく、どんな命令に書き変わったか……これでもアタリは付けているんだよ」


 どんな風に変化をしたのか「教えて」……じゃなくて、「答え合わせ」ときたか。となると、やっぱりベルゼブブは2号様を構築した時に、それなりの仕込みもしていたみたいだな。……奴がどうしてそこまでの気を回せるのかは、俺にはサッパリだけど。きっと、仕込みをしようと判断したキッカケがあったのだろう。


「多分、命令文の形式が書き変わっているでしょ? まず、修正対象はローレライではなく、グラディウスへと。そんでもって、ただ強制的に数値を書き換えるものじゃなく、状態変化も加味する内容になったんじゃないかな〜ん?」

「その通りです……。当初、プログラムはいわゆる“宣言型”……要するに、数学的にローレライのステータス数値へ介入することで、異常値を通常状態のローレライのステータス数値へを修正する内容が組み込まれていたようです。ただし、ここにはヴァルプスの自由意志による臨時の判断を組み込むバッファ値が設定されているようでしたので、最初からプログラムが柔軟に変化する……つまり、“命令型”としてコマンドを発令することも設定されているものかと」


 ……俺には嫁さんとベルゼブブの会話の意味が、殆ど分からないんだけど。嫁さんの言葉尻からするに、プログラムの遂行具合は想定内と見せかけて、想定外でもあったのだろう。

 彼女の言う“宣言型”と言うのは、淡々と数値を処理するだけのプログラムを示すらしい。一方で、“命令型”と言うのは、実数値への処理以外にも作用するものだとかで……計算式枠外の状態さえも勘案して、結果を弾き出す事ができるっぽい。うーん、と。それはつまり、数値外の異常事態にも反応できる……ってことなのかな?


(ゔ……やっぱり、よく分からないぞ? えぇと……これはあれか? 塩と胡椒だけじゃ物足りない時に、隠し味を使って工夫する感じか?)


 なんか、俺の解釈は方向性が違う気がする。それでも、自分なりに考えてみた感じだと……いつも通りのレシピで作った料理でも、食べる側の体調や味覚の変化によって、違う味に感じることがあるのに近いのかも知れない。分量通りに作ってみても、きちんと美味しく召し上がっていただくには、食べる側の状況(主に体調)も気にかけてやらねばならない。そんな感じが「宣言型」と「命令型」の違い……だと思っておけばいいか?


「ま……変化するべき内容が変化しなかったのは、予想の範囲内だぁね。ヴァルプスちゃんがハニー達の無知さ加減に失望してから……天使ちゃん達との仲が険悪だったの、知ってたし。彼女の天使に対する反抗心は、プログラムの中で燻っていたんだろね」


 そうして、俺があれやこれやと知識不足の脳みそをこねくり回していると。ベルゼブブの口から、いよいよ穏やかじゃないフレーズが飛び出した。「プログラムが変化しなかった理由」はヴァルプスちゃんの「天使に対する反抗心」。その言葉に、ルシエルだけじゃなくて、天使様方のお顔が残らず暗い表情に早変わりする。……どうやら、ベルゼブブの示した理由はかなり根深い上に、天使様達には身に覚えがあり過ぎる内容っぽい。


「そういう事か。ロンギヌスに組み込まれたプログラムには、ヴァルプスの残留思念も残っておったのだな? それで、敢えて私の羽を利用して……ヴァルプスの意思に左右されない、別の自由意志を2号に搭載したのか」

「ま、そんなとこかなーん。でも……命令文まで上書きし始めるなんて、思いもしなかったけど。トライ&エラーは実施するにしても、情報収集までで留めると思っていたんだよねぇ。なにせ……失敗したら、修復不能まで行っちゃうかも知れないし」

「しかし、この様子だと……2号はうまくやっているという事なのだろう?」

「多分ね。ハニー2号はそれなりに素直に作ったつもりだから。何かあったら、すぐに報告してくれると思うよん?」


 でも、2号のツンツン加減は想定外だったかもぉ……なんて、相変わらずおちゃらけた空気を崩さないベルゼブブだが。コイツ、自分がどれだけ重大なことをやってのけたのか、分かっているんだろうか……。この雰囲気さえなければ「ベルゼブブ様、凄い!」と、手放しでチヤホヤしてもらえるのになぁ……。


「ヴァルプスちゃんの信念はどこまでもローレライを守るものであって、今の世界を守るためのものじゃなかったみたいだからね。彼女、最後の最後までローレライに執着していたみたいだし。もし、今のグラディウスの霊樹としての方向性が一致していた場合……ヴァルプスちゃんの意思はローレライの正常化と同時に、グラディウスの存続を選んじゃうかもね〜」


 ……しかも、重要なことを軽々しくサラリと言いやがるし。うん、本当に色々と勿体ない。


「ま、それはともかくとして。バルちゃんの鱗を混ぜ込んだのは、もちろんルートエレメントアップへの介入と効果補強が目的だけど。機神族化したバルちゃんの精霊名は、他ならぬヴァルプスちゃんが付けたものだしね。スヴィパル……その意味は“姿を変える者”、だったかな。きっと、ヴァルプスちゃんはバルちゃんにかなりの柔軟性と汎用性を見出していたんだろね」


 飽きもせず、尚もサラリサラリと重要な事を(アテ推量なりに)吐き出すベルゼブブ。こういう時、コイツの知識はどっから来るんだと、勘繰ってしまうものの。……それがダークラビリンスによる副作用だと思い至ると、今度は別の意味で恐ろしい。どれだけの相手を、知識ごと食ったんだ……ウチの親玉は。


(伊達に何千年も暴食の真祖をしていない、って事か。しかし、こうも多方面に意地汚いと……付いて行くのも一苦労だな……)


 とりあえず、今はそんな事に怯えている場合じゃないか。

 2号様が「姿を変えた」純白の鎖は、バルちゃんと呼ばれる機神族化した魔法道具由来のディテールらしい。どうも、その「バルちゃん」の主成分には例の「ヨルムアイ」が含まれていたそうで、ギルテンスターンさん由来のルートエレメントアップへの介入を叶えると同時に、感情のコントロールをも「それなりに」叶えてくれるものなのだとか。

 なお、「それなりに」という注釈が入ったのは、他でもない。そのバルちゃんの概要を知るベルゼブブ……延いてはバビロンやアケーディアから見た彼の言動がやや軽薄だったため、そこまでの感情はフラットにできていなさそう、と言う結論になったからだそうで。


(うん? だとすると……そのヨルムアイの出所はどこなんだ?)


 チラとすぐ隣のマモンを見やれば。彼の腰周りにはプカプカと浮かぶ鞘が5振り、従順な様子で控えている。そんな顔ぶれの中、青い鞘に預けられている瞳の輝きに……マモン分のヨルムアイはまだ健在だという事は確かめられるものの。しかし、他に現存しているヨルムアイは確か……。


(脆い石だから魔界に現存するのは2つ……だったな。だとすると、バルちゃんが取り込んだのは……)


 自動的にプランシーに預けられていたヨルムアイ……サタンが奇跡的に所有していた方、という事になる。

 プランシーが持っていたヨルムアイが、どうしてバルちゃんの栄養源になったのか。その経緯は俺にはよく分からないし……もう、知る必要もないのかも知れないけれど。彼が今どんな思いで、どんな事を考えているのだろうと想像すると……キュッと胸が痛むのは、どうしてだろうな。

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