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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−33 その辺りもお見通し

「なんだか、騒がしくしてごめんな」

「いや、マハ様があんなに喜んでいらっしゃったのだ。屋敷で多少騒がれるくらい、どうってことないさ」


 クロヒメを嬉しそうに頭に乗せて、飛び立っていったマハを見送った後の応接間。奥さんがいつものように、お茶を用意してくれるけれど。ご迷惑をかけたついでに、お茶までご馳走になって、いいもんだろうか?


「それにしても、ハーヴェン様。先日のケーキ、ご馳走様でした。私、あんなに綺麗なケーキを頂いたの初めてで、とても感激いたしましたわ!」


 おっ。ケーキは好評だったみたいだな。


「しかも、とっても美味しくて。……4人で頂いたんですけど、あっという間になくなってしまいました。本当に、素敵なお菓子をありがとうございました」

「そか。気に入ってもらえて、何より」


 しかし、4人で、って……。ケーキを持たせた時のやり取りである程度、想像はできていたけど……結局、子供達も分けてもらえたんだな。


「もちろん。私も頂いたが、とても素晴らしい味わいのケーキだった。本当にありがとう。ハーヴェン殿が料理好きだとはエルノアからも聞いていたが。あれ程まで完成度の高いケーキを作れるとは……エルノアがハーヴェン殿のデザートに大喜びするのが、よく分かった気がしたよ」

「それはよかった。でな、魔法の扱いのこともあるし、ゲルニカの屋敷の鍵はギノに預けてある。子供達だけで遊びに来ることがあるかもしれないが……構わないだろうか」

「えぇ、もちろん構いませんわ。エルノアにとっては我が家でしょうし、ギノ君にもそのつもりで帰ってきてもらえるのであれば、私としてもこれ以上に嬉しいことはございません」

「私も、子供達の顔を見られるのはとても嬉しい。それに、万が一の避難先としてこの屋敷を使うこともできるだろうし……そういう意味でも、ギノ君が持っている方がいいかもしれないな」


 ゲルニカはその辺りもお見通しか。最近、何かと色々と面倒ごとが多くなってきたことを肌で感じていた俺は、ルシエルもいない時に、この子達を単独で守るにはどうすればいいか考えたことがあった。

 それでなくても、エルノアとギノの姿は一発で精霊と分かってしまう特徴を残しすぎている。天使さえも「材料」にされるような事態になっている以上、場合によってはこの子達だけでも逃す手段として……ゲルニカの屋敷の鍵を持たせておくことにした。しかも、ギノはしっかり者だ。おそらく、場合によっては俺よりも的確に場の空気を肌で感じて、判断できるだろう。


「人間界は結構、物騒でな。場合によってはゲルニカの言う通り、緊急避難先になるかもしれないけど、その時も改めてよろしく頼むよ」

「もちろんだ。……エルノア、ギノ君。そういう事だから、いつでも遠慮なくここにおいで。どんな時でも、父さまも母さまもお前達の味方だから。何か困った事があったら、帰ってきなさい」

「はい。僕達もルシエル様やハーヴェンさんにご迷惑がかからないように、できることをします」

「うん! 私も頑張る!」


 俺達に迷惑をかけないように、か。相変わらず、ギノはギノで大人の事情を飲み込みすぎているから、心配になる。何かがくっきりと刻み込まれたような気遣いが、彼に窮屈な思いをさせていないといいのだが……。


「さて、今日は散々騒いですまなかったな。で、ちょっと他にも用事があるから……そろそろ、帰らないといけなくて」

「用事? それって、私達も関係ある?」


 あ……そう言えば。引越しについて、エルノア達には話していなかったな。


「あぁ。ルシエルの監視区域が変わってな。ローウェルズに引っ越すことになりそうなんだ。で……新しい家を見つけなければいけない、と」

「お家……ですか?」

「おぅ。今の家よりもちょっと広い家を探そうと思っててな。と言っても、街の中に家を買う事はできないから、今の家と同じような森の中で探すことになるんだけど。それを適当に、魔法で時間の巻き戻しをして、使おうと思っている」

「時間の……巻き戻し?」

「闇属性の補助魔法にタイムリウィンド、という魔法がある。この魔法はその物質が経過を経験した時間の中から、任意の1コマを選んで復元することができる魔法だ」

「凄く便利な魔法ですね。そんな魔法があるんだ……!」

「ただ、便利な分、発動条件がメチャクチャ厳しくてな。まず対象は無生物である必要がある。もともと生き物だったもの……つまり死んでいるものも対象には含める事はできるが、命自体の蘇生はできない。だから復活魔法としては使えない。更に対象自体の質量を70%以上残している必要がある。つーことで、半分吹き飛んだ家や家具なんかは復元できない。……後はなんだったけな?」


 俺がう〜ん、と首を捻っていると。ゲルニカが横からサクッと補足してくれる。


「後は、遡上させる時間の長さが長いほど魔力消費が大きくなる事、そして……一度発動させることができれば効果は永続的に発生するが、欠損部分が出て質量を70%保てなくなった場合は、魔法の効果が即座に消失すること。また、対象の物質がある程度の年月を復元先の形の状態で存在している必要がある。……発動条件が厳しい上に、構築の概念も難しくて……何より、魔力の消費量も桁外れに大きい。……かなり上級者向けの魔法だ」

「おぉ、流石はゲルニカ」

「いや、口を挟んですまない。……にしても、ハーヴェン殿も流石だな。タイムリウィンドはそれこそ、最上位魔法に匹敵するレベルの魔法だろう? そんな魔法を使える時点で、只者ではないという事だと思うのだが」

「う〜ん、只者ではないは、どっちかって言うとゲルニカの方が、って気がするけど……まぁ、こう見えて俺、本性は上級悪魔なんでね。……ということで、そんな魔法を使って新居を探そうというわけだ。お前達も住むことになる家だから、一緒に探そうな?」

「うん! 私も一緒に探す! で、可愛いお庭があるお家に住みたい!」

「僕も一緒に探して……魔法が発動するところを見てみたいです!」

「おいらは、お頭と姐さんのお側であれば、どこでもいいでヤンす」


 新居に興味が向くエルノアと、魔法に興味が向くギノ。そして……妙に殊勝なことを言うコンタロー。今日は色々と、コンタローの成長が垣間見られた気がする。


「そういうことで、今日は一旦、お暇するよ。今後とも色々と世話になると思うが、よろしくな」

「あぁ、もちろん。いつでも来てくれ」

「私もいつだって歓迎いたしますわ。是非に第2の我が家と思って、お気軽にお越しくださいまし」


 騒がしくしたら、騒がしくしただけで……大した話もできなかったが。そんな迷惑をかけ通しの俺達相手でも、いつものように柔らかく見送ってくれるゲルニカに奥さん。この様子であれば……どんなことがあっても、いざという時もきっと、快く助けてくれるだろう。

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